■概要
人数:6人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
倖田 美夜(こうだ みや)
羽賀山(はがやま)
佐保谷(さほたに)
課長
その他
■台本
テレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。
アナウンサー「昨夜、未明。またも高級車を狙った窃盗団が現れました。今回は高級車10台が盗まれています。現場にはレンチの一部と見られる金属片が残っていて、犯行に使われたと……」
ピッとテレビを消す署長。
課長「待たせてすまなかったね。課長の高宮だ」
美夜「本日から刑事課に配属された、倖田美夜です! よろしくお願いいたします!」
課長「うちは人手が少なくてね。来てくれて助かったよ」
美夜「頑張ります!」
課長「それじゃ……羽賀山、お前、面倒見てやれ」
羽賀山「へ? 俺っすか? いや、待ってくださいよ、課長。俺、新人の面倒を見てる暇なんか……」
課長「命令だ。大体、人が足りないっていつもぼやいてるのはお前だろ」
羽賀山「いや、そりゃそうっすけど……」
課長「お前もそろそろ突っ走るばかりじゃなくて、教える側をやってみろ。見えてくることもある」
羽賀山「……羽賀山だ。よろしく」
美夜「あ、はい! 倖田です! よろしくお願いいたします!」
バタンとドアが開いて、佐保谷が入って来る。
佐保谷「お疲れ様です。資料室使います」
羽賀山「アホ谷(たに)、出勤早々、資料室にこもって何するつもりだ?」
佐保谷「佐保谷だ。資料室と言ったら、仮眠に決まっているだろ」
羽賀山「はあ? お前、遅れてきたくせに、さらにサボる気か?」
佐保谷「遅れてない。ちゃんと1分前に来ただろ」
羽賀山「……普通、30分前だろ! で、9時から業務開始だ」
佐保谷「よく聞けよ、バカ山(やま)。30分早く来たとして、その分の給料は出ない」
羽賀山「たりめーだ」
佐保谷「俺はお前と違って、タダ働きはごめんだ。徹夜でサービス残業なんて正気の沙汰とは思えん」
羽賀山「お前な! 昨日、また奴らが出たんだぞ! 10台、持ってかれたんだ! 10台!」
佐保谷「知ってる」
羽賀山「あいつらは、俺たちのヤマだろうが! おら、さっさと現場行くぞ、現場!」
佐保谷「行ってどうする? どうせ、社員は犯行を見ているわけではない。大した話は聞けない」
羽賀山「……んなの、行ってみないとわかねーだろ! とにかく行くぞ!」
佐保谷「……課長、バカ山に何とか言ってください」
課長「今回は羽賀山の言ってることが正しい。もう業務は始まってるんだ。行って来い」
佐保谷「……」
課長「それに、新人の面倒も見て欲しいからな。現場に慣れさせたい」
美夜「あの、倖田美夜です!」
佐保谷「……はあ。わかりましたよ。おい、バカ山、お前が運転しろよ」
美夜「えっと……あの……」
課長「佐保谷は羽賀山の相棒だ」
美夜「……それにしては随分と仲が悪そうですね」
課長「まあ、ああ見えて、あいつらは全国でもトップの検挙数だ。意外と、いいパートナーだよ。あいつらは」
美夜「そ、そうでしょうか……」
場面転換。
車を運転している羽賀山と、助手席に座る美夜。そして、後ろに佐保谷が乗っている。
羽賀山「いいか? 刑事は市民の味方、つまりは正義を守ることが仕事だ」
美夜「は、はい」
佐保谷「違う。警察官は法を守るのが仕事だ。正義なんて曖昧なものではない」
美夜「え? あ、あの……」
羽賀山「アホ谷は黙ってろよ」
佐保谷「佐保谷だ。新人に、お前の身勝手な考えを押し付けるな」
羽賀山「はあ?」
佐保谷「おい、バカ山。そこに入れ」
羽賀山「ホームセンター? なんで、んなところに……」
佐保山「いいから入れ」
羽賀山「入ってください、くらい言えねーのかよ」
場面転換。
ホームセンター内を歩く、3人。
美夜「結構、大きなホームセンターですね。こんな工具、見たことないです」
羽賀山「この辺で一番大きなところだからな。おい、アホ谷、何買うつもりだよ?」
佐保谷「佐保谷だ。別に、何かを買うつもりはない」
羽賀山「じゃあ、なんで、寄ったんだよ!」
佐保山「……やっぱり、この特殊なレンチを使ったんだな」
羽賀山「アホ谷! 無視すんな!」
佐保山「佐保谷だ。おい、お前ら、そこの影に隠れるぞ」
羽賀山「お前な―。なんなんだよ!」
佐保谷「いいから、早くしろ」
三人が移動する。
羽賀山「おい、アホ谷、説明しろ」
佐保谷「佐保谷だ。黙ってろ」
羽賀山「……ん? あいつ、妙に辺りを気にしてるな」
美夜「あ、レンチをカバンに入れましたよ」
