■概要
主要人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
陸(りく)
美鈴(みすず)
純平(じゅんぺい)
■台本
トロッコを拭きながら欠伸をする陸。
陸「ふあー」
美鈴「陸くん、眠そうだね」
陸「あっ! 美鈴さん! お疲れ様です!」
美鈴「どう? 仕事には慣れた?」
陸「いやあ。毎日、冷や汗かきながら、接客してますよ」
美鈴「それでなくても、遊園地は覚えることが多いからね。クレームを言ってくるお客さんもいるし、大体の人は仕事に慣れる前に辞めちゃうんだ」
陸「あー。なんとなく、わかる気がします」
美鈴「陸くんは、辞めないでね」
陸「は、はい! もちろんです! 絶対に辞めません!」
美鈴「ふふ。頼りにしてるからね」
陸「は、はいー!」
美鈴「それじゃ、今日も一日、がんばろー」
陸「頑張りましょう!」
美鈴が歩き出そうとするが、立ち止まる。
美鈴「あ、危ない、危ない。本題を言うのを忘れてた」
陸「……なんですか?」
美鈴「それなんだけど……」
陸「それって……トロッコのことですか?」
美鈴「うん。その3号機ブレーキが壊れてるから、下げて置いてほしいって、主任が言ってたの」
陸「わかりました。外して、倉庫に入れて置きます」
美鈴「トロッコって言えば、こういう問題走ってる?」
陸「問題……ですか?」
美鈴「うん。あのね、今、陸くんがそのトロッコに乗っていたとします」
陸「はい」
美鈴「でも、そのトロッコはブレーキが壊れていて、止めることができないの」
陸「……怖いですね」
美鈴「それでね。あそこみたいに道が2つに分かれている場所があるの」
陸「はい」
美鈴「そのままトロッコを走らせてたら、その先には3人の作業者がいます。そのまま突っ込んでいったら、その3人は確実に死んでしまいます」
陸「は、はい」
美鈴「でも、そこの切り替え機でトロッコの走る方向を変えれば、その先には1人しかいないの。ここで問題! 陸くんは切り替え機でトロッコの走る方向を変える? それとも、そのままにする?」
陸「えーっと、そのままにしていたら、3人が死んでしまって、切り替えたら1人が死ぬってことですよね?」
美鈴「うん。そう」
陸「うーん。……切り替えますかねぇ……」
美鈴「へー。どうして?」
陸「どうしてって……。えっと、3人死ぬよりは1人死ぬ方が、被害が少ないからです」
美鈴「じゃあ、3人を助けるためなら、その1人は犠牲になってもいいってこと?」
陸「うっ! そういうことなんですけど、そう言われたら気が引けてきますね。じゃあ、変えない? でも、それだと……。うーん! 迷う!」
美鈴「えへへ。ごめんごめん。このトロッコ問題って、そういうものなの。正解がないって問題なんだ」
陸「なるほど……」
美鈴「ちなみにね。切り替え機を変えないって人の意見としては、自分が切り替え機を変えたことで、自分が殺したという感覚になるから、そのままにいておく、っていうものなんだって」
陸「あー、その気持ちはわかりますね。ある意味、その人を自分が殺すってことになりますもんね」
美鈴「そうんだよねー。私も考えれば考えるほど、悩んじゃって」
陸「はは。美鈴さんらしいですね」
そのとき、遠くから怒鳴り声がする。
純平「おらあ! 陸! なに仕事サボってんだ!」
陸「す、すいません」
美鈴「あ、ごめんね、陸くん。私が変な問題出したせいで怒られちゃって……」
陸「いいんです、気にしないでください」
美鈴「ありがと。それじゃ、またね」
陸「は、はい」
美鈴が歩き去っていく。
そこに純平がやってくる。
純平「陸。お前、仕事舐めてるのか? 時給下げるぞ」
陸「す、すいません……」
純平「それと! 美鈴に手を出したら、ただじゃおかねーからな」
陸「……あの、先輩は美鈴さんと付き合ってたりするんですか?」
純平「え? いや、別に付き合ってないけど……お前には関係ねえだろ! とにかく、美鈴に話かけんな!」
陸「……」
純平「返事は?」
ドン、と陸に蹴りを入れる純平。
陸「は、はい……」
純平「あと、ここの掃除が終わったら、Eエリアの掃除、頼むな」
陸「え? Eエリアの掃除担当は先輩じゃ……」
純平「いいから、やれって言われたら、黙ってやるんだよ!」
陸「は、はい……。わかりました……」
純平「開店まであと、1時間もねえんだから、ちゃっちゃとやれよ」
陸「は、はい……」
純平が歩いて行く。
陸「嫌な奴。バイトが辞めていくのは、あいつが原因もあると思うな。……と、掃除、急がないと。あー、そのまえにこのトロッコを外さないとな」
陸がトロッコを外そうとガチャガチャといじっている。
陸「あれ? レールから外れないぞ。……あ、トロッコの中にあるレバーを引けばいいのかな?」
陸がトロッコに乗って、レバーを引く。
するとガタガタと音を立てて、トロッコが走り出す。
陸「あ、やべえ! あのレバー、走り出しのスイッチみたいなものだったのか?」
陸を乗せたトロッコが勢いよく走り出す。
陸「ヤバい! ブレーキブレーキ! これか!」
レバーを引くが全くスピードが落ちない。
陸「なんで? ……あ、そういえば、レバーが壊れてるんだった! ……ん? なんだ、あそこ、人集まってるけど……」
トロッコの勢いが増していく。
陸「あ、クソな先輩もいる。どうせ、主任にゴマ擦ってるんだろ。このまま突っ込むのは……さすがに気が引けるな。切り替え機で切り替えてやるか」
ゴーっと音を立ててトロッコが走る。
陸「あっ! 切り替えた先に美鈴さんがいる! ……うわ、マズいぞ。ホントにさっきのトロッコ問題みたいな状況になっちまった」
トロッコが走る音。
陸「このままいけば、クソ先輩も含めて、6人を轢くことになる。でも、線路を切り替えれば、その先には美鈴さんがいる……。さて、どうするべきか……」
トロッコが走る音。
陸「うん。このまま突っ込むの一択だな。みじんも迷いはない。っていうか、このまま突っ込みたい」
トロッコが走る音。
陸「仕方ないよな! この問題には正解なんてないんだ。だから、俺がこのまま突っ込んだとしても、しょうがないんだ」
トロッコが走る音。
陸「よし、よし、よし! 近づいてきた……今だ! 死ねー!」
純平「え? うおっ! 主任! トロッコが暴走してます! みんな、逃げて!」
陸「え? ちょ! 待ってって逃げんなよ! 話が違うぞ!」
トロッコが走る音。
陸「ヤバい、壁にぶつかる……」
ドンとトロッコがぶつかる派手な音。
陸「ぎゃーーーー!」
終わり。