■概要
主要人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブコメ
■キャスト
和希(かずき)
由佳(ゆか)
■台本
和希(N)「最近は異常気象が多い気がする。10年に1度の、観測史上初、記録を更新……などなど、ニュースを見ればそんな言葉が飛び出している。その日も、観測史上、3番目の暑さという、記録としては微妙だが、確実に体や精神的なダメージを受けた日だった」
セミの鳴く声。
和希「暑ぃ……」
由佳「ふふ……」
和希「……?」
由佳が歩いて、冷蔵庫を開ける。
ジュースを取り出す由佳。
由佳「ふふーん!」
和希「なんだよ、そのどや顔は?」
由佳「このジュース。飲みたい?」
和希「は?」
由佳「暑いと、喉が渇く。喉が渇いた時の、キンキンに冷えたジュースは格別だと思わない?」
和希「……タダじゃねーんだろ?」
由佳「一口100円」
和希「たけーよ!」
由佳「甘いわ。物の価値……すなわち、値段というのは、そのときの状況によって、大きく変わるものよ」
和希「どういうことだよ?」
由佳「例えば風邪薬。今のあんたは、一袋100円で売ってたら買う?」
和希「いらねーよ。別に風邪ひいてねーし」
由佳「でも、風邪ひいてて、すごく辛くて、薬を買いにいく体力もなかった場合はどう
? 買っちゃおうかなって思わない?」
和希「あー、確かに」
由佳「薬自体は同じ物なのに、あんたの状況次第で、100円で売れるのよ」
和希「……今、俺が暑いって言ったから、ぼったくるチャンスだと思って、ジュースを売ろうって魂胆か」
由佳「ぼったくりだなんて、心外ね。あくまで今の状況の適正価格よ」
和希「アホらし。んなの、自分で買いに行けば、一口分で一本丸々飲めるじゃねーかよ」
由佳「学校内の自販機のジュース、全部売り切れてるわよ」
和希「……んな嘘に引っかかるかよ」
由佳「嘘だと思うなら、行ってくれば? あんたも知ってる通り、今日は観測史上3番目の暑さ。みんなジュースに殺到するのは自然の流れだと思わない?」
和希「……お前、それを知ってて、朝に大量に購入してたんだな?」
由佳「儲け話があれば、全力で乗る。商売人としては同然よ」
和希「お前、まだ学生だろ」
由佳「で? どうする? いる? いらない?」
和希「お前、さっきさ、一口100円って言ってたよな? じゃあ、一口に飲めば、100円でいいってことだな?」
由佳「もちろん。ただし、一口で飲めれば、ね」
和希「……くっ! だからわざわざ炭酸を買ったのか」
由佳「ふふーん。それだけじゃないわ。喉が渇いた時の炭酸は、それこそ、殺人的に美味しいのよ」
和希「……」
由佳「で? どうする?」
和希「……いらね。喉、乾いてねーし」
由佳「あらそ。残念」
プシュッとカンの蓋を開けて、ゴクと一口飲む、由佳。
由佳「ぷはー! 美味しー!」
和希「……あっそう」
由佳「まだ残ってるから、今ならまだ間に合うわよ。一口100円」
和希「いや、いらね……はっ!」
和希(N)「いや、ちょっと待て。この状況で一口を買えば……関節キスできるんじゃないのか?」
由佳「あれ? やっぱり、欲しくなった?」
和希(N)「し、しかも、だ。俺が一口貰って、その後にカンを返すから、俺が口を付けたのを、あいつが飲むってことだよな? それって、もう、関節キスっていうより、キスなんじゃねーのか?」
由佳「ほれほれ? 迷ってると、なくなっちゃうぞ」
また、一口、グビッと飲む由佳。
和希(N)「だが、こんなことは許されるのか? あいつは俺とキスすることになるって気づいていない。それをだまし討ちするようなことをするなんて卑怯じゃねーのか? ……そんなのダメだろ。……いや、待て待て待て。元々、あいつは俺から金を巻き上げるためにやってきたことだ。それに対して、仕返しだと思えば、お互い様なんじゃないのか? それに、ジュース一口で100円は高過ぎる。けど……けど、だ! あいつとキスできるなら、100円は安いんじゃないのか? ものの価値は状況によって、変化する。あいつとキスできる権利を100円で買えるなんて、二度と無いかもしれない。お買い得。そう、買い時だ。いや、買わない理由なんかない! よし! 買うぞ!」
和希「い、いやー。ホントに今日は暑いよな。お前の言う通り、喉が渇いた時の炭酸は殺人級だ」
由佳「でしょ?」
和希「しょうがない。今回だけは、お前の策略に乗ってやる」
ガサガサと財布を出して、100円を出す。
和希「ほら、100円だ」
ピーンと指ではじき、由佳に渡す。
由佳がキャッチする。
由佳「毎度あり!」
和希「じゃ、じゃあ、早く一口くれ」
由佳「ちょっと待ってね」
由佳が冷蔵庫を開けて、新しいジュースを取り出して、和希に渡す。
由佳「はい、新しいやつ! キンキンに冷えてて美味しいよ」
和希「お、おう!」
和希(N)「……まあ、こんなオチですよね……」
終わり。