■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ライリー
ルーク
■台本
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。そんな私も引退をして、プライベートでリゾートの洋館へ訪れていたのだが……。どうやら、事件は私の引退を許さないらしい。既に二人が殺されてしまった。その二つの事件は共に不可能な殺人。つまり、時間的密室を作り出されていた。時間的密室。つまり、殺しをする時間がどうしても足りない。おそらく、犯人はなにかしらのトリックを使ったのだろう。私は今、そのトリックを暴くため、そして、第3の犯行を防ぐために、ここに座っている……」
ルーク「……さん。ライリーさん!」
ライリー「ん? ああ、ルークくんか。すまないね、考え事をしていたんだ」
ルーク「この補聴器、ライリーさんのですか?」
ライリー「ああ、すまないね。ありがとう」
ライリーが補聴器を耳に着ける。
ルーク「それで、どうですか? 謎は解けそうですか?」
ライリー「はは。そうそううまくはいかないさ。これは計画的な犯行だ。犯人はかなり、考えた上で計画を立てている」
ルーク「名探偵と呼ばれた、ライリーさんでも難しいんですか……」
ライリー「はは。そう、暗い顔をするな。私が必ず、犯人を捕まえてみせるさ」
ルーク「はい、楽しみにしてます」
ライリー「そういえば、ルークくん。君はこんな夜更けに何をしているのだい? 私は部屋を出ないようにと言ったはずだが」
ルーク「いえ。ライリーさんの手伝いをしようかと」
ライリー「私の手伝い?」
ルーク「ああ、いえ、考えていただく時間を作るというか……。とにかくですね、見張りを交代しようかと思いまして」
ライリー「ありがとう。だが、大丈夫だ」
ルーク「寝不足では考えもまとまらないのではないですか? そんなことでは解ける謎も解けませんよ?」
ライリー「……ふむ。確かに、私ももう若くないからな。実は言うと少し辛かったんだ」
ルーク「僕がライリーさんの代わりにここに座って、見張りをしておくので、どうぞ寝てください」
ライリー「では、お言葉に甘えて、30分ほど仮眠を取らせてもらうよ」
ルーク「え? 30分ですか? もっと寝ていても大丈夫ですよ?」
ライリー「いやいや。30分も寝れば、頭の冴えも戻って来るんだ。じゃあ、頼んだよ」
ライリーが歩いて、ドアを開け、部屋に入る。
ライリー「……私も年だな。一晩の徹夜もできなくなってしまったとは」
ドサリとベッドに倒れ込むライリー。
ライリー「では、30分ほど寝かせていただこう……」
時間経過。
ドンドンドンとドアが叩かれる音。
ルーク「ライリーさん! 起きてください! ライリーさん!」
ライリー「ん? ……まだ25分しか経ってないようだが」
ルーク「また、犠牲者が!」
ライリー「なんだって!」
場面転換。
ライリー(N)「またしても、時間的な密室状態を使っての犯行だった。部屋も荒らされていないし、凶器も見つからない。被害者と犯人はおそらく顔見知りだろう。だが、この洋館に集まっている人たちには共通点が見当たらない。おそらく、私の知らない裏の事情があるのだろう。それを突き止めるのは難しい。……だが、しかし。犯人は致命的なミスを犯した。普通の人間なら見落としてしまうほどの些細なミス。これで、犯人は一人に絞られた」
場面転換。
ルーク「ライリーさん。全員、集まっていただきました」
ライリー「ご苦労様。おほん! では、この事件の真相をお話します」
ルーク「解けたんですか!?」
ライリー「ええ。気付いてしまえば、単純なことでした。私にそのことを気づかせてくれたのは、第3の犯行でした。あれは、私が起きていた時に行うことは不可能です」
ルーク「どうしてですか?」
ライリー「私が昨夜、座って見張りをしていた場所は、全員の部屋のドアが見える。誰かが部屋から出れば、一発でわかります」
ルーク「……ですが、その……ライリーさんが見落とした、ということはないんですか?」
ライリー「なるほど、このおいぼれの目は信用できないと?」
ルーク「いえ、そういうわけでは。僕は単に、見落とす可能性もあるのではと……」
ライリー「気持ちはわかります。ですが、それはあり得ないのです」
ルーク「どうしてですか?」
ライリー「補聴器ですよ。これは特別製でしてね。これがあれば、どんな些細な音も拾い、知らせてくれるのです。例え、見逃したとしても、音で気付けるというわけですよ」
ルーク「な、なるほど……」
ライリー「では、話を戻しましょう。つまり、私が起きていたときの犯行は無理、ということです。見張りをしていたときは、物音一つしませんでしたから。なので、残る可能性は一つになります。それは……私が寝ているときです」
ルーク「……へ?」
ライリー「私は30分ほど、仮眠を取りました。そして、その間、見張りを代わっていただいたのです。……ルークくん。君にね」
ルーク「え? え? え? ちょ、ちょっと待ってください! 僕がやったっていうんですか?」
ライリー「見張りをしているあなたであれば、誰にも見られずに、犯行を行えます」
ルーク「いやいやいやいや! そんな単純な犯行じゃありませんって!」
ライリー「真実とは得てして単純なものです」
ルーク「えっと……その、じゃあ、共犯説はどうですか? 僕の気を逸らせているうちにもう一人が部屋を出て、犯行を行ったとか」
ライリー「もし、そんなことがあったなら、最初に言うのではないのですか? だが、君は何も言わなかった。つまりは、そんなことはなかった、仮に共犯者がいたとしても、黙っていた君がグルであることは明白です」
ルーク「それなら、共犯は誰ですか? わかってないんじゃないですか?」
ライリー「そんなことは、君を締め上げれば済むことです」
ルーク「じゃ、じゃあ、第一と第二の犯行はどうですか? 謎、解けてないですよね?」
ライリー「それも、君を締め上げればわかることです」
ルーク「例えば……この館には秘密の通路があるとか、考えられませんか? それを使えば誰にだって、犯行を行えるとか」
ライリー「仮に、そんな通路があったとして……持ち主である君が知らないわけはない。そして、知っていたとしたら、なぜ、この土壇場まで黙っていたんですか? 黙っていたこと自体、あなたが犯人であることを示すことになりますが?」
ルーク「それは……」
ライリー「諦めなさい。君しかいないんだ」
ルーク「いやいやいやいや! 待ってくれって! 確かに犯人は僕だよ! だけど、そんな単純な犯行じゃないんだって! 芸術的なトリックを使ったんだよ! そのトリックを、解いてくれって!」
ライリー「……犯人がわかっているのに、トリックを解く必要はありませんね。君を締め上げれば済むことです」
ルーク「嫌だー! めちゃめちゃ考えたんだって! 凄いトリックだったんだって! ちくしょー! ちくしょー!」
ライリー(N)「こうして、事件は解決した。……しかし、ルークくんが言っていたことが気になる。トリック……。念のため、あの後、調べたが、秘密の通路などなかった。それなら、私の目を盗んで部屋を出るというトリックか? いや、考えにくい。視覚的なトリックを使って、私の目を欺くことはできても、耳までは誤魔化せない。なにより、補聴器のことはみんなに黙っていた。つまり、私が言うまでルークくんも知らなかった。だから、音の考慮までは気が回らないはずだ。そして、断言できる。私が見張りをしていたときは、物音ひとつしなかった。この補聴器は本当に優れもの……」
回想。
ルーク「この補聴器、ライリーさんのですか?」
回想終わり。
ライリー「あっ!」
ライリー(N)「……私の名前はライリー。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた名探偵だ」
終わり。