鍵谷シナリオブログ

【声劇台本】新入部員

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
零(れい)
楓(かえで)
祥吾(しょうご)
杏奈(あんな)
誠(まこと)

■台本

零(N)「4人が初めて会ったのはいつだっただろうか? そんなことも思い出せないほど、俺たちはいつも一緒で、一緒にいることが当たり前になっていた。だから、俺たちは他の奴らが何を考えているのかなんて、全部わかっている。……そう、思い込んでいたんだ」

美術室内。

楓「じゃあ、次は、これ!」

祥吾「杏奈のだろ」

楓「正解! じゃあ、これは?」

杏奈「……零くんの」

楓「おお、さすが! これはわかる?」

零「お前のだろ」

楓「うーん。これじゃ、クイズにならないじゃない」

零「今更、誰が描いた絵かなんて、問題にならないって」

祥吾「そうそう。他の奴らの絵柄なんて、死ぬほど見てきてるんだからさ。分からない方がおかしいって」

楓「ちぇーっ! 面白くなーい」

そのとき、ドアがガラガラと開く。

誠「あ、あの……。ここ、美術部であってますか?」

楓「うん。合ってるけど、どうしたの?」

誠「その……入部したいなって思いまして」

4人「ええええー!」

祥吾「マジで!?」

楓「3年目にして、初の新入部員よ!」

零「よし! 絶対に逃がすなよ! 杏奈、入り口をふさいでおけ!」

杏奈「う、うん。わかった」

誠「あ、あの……」

楓「ストップストップ! みんな落ち着いて! 新人が戸惑ってるじゃない!」

零「お、そうだな」

楓「それじゃ、君、まずは入部希望の用紙に名前を書いて。それから、絶対に辞めないっていう誓約書にも記入してもらって……いや、それより、人質に携帯を奪っておくっていうのはどうかしら?」

