■概要
人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」
亜梨珠「あら、珍しいわね。今日は機嫌がいいのね。何かあったのかしら?」
亜梨珠「へえー。臨時のボーナスが出たの? ……そう。それはよかったわね」
亜梨珠「え? なにか含みのある言い方だって? そうね。ちょっと気になったことがあったんだけど……気にしないで。せっかくの嬉しい気分に水を差したくないもの」
亜梨珠「……気になるから言ってくれって? いいけど……これはあくまで私の意見だからね。絶対じゃないから、参考程度に聞いてほしいわ」
亜梨珠「えっと、こんな時期に臨時のボーナスってなんか変じゃないかしら? もしかして、あなたに何か不利益なことをする前に機嫌を取るため、だったとか……」
亜梨珠「あー、もう! そんなに落ち込まないでよ! だから、絶対じゃないって言ったでしょ?」
亜梨珠「どうしても気になるなら、素直に上司に聞いてみたらどうかしら?」
亜梨珠「……まあ、確かに、正直に話してもらえるかはわからないわね……」
亜梨珠「でも、心配するだけ損だから、今は喜んでいていいんじゃないかしら」
亜梨珠「え? 私のせいだって? ……だから、気にしないでって言ったのに」
亜梨珠「どうにかして、上司の考えていることを知る方法はないかって?」
亜梨珠「そんな方法があったら、苦労しないわよ。無理ね」
亜梨珠「……あ、そうだ。相手のことを知るって言えば、こんな話があるわ」
亜梨珠「え? そんな話より、実際に知る方法が知りたいって?」
亜梨珠「あのねえ。あなた、ここに何しに来てるのか忘れてるんじゃないかしら? 話を聞きに来たんじゃないの?」
亜梨珠「……まったく。あっ、じゃないわよ」
亜梨珠「それじゃ、ある一人の少年の話をするわ」
亜梨珠「その少年は生まれつき、ある特殊な病気にかかっていたの。そのせいで、ずっと病院で生活していたわ」
亜梨珠「生まれた時から、ずっと病院の病室からは出られない。そんな状況に、少年の中のストレスは溜まっていき、あるとき、病院を脱走しようとしたの」
亜梨珠「まあ、すぐに捕まったんだけどね。でも、その日から、見るからに不機嫌になって言って、ストレスによる体への影響も無視できない状態になっていったわ」
亜梨珠「そこで、医者や研究員はある道具をその少年に与えたの」
亜梨珠「それは、人の人生を覗き見るテレビだったの」
亜梨珠「どういうものだったかというと、メニューの一覧に載っている人間を選ぶと、今のその人間の生活がテレビに映るって装置だったの」
亜梨珠「少年はすぐにその装置が気に入って、色々な人間の生活を覗き見ていたわ」
亜梨珠「それこそ、起きている間はずっと、見ていたくらいにね」
亜梨珠「そこで、ある看護師が聞いてみたの。そんなに面白いのかって」
亜梨珠「そしたら、その少年は物凄く面白いと答えたわ。他の人間の生活を……人生を覗き見れるなんて、神様になった気分だって言ったの」
亜梨珠「とにかく、そのテレビを与えられてからは、その少年は病院を抜け出そうとしたり、外に出たいと言ったりはしなくなったそうよ」
亜梨珠「逆にね、他の人の生活を覗き見ることで、外の世界は思ったほど、良いものじゃないって思ったらしいわ」
亜梨珠「それなら、他人事で見る、他人の人生を覗いている方が面白いらしいわ」
亜梨珠「そして、その少年の毎日は、他人の人生を見ながら、この人はなんて馬鹿なんだろうと笑いながら過ごしていたみたいね」
亜梨珠「この状況に研究者たちは喜んだわ。これで実験を続けられるってね」
亜梨珠「……実は、この少年はある実験の被験者だったの」
亜梨珠「つまり、特殊な病気だって言うのも嘘だったのよ。全ては病院という名前の研究施設で、ずっと研究員たちに観察されていたってことね」
亜梨珠「この話のオチは、他人の人生を覗き見ているつもりが、ずっと自分の人生を覗き見られていたってわけ」
亜梨珠「どうだったかしら?」
亜梨珠「今回は短めのお話だったけど、満足してもらえたら嬉しいわ」
亜梨珠「まあ、相手を手玉に取っていると思っていても、実は自分が手玉に取られているかもしれないって教訓になるのかしらね」
亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。