■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
玲香(れいか)
佳祐(けいすけ)
瑞希(みずき)
■台本
玲香(N)「愛情と憎しみは表裏一体。それはまるでコインのように回転し、簡単にひっくり返る。愛情が深ければ、憎しみもまた深くなっていく……」
場面転換。
佳祐「ったく! 誰のおかげで生活できてると思ってんだ!」
瑞希「それとこれとは別の話でしょ!」
佳祐「仮に、不倫してたからってどうだってんだよ? 大体、お前に魅力がないのが原因だろ?」
瑞希「……」
佳祐「俺のおかげで、お前は贅沢できるんだ。俺の浮気くらい、我慢しろよ」
ポンと携帯の画面をタッチして、音声を止める。
瑞希「……こんな感じです」
玲香「ふーん。この盗聴した会話だけで、致命的だと思うんだけど」
瑞希「……」
玲香「それに、私への依頼のことがバレたら、あなたの方が訴えられるかもしれないわよ?」
瑞希「……構いません」
玲香「それに……失敗する可能性もあるのよ? それでもいいのね?」
瑞希「はい。お願いします」
玲香「わかったわ」
場面転換。
雰囲気のいいバー。
カウンターに座っている佳祐がグラスの酒を飲んで、グラスを置く。
佳祐「ふう……。おかわりをくれ」
そこに玲香が歩いて来る。
玲香「隣、いいかしら?」
佳祐「……ん? ええ。どうぞ」
玲香「ありがとう」
玲香が佳祐の隣に座る。
玲香「マスター、この方と同じのを貰えるかしら」
佳祐「……どこかで、会ったことあります?」
玲香「いえ。初対面よ」
佳祐「どうして、俺に声をかけたんです?」
玲香「理由は2つ。1つ目はあなたが、ストレス溜まってそうだったから」
佳祐「はは。そんなに不機嫌そうな顔してました? それで、2つ目は?」
玲香「いいスーツを着てたからよ」
佳祐「あはははは。こうもはっきりと言われると、逆に不快感はないな。どうぞ、好きなだけ飲んでくれ」
玲香「うふふ。ありがと。私の目に狂いはなかったわね」
佳祐「よく、こういうことを?」
玲香「そう見えるかしら?」
佳祐「はは。まいったな。こう見えて、話術には自信あったんだけどね。君が商談相手じゃなくてよかった」
玲香「あら、残念。儲けそこなったかしら?」
佳祐「そう思うなら、たくさん飲んでくれ」
玲香「……その後も、面倒を見てくれる、ってことかしら?」
佳祐「それは君次第さ」
玲香「ふふふ。あなた、悪い人ね」
佳祐「え? どうして、わかったんだ?」
玲香「左手の薬指」
佳祐「……指輪は外してる」
玲香「跡が残ってる。このお店に来た時……いえ、数日前から、ってことかしら?」
佳祐「はは。探偵並みの観察力だな」
玲香「こんな女は嫌い?」
佳祐「いや。できれば、もっと早く出会いたかったくらいだ」
玲香「それはどっちのパートナーとして?」
佳祐「どっちもさ。……あ、いやビジネスパートナーだと、仕事にならないな。ずっと君から目を離せなくなる」
玲香「ふふ。話術に自信あるのは本当みたいね。そうやって、他の女の人も口説いてるのかしら?」
佳祐「あいにく、恋愛だと奥手なんだ。……いや、違うな。恋愛する必要がなかった、という方が正しいか」
玲香「仕事一筋、ってことかしら?」
佳祐「ああ。それと……ずっとあいつがいたからな」
玲香「あいつって……奥さん?」
佳祐「……ああ」
玲香「ずっとってことは、学生の頃から、かしら?」
佳祐「幼馴染なんだ」
玲香「あら、素敵。まるで漫画みたいね」
佳祐「それ、褒めてるのか?」
玲香「聞かせてくれない? お酒が美味しくなりそう」
佳祐「はは。本当に君は良い性格してるな」
玲香「それで? 大学卒業後に結婚、ってところかしら?」
佳祐「いや、高校卒業してすぐだ」
玲香「あら、真面目そうなのに意外ね」
佳祐「違うよ。単に大学に行くお金がなかったんだ。だから、すぐに働く必要があった」
玲香「それで、ベンチャーの会社を起業した、ってところかしら?」
佳祐「はは。君は本当に凄いな。その通りさ。だけど、最初の5年は地獄だったよ」
玲香「あら、波乱万丈だったのね」
佳祐「全然、仕事が取れなくて……。最初の年は1万だったよ。売り上げが」
玲香「月?」
佳祐「いや、年でだ」
玲香「……どうやって生活していたのかしら? 大学に行くお金がなかったのよね?」
佳祐「……あいつが、働いてくれたんだ」
玲香「……」
佳祐「生活費だけじゃなくて……会社の費用の分も稼いでくれた。朝から晩まで、ずっと働きっぱなしだったな」
玲香「それで、結婚したのね」
佳祐「おいおい。ヒモになるつもりだったわけじゃないんだ」
玲香「結果的にはヒモだったんじゃないかしら?」
佳祐「……反論はできないな」
玲香「でも、ちゃんと成功したようだし、問題はないんじゃない?」
佳祐「……ああ。今は年収1億だ」
玲香「ねえ、もう出ましょうか?」
佳祐「え?」
玲香「あなたの話に酔ってしまったみたい。介抱してくれる、か、し、ら?」
場面転換。
バフッとベッドに寝転ぶ玲香。
玲香「ふふ。いい部屋ね」
佳祐「……」
玲香「どうしたの? こっちに来たら?」
佳祐「……あ、ああ」
玲香「もしかして、ここまで来て、罪悪感があるとか、かしら?」
佳祐「……」
玲香「そんなに難しく考えなくていいわよ。一夜限りの火遊び。夢だと思えばいいわ」
佳祐「……夢、か」
玲香「……」
佳祐「あいつは、ずっと、俺の夢についてきてくれたんだ。子供だって欲しかったはずなのに、俺の仕事に邪魔になるから、諦めたんだな……」
玲香「……このタイミングで、奥さんの話をするのはどうかと思うわよ」
佳祐「……すまない。金はここに置いておく。俺、家に帰るよ……」
バタンとドアを開けて部屋を出ていく佳祐。
玲香「……」
場面転換。
瑞希「ありがとうございました」
玲香「あなたも、良い性格してるわ。失敗したらどうするつもりだったの?」
瑞希「あいつのこと……信じてましたから」
玲香「あなたたち、お似合いの夫婦ね」
瑞希「……あははは」
玲香「それじゃ、成功報酬はこの口座にお願いね」
玲香が立ち上がり、歩き出す。
玲香(N)「愛情と憎しみは表裏一体。それはまるでコインのように回転し、簡単にひっくり返る。憎しみが深ければ、愛情もまた深くなっていく……」
終わり。