■概要
主要人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
太一
■台本
静かな教室。
カリカリというテストに書く音だけが響く。
太一(N)「今、俺は窮地に立たされている」
太一(N)「それは、テストの答えがわからないので、赤点が確実……ということではない」
太一(N)「こんなのはいつものことだから、ピンチでもなんでもない」
太一(N)「じゃあ、腹や頭が痛いなどの身体的なものなのか、というと、それでもない。頭が痛ければ保健室に、腹が痛ければトイレに行けばいい」
太一(N)「ある意味、そうであったら、どんなに良かったことか。つまり、今の俺はそれ以上に危機的状況というわけだ」
太一(N)「まあ、あまり引っ張り過ぎてもなんだから、言ってしまおう」
太一(N)「今、俺は猛烈に……おならがしたい」
太一(N)「……言いたいことはわかる。全然大したことじゃねーだろ、と思ったんだろ?」
太一(N)「だが、よくよく、考えてみて欲しい。例えば、テストの点数が悪くて、赤点を取ったと仮定しよう」
太一(N)「だが、そんなことはいつものことだ。つまり、わかりからは、またか、というような評価をくだされる」
太一(N)「つまり、赤点を取ったところで、俺のクラスでの扱いは変わらないということだ」
太一(N)「それは保健室やトイレに行くことも同様だ。それは誰しもが起こりえることだし、なんなら、同情さえもらえるほどだ」
太一(N)「では、おならはどうだろうか? いつものことではないし、同情を引けるかというと、引けないと言わざるを得ない」
太一(N)「クラスの中の俺の地位は確実に下がるだろう」
太一(N)「それでなくても、最近は周りから太ったと言われるくらいだ」
太一(N)「このタイミングでおならをしようものなら、ブーというあだ名にされかねない。それは是非とも避けたいところだ」
太一(N)「それなら、トイレに行けばいいだろと思ったんじゃないだろうか?」
太一(N)「だが、その策は甘いと言わざるを得ない」
太一(N)「なぜなら、今、立ち上がると腹が圧迫され、確実に出てしまう」
太一(N)「つまり、今の俺はどこかにいくほどの余裕がないのだ。くそ、十分前であれば、その方法も使えたんだ」
太一(N)「だが、トイレに行きたいと宣言することに躊躇してしまった……。あの一瞬のミスが、今、俺を窮地に落としれている」
太一(N)「まあ、過去のことを言っても始まらない。とにかく、今はこのピンチを脱することだけに集中しなくてはならない」
太一(N)「くそ! 昨日、寝る前に大量にポテチを食ったのがマズかったか……」
太一(N)「いや、今は原因なんて、どうでもいい。この危機的な状況をどう、打破するか、だ」
太一(N)「さて、どうしたものか」
太一(N)「考えられる方法としては、何か、大きな音を立てて、その間に放出する、というものだ」
太一(N)「確かに良さそうな方法だ。だが、この手の方法は、音を立てた後、教室が静まり返った後に出てしまう、というリスクがある」
太一(N)「しかも、音を立てたことにより、より一層、注目を集めてしまう」
太一(N)「なので、この方法はリスクが高いということで、却下だ」
太一(N)「ということで、もう一つの方法で行くしかない」
太一(N)「それは……少しずつ放出する、という案だ」
太一(N)「確かに、しくじれば、注目を集めることになるリスクもある」
太一(N)「だが、もう限界だ。行くしかない」
太一(N)「よし、ケツに全ての集中力を集める」
太一(N)「ゆっくりだ。絶対に途中で気を抜くなよ」
太一(N)「少しずつ、ほんの少しずつ、放出していくんだ」
太一(N)「放出率、残り60パーセント。いける! ゆっくりと確実に、ケツと腹に力を入れながら、放出し続けるんだ」
太一(N)「50パーセント」
太一(N)「40パーセント」
太一(N)「30、20、10……ゼロ!」
太一(N)「よっしゃー! やったぞ! 全部、放出できたぞー! 勝った!」
そのとき、バリっと音がする。
太一「……あっ」
太一(N)「油断。一瞬の油断。勝利した週間の気のゆるみ」
太一(N)「そう。それは、ケツに入れていた力を一気に抜いたことで……」
太一(N)「ズボンのケツの部分が裂けた」
太一(N)「危機を脱したときが……危機一髪の状況を回避した後こそが、一番危ない。それが、この話の教訓だ」
終わり。