■概要
主要人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
一(はじめ)
洋輔(ようすけ)
■台本
セミが鳴く声が響く。
一「……暑ぃ」
チャイムが鳴る。
一「ん? 来たか? はーい」
立ち上がって歩き、ドアを開ける。
洋輔「よお、お待たせ」
一「遅かったな、洋輔。で、買ってきてくれた?」
洋輔「ああ。ほら、スポーツ飲料。これでいい?」
一「サンキュー」
袋を受け取る一。
一「まあ、入れよ」
洋輔「ああ」
二人が部屋の中に入る。
洋輔「……相変わらず、散らかってるな。一の部屋は」
一「うるせえな。しゃーないだろ。この時期は」
ペットボトルの蓋を開け、スポーツ飲料を飲む一。
洋輔「なあ、一。ちゃんと飯食ってんのか? また痩せただろ?」
一「夏はなー。どうしても食欲がなくなるんだよ。夏バテしやすいっていうかさ」
洋輔「けど、少しは食わねえと」
一「いや、わかってんだけどさ。何もする気が起きなくて……」
洋輔「じゃあ、ゲームとかもあんまりやってないのか?」
一「全然。寝てばっかだよ」
洋輔「うわ! せっかくの夏休みなのにもったいないな」
一「その分、冬は元気なんだけどな」
その時、プーンと蚊が飛ぶ音がする。
洋輔「うわ!」
パチンと首筋を叩く音。
一「どした?」
洋輔「蚊だよ。あー、くそ、刺された」
一「おいおい。なんか、すげー血が出てるぞ」
洋輔「多分刺されてる最中だったんだと思う。ティッシュ取って」
一「ああ」
一がティッシュを渡す。
洋輔「にしても、こんな閉め切った部屋なんかにいるから蚊が出るんだよ! カーテン開けて、空気の入れ替えするぞ」
洋輔が立ち上がって、シャーとカーテンを開けた後、鍵を開けて窓を開く。
一「うわー! まぶしいって! 閉めてくれ! 早く!」
洋輔「なんだよ、太陽に弱いのか? ヴァンパイアみたいだな」
洋輔が窓を閉め、カーテンを閉める。
洋輔「そういえば、ヴァンパイアって言ったら、知ってるか?」
一「何が?」
洋輔「この辺付近で、死体が発見されたんだけどさ……。その被害者、血が抜かれてたんだってさ」
一「血?」
洋輔「そう。何日にも渡って、血を抜かれたんだってさ。それで、大学だと、ヴァンパイアなんじゃないかって噂だぞ」
一「アホらし」
洋輔「そうか? 夢があるじゃん、ヴァンパイアなんてさ」
一「いるわけないだろ、そんなの。お前何歳だよ」
洋輔「あー、やだやだ。これだから、夢の無い奴はつまらないんだよな」
一「うるせえ」
洋輔「ま、それに仮にヴァンパイアだったとしても、一には関係もんな」
一「なんでだよ?」
洋輔「そんなヘロヘロの奴の血を吸ったって、ヴァンパイア側も苦笑いするじゃないか?」
一「うるせえな」
場面転換。
夜。
一の寝息の音。
パンと肌を叩く音が響く。
場面転換。
チャイムの音が響く。
一「来たか!」
立ち上がって、ドアのところへ行き、ドアを開ける。
一「買ってきてくれたか!?」
洋輔「あ、ああ……。えっと、にんにくと、おもちゃの十字架、トマトジュースに、木の杭、それにハンマーって、何に使うんだ?」
一「とにかく、入ってくれ」
洋輔「あ、ああ……」
二人が部屋に入る。
そして、一が袋からカンを取り出して、開けて飲み始める。
洋輔「お前がトマトジュースなんて、珍しいな。どうしたんだ?」
一「ちょっと血が足りなくてな」
洋輔「……は?」
一「……なあ、洋輔。真剣に聞いてくれるか?」
洋輔「あ、ああ。なんだよ?」
一「昨日、お前が言ってたの、マジかもしれねえ」
洋輔「昨日のって?」
一「ヴァンパイア」
洋輔「……え? マジで? どいうことだよ?」
一「俺、噛まれた」
洋輔「……いやいやいや。んなわけねーって。何かも間違いだろ?」
一「これ、見てくれよ! 首筋!」
洋輔「ん? ああ、なんか2ヵ所、ポツッと赤くなってるな」
一「これ、噛まれた後だよ、きっと」
洋輔「いや、それだけだと、わからんだろ」
一「すげー血が出てたんだよ。シーツにもべっとり血がついててさ」
洋輔「血か……」
一「他にも証拠がある。魅了っていう能力を使われて、体を操られた」
洋輔「操られた?」
一「ああ。窓のカギが開いてた。俺が閉め忘れるなんて絶対にないから、操られて、鍵を開けさせて、それで俺の血を飲んだんだ」
洋輔「……」
一「それに、今朝から、眩暈が酷いんだ。食欲もないし。きっと、噛まれたことで、体がヴヴァンパイア化してるんだと思う」
洋輔「……」
一「よし、さっそく、ニンニクを吊るして、十字架を首にかけて、杭とハンマーは手の届くところに、と」
洋輔「ちょ、ちょっと待った!」
一「なんだよ?」
洋輔「多分、それ……ヴァンパイアじゃないと思うけど」
一「はあ? なんでだよ? お前が言いだしたんだろ?」
洋輔「いや、そうだけど……。いるわけないって、ヴァンパイアなんて」
一「常識にとらわれるなよ。現に、噛まれた俺が言ってるんだ。いるに決まってるだろ」
洋輔「お前さ、さっき、眩暈が酷くて、食欲ないって言ってたよな?」
一「ああ。血が座れて、ヴァンパイア化が始まったんだと思う」
洋輔「それ、普通じゃね?」
一「は?」
洋輔「眩暈して、食欲ないんだろ? 夏バテか、熱中症の症状なんじゃないか? ほら、閉め切ってるから熱がこもるんだよ、この部屋」
一「け、けど! 窓のカギは? 俺、絶対に閉め忘れたりなんかしないって」
洋輔「すまん。昨日、俺が閉め忘れた」
一「……じゃ、じゃあ! 首筋! この噛まれた痕が証拠だ!」
洋輔「それ……蚊に刺された痕だろ」
一「……」
プーンと蚊が飛ぶ音が響く。
終わり。