零「お前が落ち着け!」

場面転換。

零「……すまなかった。まずは自己紹介をしよう。俺は零だ」

楓「私は楓」

杏奈「……杏奈」

祥吾「で、俺が祥吾だ。人数が少ないのと、ずっとこのメンバーでやってきたから、名前で呼び合ってるんだ」

楓「嫌じゃなかったら、君も名前で呼ばせてほしいんだけど」

誠「あ、はい。僕は誠です」

零「誠くんか。1年生だよね? 中学の時は美術部だったりする?」

誠「はい。一度ですが、コンクールで入賞しました」

祥吾「おお! 入賞経験者か。こりゃ、抜かれないように頑張らないとな、楓」

楓「なんで、私を名指しなのよ。あんたもでしょ!」

零「まあ、こんな騒がしい部だけど、これからよろしく」

誠「はい、よろしくお願いします」

場面転換。

零「よーし、じゃあ、そろそろ描くか」

祥吾「ういーっす。今日はここにするか」

杏奈「私はここにするね」

シャーっとカーテンを閉める音。

誠「……あの、どうしてカーテンで区切ってあるんですか?」

零「ん? ああ。今、コンクール用の作品を描いててさ。お互い、作品を見せないようにしてるんだ」

誠「どうしてですか?」

楓「見せるとどうしても影響を受けちゃったり、あとは感想とか言っちゃうでしょ?」

零「絵の上手さとかで、上下を付けたくないんだ。だから、相手の絵に関しての感想は一切言わない。これが、うちの美術部の唯一のルールかな」

誠「……そうなんですか」

楓「杏奈がね、2年連続で入賞してるのよ。そうなると、どうしても杏奈に一目置くというか、上って感じがしちゃうでしょ?」

零「だから、こうしようって杏奈が提案したんだ。誠くんも慣れないかもしれないが、我慢してくれ」

誠「わかりました」

場面転換。

学校のチャイムが鳴り響く。

零「ん? もうこんな時間か。おーい、みんなー。そろそろ絵を片付けくれ。見せないように気をつけてな」

杏奈「わかった」

祥吾「了解―」

シャーっと三つのカーテンが開く音。

零「あれ? 楓?」

楓「ごめん。私、もうちょっとやってく」

零「そっか。あんまり無理するなよ」

楓「うん」

祥吾「さーてと。俺は帰るかな。じゃあ、お先」

杏奈「私も帰るね」

零「お疲れー」

誠「お疲れさまでした」

ドアが開き、杏奈と祥吾が出ていく。

零「さてと、俺たちも帰るか」

誠「はい」

楓「あー、ごめん。誠くん。美術室のカギ、職員室に置いてきてくれない? 私は窓から出るから」

零「おいおい。いきなり新人をパシるなよ」

楓「じゃあ、零、お願い」

零「……誠くん。頼んだ」

誠「くすっ。わかりました」

零「じゃあ、楓、無理すんなよ」

楓「わかってるって」

ガラガラとドアを開き、零が出ていく。

場面転換。

学校のチャイム。

ガラガラと美術室のドアが開き、零が入ってくる。

零「ういーっす」

杏奈「……」

祥吾「お前! どういうつもりだよ!」

誠「ぼ、僕じゃありません!」

零「おいおい、なんだよ? どうしたんだ?」

祥吾「こいつが杏奈の絵を切り裂いたんだ」

零「は?」

誠「ち、違います!」

ドアが開き、楓が入って来る。

楓「お疲れー。って、なに? この雰囲気」

祥吾「新人が作品を切り裂きやがった」

楓「はああ?」

誠「だから、違いますって!」

祥吾「お前以外に誰がやるんだよ!」

楓「……まさか、昨日、美術室のカギを返さずに持ってて、その後、美術室に入ったとか?」

誠「違います! そんなことする理由がありません」

楓「杏奈の作品が凄いからって、嫉妬したんじゃないの?」

祥吾「そうだよ! 自分が入賞するために、杏奈の絵を切り裂いたに決まってる!」

零「ちょっと待てって! 落ち着け、二人とも。誠くんがやった証拠はないだろ」

祥吾「今まで、こんなことは無かった。こいつが入ってから起きたんだから、決まりだ」

楓「……それに、鍵を持ってたっていう状況証拠があるわ」

零「二人とも、一旦、落ち着いてくれ。この俺に任せてくれないか? 杏奈も、いいか?」

杏奈「うん」

楓「……わかったわよ」

祥吾「お前がそういうなら」

零「すまんな」

場面転換。

夕方の公園。

ブランコがキコキコと鳴る。

零「隣、いいか?」

楓「……零。うん、いいよ」

零「よいしょっと」

零が隣のブランコに座る。

楓「誠くん、どうする? 退部させる?」

零「……お前だろ?」

楓「え?」

零「杏奈の絵、切り裂いたの」

楓「ちょ、ちょっと待ってよ、なんで私なのよ?」

零「お前さ、どうして、杏奈の絵が切り裂かれたのを知ってるんだ?」

楓「え? だって、祥吾が……」

零「お前が美術室に入ってきたときに言ったのは、作品が切り裂かれたことだけだ。誰のかは言ってなかったんだよ」

楓「見たのよ。切り裂かれた杏奈の作品を」

零「カーテンで仕切られてたのに?」

楓「……」

零「それにわからないんだよ。誠くんには、どれが杏奈の作品かが」

楓「……」

零「お前も知ってる通り、誰がどんな作品を描いているかは見せてない。もちろん、誠くんにもな。仮に美術室に侵入して、杏奈の作品を切り裂こうと思っても、どれかはわからないはずだ」

楓「……でも、私達ならわかる。見れば、誰が描いたのかすぐに」

零「……ああ」

楓「あーあ。なんで、あんなことしちゃったんだろ。……いや、違うわね。ずっとこんな機会を待ってたのよ。私はずっと、杏奈の才能に嫉妬してた……」

零「今までずっと楽しくやってきたじゃねーか。才能なんてどうでもいいだろ」

楓「良くない! ……だって、私は絵が好きだから。……あんたたちよりも、ずっと」

零「そっか……」

零(N)「次の日、楓は杏奈と誠くんに本当のことを話し、謝った。……そして、美術部を辞めてしまった。それから、俺たち3人も美術室に行く回数も減り、やがて全く行かなくなった。今は誠くんだけだ。……ずっと一緒にいて、何でも知ってるつもりだった。けど、人の心なんて理解しようとする方が無理な話なのかもしれない」

終わり。

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