■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
猿渡(さるわたり)
蟹屋(かにや)
教師
■台本
猿渡(N)「好きな女の子に、ずっと見ててもらいたい。それは男なら誰でもそう思うはずだ。だけど、俺には好きな子に振り向いてもらえるほどのものを持っていない。格好良くもないし、勉強も運動もダメ。でも、やっぱり諦められない。……だから俺はあの子に振り向いてもらうために――」
場面転換。
蟹屋「あんた、私の上靴隠したでしょ!」
猿渡「はあ? お前のくせえ靴なんて知らねえよ」
蟹屋「んだと、このサル!」
ガラガラとドアが開く。
教師「ホームルーム始めるぞ。猿渡も蟹屋もイチャイチャしてないで、席つけー」
猿渡「……っ」
蟹屋「先生! 私、イチャイチャなんてしない! 取り消してください!」
教師「はいはい。……あれ? 蟹屋、お前、なんでスリッパなんだ?」
蟹屋「……上靴、隠されたんです」
教師「猿渡、返してやれ」
猿渡「はーい……」
蟹屋「やっぱ、てめえじゃねーか!」
教師「ああ、そうだ。今年の村の、柿の取り放題だけど、猿渡、当選してたぞ」
猿渡「よっしゃー!」
蟹屋「えええー! なんで、私じゃないのよー」
教師「完全抽選だから、しょうがないだろ。2次募集に応募しておけよ」
蟹屋「でも、2回目、あるかわからないんですよね?」
教師「まあ、今年の取れ高によるだろうな」
蟹屋「ちょっと、サル、その権利、私によこしなさいよ」
猿渡「なんでだよ」
蟹屋「私、柿が好物なのよ!」
猿渡「俺もだよ」
蟹屋「私の方が好きよ!」
猿渡「……とにかく、権利はやらねえぞ」
蟹屋「死ね!」
猿渡(N)「俺は蟹屋に意地悪をすることで、俺を見てもらうという作戦を取った。確かに、いい方には思われないかもしれないけど、知られてないよりはマシだ。その甲斐あって、毎日、蟹屋とは話が出来ている。……というより喧嘩している。でも、そのせいか、周りからはカップルのように見られることが多い。仲がいいほど喧嘩するって言うし、もしかしたら、蟹屋の方も、俺のことが気になってるのかもしれない。……だって、俺を罵倒する言葉が段々過激になってきてる。それって、逆にいうと、気を許してる相手だってことだよな」
場面転換。
ザッと、蟹屋の前に現れる猿渡。
猿渡「よお、蟹屋」
蟹屋「……なんの用よ? あんた、柿の取り放題に行ってたんじゃないの?」
猿渡「ふっふっふ! もう、行ってきた」
バッと袋を出す、猿渡。
蟹屋「うっ! 柿がいっぱい……」
猿渡「どうだ、すごいだろ? 今年は豊作だってよ」
蟹屋「……で? なによ? わざわざ、見せびらかしに来たの?」
猿渡「いや、お前さ、柿、好物だって言ったよな?」
蟹屋「それが何よ?」
猿渡「少し、お前に分けてやろうと思ってな」
蟹屋「え? い、いいの?」
猿渡「ああ。とっておきの柿をやるよ」
蟹屋「ホント!?」
猿渡「この、青い柿をな! てやっ!」
蟹屋「きゃあっ!」
猿渡が柿を蟹屋に投げつける。
猿渡「はっはっはっは。立派な青い柿だろ? 今の衝撃でも全く崩れてないぞ」
蟹屋「こ、このサル! もう許さない!」
猿渡「うお! 怖ぇ! 退散退散!」
猿渡が走って行く。
場面転換。
道を歩く猿渡。
猿渡「ふふふふ。上手くいったぜ」
猿渡(N)「取り放題で取った柿。それをそのまま渡したところで、怪しんで受け取らなかっただろう。だが、ああやって意地悪した際に、袋を置き忘れれば、あいつは心置きなく、柿を受け取れる。……ふふ。この気の使い方、あいつに伝わってるかな? もしかしたら、今頃、俺のことを思って、照れているかもしれない。ホントはさ、一緒に食べたかったけど、お前の意地っ張りな性格は、それを受け入れられないだろ? だから、俺からのプレゼントをゆっくりと味わってくれよ」
場面転換。
学校のチャイム。
教師「よーし、ホームルーム始めるぞー。猿渡、蟹屋、イチャイチャするのやめて、席につけー」
蟹屋「だーかーら! イチャイチャじゃない!」
教師「あー、そうだ、蟹屋。お前、柿の取り放題の2次募集、当選してたぞ」
蟹屋「え!? 本当ですか? やったー!」
猿渡「お前、ホントに柿が好きなんだな」
蟹屋「そうなの。すっごい好きなのよ」
猿渡「ふーん」
蟹屋「あ、そうだ! ねえ、猿渡。柿の取り放題、一緒に行かない?」
猿渡「え? ……あー、うん。いいよ」
蟹屋「ホント? じゃあ、会場の前で待ち合わせね」
場面転換。
猿渡(N)「いよっしゃー! まさか、蟹屋から誘ってくるなんて……。やっぱり、あいつも俺のこと、好きになったってことなのかな? よーし、この機会を活かして、もっともっと、あいつと仲良くなるぞ!」
場面転換。
蟹屋が走ってくる。
蟹屋「ごめーん。お待たせ」
猿渡「ああ。俺も、今、着たとこ」
蟹屋「さてと、それじゃ、行って来るね」
猿渡「え? 一緒に行くんじゃ?」
蟹屋「……だって、この券一枚だと、入れるの一人でしょ?」
猿渡「あ、そっか……」
蟹屋「それじゃ、行って来るね」
蟹屋が歩き去っていく。
猿渡「えーっと。ああ、そっか。こうやって、ポツンと一人残らせるって、作戦か。くそ、喜んで損した……」
場面転換。
蟹屋「お待たせ―。今年の柿はホント、豊作だね。美味しそうなのがいっぱいだったよ」
猿渡「随分、早かったな」
蟹屋「だって、取ってきただけだから」
猿渡「え? 中で食べなかったのか?」
蟹屋「うん。一緒に食べたかったから」
猿渡「え?」
蟹屋「ちょっと、恥ずかしいこと聞き返さないでよ。あんたと一緒に食べたかったから、中じゃ食べなかったの」
猿渡「……」
猿渡(N)「やっぱり、蟹屋は俺のこと……」
蟹屋「うん。一緒に食べよ! はい、これが、あんたの……」
猿渡「あ、ああ……」
蟹屋「青い柿だよ!」
猿渡「ぶべ!」
バンと顔面に青い柿を当てる。
蟹屋「それでも食ってろ、サル野郎! あー、スッとしたー」
蟹屋が歩き去っていく。
猿渡(N)「……どうやら、蟹屋には本気で嫌われていたようだ。……ずっと俺のことを見てくれてても、これじゃ意味ないな……」
シャリっと柿をかじる猿渡。
猿渡「固いし、渋い……」
終わり。