【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 代替品

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「……」

亜梨珠「え? あ、ごめんなさい。気付かなかったわ」

亜梨珠「……コホン。いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「何を読んでいたのかって? 童話よ。ラプンツェルっていうの。知ってるかしら?」

亜梨珠「へー。知ってるのね。まあ、前に映画とかにもなったし、そのおかげで結構、有名になったみたいね」

亜梨珠「……あはは。そうね。名前は知ってても、内容はあまり知らないって人も多いかもしれないわ」

亜梨珠「簡単に言うと、悪い魔女によって、すごく高い塔に閉じ込められているお姫様がいいたの。そのお姫様が自分の髪を塔の上から垂らして、その髪を伝って、王子様がお姫様に会いに来るって話よ」

亜梨珠「結局、そのことが魔女にバレて、お姫様は塔から追い出されて、王子は魔女からお姫様がもういないって聞いて、絶望して塔から身を投げるって流れね。王子様は命は助かるけど、イバラが目に刺さって、失明するよ」

亜梨珠「目が見えなくなって、森を彷徨っている王子を、お姫様が見つけて、二人は幸せに暮らして、めでたしめでたしってわけ」

亜梨珠「……ねえ、この話、あなたはどう思うかしら?」

亜梨珠「私はね、この王子はダメ王子だなって思ったのよ」

亜梨珠「だって、この王子って、何にもしてないわ」

亜梨珠「お姫様に会いに行くのだって、お姫様の髪を頼ってるし、お姫様がいなくなったって魔女に聞いたら、塔から飛び降りるのよ?」

亜梨珠「なんで、探しにいかないのかって話よ。それに、結局、最後はお姫様に助けてもらって終わり。ホント、どうしようもない王子だと思うわ」

亜梨珠「……まあ、こういう童話の中の王子って、あんまり自分が頑張って、何かするってことはすくないわよね」

亜梨珠「大体、髪を伝って塔を登るって……。お姫様はすごく痛かったと思うのよね。外壁を登れっていうのは酷かもしれないけど、せめて髪を伝う代わりの、梯子くらい、作れなかったのかしら」

亜梨珠「あ、ごめんなさい。童話に熱くなるなんて、恥ずかしいわね」

亜梨珠「そうだ! どうせだから、今日は塔にまつわるお話をしましょうか」

亜梨珠「昔々、あるところに、一人の座敷童がいました」

亜梨珠「……え? 急に和風の話になった? 誰も洋風の話をするって言ってないわよ?」

亜梨珠「でね、その座敷童なんだけど、物凄い強欲な家に閉じ込められていたの」

亜梨珠「ほら、座敷童がいる家は繁栄を迎えるって伝承があるでしょ。もちろん、その家はとても裕福で商売も上手くいっていたわ」

亜梨珠「そうなれば、ますます座敷童のおかげだって思うわけね」

亜梨珠「それに、座敷童が去ってしまった家は没落するっていうのもセットだから、座敷童がいなくなることを恐れたのよ」

亜梨珠「だから、座敷童が住む家の周りに10メートルほどの高い塀を立てて、逃がさないようにしたの」

亜梨珠「え? 妖怪なのに、壁抜けができないのかって?」

亜梨珠「それは大阪の人が全員面白いっていうのと同じくらいの偏見よ」

亜梨珠「妖怪にだって、壁抜けできる妖怪もいれば、できない妖怪もいるわ」

亜梨珠「もちろん、座敷童は後者のほうね」

亜梨珠「それでね、座敷童は家の人に外に出たい、自由になりたいというのだけど、そんなことは、受け入れられるはずがないわ」

亜梨珠「だから、その家の人たちは座敷童と遊ぶ人を用意したの」

亜梨珠「遊んでいれば、気が紛れて、家を出たいと思わなくなるじゃないかと考えたってことね」

亜梨珠「結論を言うと、その作戦は成功したわ」

亜梨珠「遊んでいる間は、ピタリと外に出たいと言わなくなったの」

亜梨珠「でもね、全てがうまくいくと思っていたところに、あることが起こるの」

亜梨珠「それは、座敷童と遊ぶ人の死よ」

亜梨珠「座敷童は、年(とし)は取らないけど、遊ぶ側の人間は、年齢を重ね、そして寿命により、天に召されることとなったわ」

亜梨珠「家の人たちは慌てて、新しく座敷童と遊ぶための人を用意したの」

亜梨珠「でも、座敷童は、その新しい人と遊ぼうとしなかったわ」

亜梨珠「なぜなら、座敷童は気づいたのよ。前に、自分と遊んでくれていた人は、自分の為にその人の人生を犠牲にしてしまったことにね」

亜梨珠「その人は、自分と遊ぶだけの人生だったことに心を痛めたわ。だから、新しい人に、また同じことを繰り返して欲しくなかったのよ」

亜梨珠「でも、家の人たちは慌てたわ。座敷童が誰とも遊ばないようになったら、また、外に出たいと言い始めるのではないかって」

亜梨珠「だけど、その心配は杞憂に終わったわ。なぜなら、座敷童は外に出たいということがなかったから」

亜梨珠「それでも心配する家の人たちに、座敷童は、こう言ったの」

亜梨珠「塔を作らせて欲しいって」

亜梨珠「ここで、塔が出てくるのよ。……ふふ。塔にまつわる話だって、忘れてたんじゃないかしら?」

亜梨珠「話を戻すけど、塔を作りたいと言い出す座敷童に、家の人たちは不思議に思ったの。なぜ、塔なのかって」

亜梨珠「まあ、誰でもそう思うわよね」

亜梨珠「それで、座敷童はこう答えたの」

亜梨珠「前に自分と遊んでくれた人が、生前、こう言っていたと」

亜梨珠「私はもうすぐあなたの前からいなくなるけど、寂しがることは無い。なぜなら、私は星になってずっとあなたのことを見ているから、ってね」

亜梨珠「だから、座敷童は塔を作って、星になった、その人に会いに行きたいんだって言ったの」

亜梨珠「当然だけど、家の人たちはそんなことをしても、無駄だってことはわかっていたわ。だけど、家の人たちは許可したの。それで気が紛れるなら安いものだってね」

亜梨珠「そして、その日から、座敷童の塔作りが始まったわ」

亜梨珠「家の人に木材を用意してもらって、コツコツと塔を積み重ねていったの」

亜梨珠「それから20年が過ぎたわ」

亜梨珠「塔はもう20メートル以上にもなるくらいだったの」

亜梨珠「そんなある日ね、ふと、座敷童が消えてしまったのよ」

亜梨珠「どうやったか、わかるかしら?」

亜梨珠「もちろん、座敷童は壁抜けもできないし、家の人たちの誰かが、手引きして逃がしたわけじゃないわ。座敷童が自力で出て行ったの」

亜梨珠「まあ、あんまり引っ張っても期待が高くなっちゃうから、サッと言うわね」

亜梨珠「それは、壁に向かって塔を倒して、シーソーを作ったの」

亜梨珠「つまり、壁を支店にしたわけね。塔を倒した後、塔を登っていけば、今度は重さで、塔で作ったシーソーが傾くわ。そうして、壁を乗り越えたってわけよ」

亜梨珠「どうだったかしら? ラプンツェルの王子も、これくらいのことをしてほしかったわね」

亜梨珠「あなたも、何か行き詰った時、発想を変えてみるといいかもしれないわね。意外なものが代替品になるかもしれないわ」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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