羽賀山「万引きか!」
佐保谷「店を出るようだな。行くぞ」
場面転換。
羽賀山「よし、会計しないで外に出たな。行くぞ!」
佐保谷「バカ山、やめろ」
羽賀山「はあ? なんでだよ!」
佐保谷「俺たちの仕事じゃない」
羽賀山「はああ? 目の前で犯罪が行われたんだぞ! んなこと、関係ねーだろ」
佐保谷「お前ら、早く昨日の現場にいけ」
羽賀山「お前はどうするんだよ?」
佐保谷「昼休憩だ。じゃあな」
佐保谷が歩き去っていく。
美夜「あの……」
羽賀山「しゃーねー。俺たちだけで行くぞ」
美夜「は、はい。でも……いいんですか?」
羽賀山「ま、あいつのことだ。何か考えがあるんだろ」
美夜「……」
場面転換。
美夜「……社員の方からは、有力な情報は聞けませんでしたね」
羽賀山「仕方ない。この辺りの住民に聞き込みするか」
美夜「はい」
そのとき、羽賀山の携帯が鳴り、取る。
羽賀山「なんだよ? ……はあ? おま、なにいきなり……うわっ、切りやがった!」
美夜「……誰からだったんですか?」
羽賀山「アホ谷からだ。今日の深夜2時に、もう一回、ここに来いってよ」
美夜「……え? ここって……盗難にあった、この会社にですか?」
場面転換。
美夜「……ふわー」
羽賀山「すまんな。初日から、こんな時間まで残業させちまって」
美夜「いえ! すいません! 大丈夫です」
そこに佐保谷がやってくる。
佐保谷「おい、お前ら、何やってる?」
羽賀山「……お前が来いって言ったんだろうが!」
佐保谷「来いとは言ったが、こんな目立つところで突っ立てろと言った覚えはない。さっさと隠れろ」
羽賀山「……」
三人が移動し、物陰に隠れる。
羽賀山「……いい加減、説明しろよ」
佐保谷「来たぞ」
美夜「……あ、見てください。あの真ん中にいる人、昼間の万引き氾です」
羽賀山「どういうことだ?」
佐保谷「昨日、奴らはレンチの一部を現場に落としている。つまり、工具が壊れたということだ。……つまり」
羽賀山「盗みそこなった車があるってことか」
佐保谷「しかも、昨日盗まれているから、2日連続では来ないと思い込んでる隙をついたわけだな」
工具を使って、車のドアを開ける音。
羽賀山「ドアを破った! ……決まりだな。倖田さんはここに待機しててくれ」
美夜「え? あ、はい。羽賀山さんはどうするつもり……」
羽賀山「警察だ! お前ら、動くな!」
男1「げっ! なんで、警察が……」
男2「お前ら、逃げるぞ!」
男たちが散らばるように走り出す。
羽賀山「げっ! おい、待て!」
佐保谷「……あのバカ」
美夜「え? あの、佐保谷さんどこに? 犯人はあっちですよ?」
佐保谷「あんたは、ここで待機だ」
佐保谷が走って行く。
美夜「全然、違う方へ……。ああ、もう、羽賀山さんだけじゃ逃がしちゃうわ。私も追わないと!」
場面転換。
男2を追いかける羽賀山と美夜。
羽賀山「おい! 待てって!」
男2「言われて、待つバカがいるかっての」
羽賀山「おい、アホ谷、そっちに行ったぞ!」
美夜「……え?」
佐保谷「佐保谷だ」
男2「へ? ……ぶえっ!」
男2が佐保谷に殴られて、吹っ飛ぶ。
羽賀山「あぶねー、逃げられるところだった」
佐保谷「もう少し、考えて動け」
美夜「あの……羽賀山さんは、ここに佐保谷さんがいることは知ってたんですか?」
羽賀山「いや、知ってたわけじゃねーけど、アホ谷なら、いるんだろーなって思っただけだ」
美夜「え? 二人で立てた作戦じゃないかったんですか? 佐保谷さんは、犯人がこっちに来るってどうしてわかったんですか?」
佐保谷「いや、バカ山のことだから、こっちに追いつめるだろうって思っただけだ」
美夜「……」
場面転換。
課長「……どうだった? あの二人は?」
美夜「えっと、あの……。喧嘩ばかりしてました」
課長「あー、まあ、いつもだな」
美夜「でも、その……羽賀山さんも佐保谷さんも、お互い、どう動くかわかってるといいますか……」
課長「よくケンカするということは、それだけ相手のことを知るってことなんだよ。ぶつかることで、相手の本心がわかるってわけだな」
美夜「……雨降って、地固まるというやつでしょうか?」
課長「まあ、そんなところだ」
美夜「では、ああ見えて、仲がいいということでしょうか?」
羽賀山「ふざけんな、アホ谷!」
佐保谷「佐保谷だ、バカ山」
課長「……いや、仲は悪いな。雨は降るが、地は固まってない」
美夜(N)「仲が悪い二人。それでも逃げずにちゃんとぶつかる。ぶつかりながらも、お互いをちゃんと理解する。だからこそ、あの二人は輝いているんだ。雨降りの空に輝く、虹のように」
終わり。