【声劇台本】王の散策

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
オウマ
セリル

■台本

爆音が鳴り響く。

王「なっ! 何事だ!?」

兵士「報告します! 魔物が1体、こちらに向かって進行中です」

王「魔物だと? さっさと始末しろ。白竜騎士団を向かわせて構わん」

兵士「それが……」

王「どうした?」

兵士「白竜騎士団は既に全滅です」

王「なんだと!? そんなバカな! たった1体の魔物に、このガルギド王国の最大武力が破れた、だと!」

宰相「王。すぐに避難の準備を。王の血を絶やすことは避けねばなりません」

王「ふむ。そうだな。なんとか時間を稼げ」

宰相「避難と言って、民を城に集めろ。魔物が民を襲っている間に、王の移動の準備を進めろ」

兵士「そ、それが……」

王「何をしている! 早くしろ!」

兵士「魔物は既に城内に侵入しております」

王「なんだと!?」

そのとき、さらなる轟音が鳴り響き、城が崩れ始める。

王「そ、そんな! 城が! 我が城が崩れていく……」

宰相「王! 早く、避難を……」

ガラガラと瓦礫が降り注ぐ。

王「うあああああああああ!」

場面転換。

ナレーション「一週間ほど前」

セリルが杖で地面を叩きながら山道を歩いている。

道が崩れ始める音。

セリル「え? う、うわあああ!」

道が崩れ、セリルが落ち始める。

オウマ「よっと!」

オウマがセリルの手を掴む。

セリル「あれ?」

オウマ「危なかったな」

場面転換。

セリル「ありがとうございました」

オウマ「気にするな。偶然、通りかかっただけだからな」

セリル「あなたは命の恩人です。何かお礼が出来ればいいのですが……」

ガサガサとカバンを漁るセリル。

オウマ「いや、いいって。それより、俺はオウマ。お前は?」

セリル「セリルといいます」

オウマ「セリルは目が見えないんだろ? そんなお前が、どうしてこんな足場の悪い山道を一人で歩いているんだ? どう考えても自殺行為だろ」

セリル「それが……僕が住んでいた村が侵略されてしまい……。隣の国へ向かおうと思いまして」

オウマ「……そっか。親はその侵略で?」

セリル「いえ、両親は僕が小さい頃に事故で亡くなりました」

オウマ「いや、今もセリルは十分小さいぞ」

セリル「は、はは……。そう言われてしまうと……」

オウマ「隣の国に行きたいんだったな? よし、じゃあ、俺が送ってってやるよ」

セリル「そ、そんな! 悪いですよ。命を救っていただいただけで、返しきれないほどの恩をいただきました」

オウマ「そんなに堅苦しく考えるなよ。俺も一人で旅をするのも飽きてきたからさ、話し相手が欲しかったんだよ」

セリル「で、では、お言葉に甘えまして……」

オウマ「よし、じゃあ、決まりだな。行こうぜ」

セリル「はい」

場面転換。

木のまな板の上で、食材を切るセリル。

オウマ「へー。器用だな」

セリル「小さい頃からずっとやってたので」

たき火のパチパチという炎の音。

オウマ「火もスムーズに起こせるし、テントを立てる早さも舌を巻いたぞ」

セリル「はは……なんか、照れますね」

そのとき、魔物の低い唸り声が聞こえてくる。

オウマ「なんだ?」

セリル「この声は……ダークウルフですね」

オウマ「声だけでわかるのか? 俺でも無理なのに、すげーな」

セリル「ははは……。目が見えない分、耳が良いみたいで」

草を搔き分けて、ダークウルフが現れる。

オウマ「セリル。下がってろ。俺が対処する」

セリル「待ってください!」

セリルがダークウルフに向かって歩く。

オウマ「おい、危ないぞ!」

セリル「大丈夫です。この声は警戒はしてますが、敵意はそこまで強くありません。それに……」

ダークウルフに触れるセリル」

セリル「やっぱり。怪我してるみたいです」

場面転換。

セリル「これでよし、と」

オウマ「大したもんだ、応急処置も完璧だな。……けど、その……いいのか?」

セリル「なにがですか?」

オウマ「魔物は憎むべき存在だろ?」

セリル「え? どうしてですか?」

オウマ「いや、どうしてって……。その、お前の村は魔物に……」

セリル「ああ、違いますよ。僕の村は魔物じゃなくて、兵士……人によって滅ぼされました。近くの町を侵略するための拠点にするという理由で」

オウマ「そ、そうなのか? いや、けど、そうだったとしても、人間からしたら魔物は敵だろ?」

セリル「敵? そうでしょうか? 別に僕は魔物に何かされたわけじゃありませんよ」

オウマ「……お前が何かされたわけじゃないにしても……人間と魔物はずっと戦ってきた。人間と魔物は分かり合えないものだろ」

セリル「えっと……。そういう話ですと、人間も、人間同士で戦ってきましたよ。現に僕の村もそれに巻き込まれましたから」

オウマ「うっ! それはそうだけど」

セリル「それに、人間と魔物が分かり合えないとは思えません。だって……」

ダークウルフがクーンと鳴いて、セリルの手を舐める。

セリル「ほら、少なくても僕とこのダークウルフは分かり合えましたよ」

オウマ「そっか……そうだな」

場面転換。

セリル「送っていただいて、ありがとうございました」

オウマ「数日だったけど、楽しかったぜ」

セリル「はい。僕もです」

オウマ「なあ、セリル。お前の村に侵略したっていうのはどこの兵士だ?」

セリル「え? えっと……ガルギド王国って言ってました」

オウマ「ふーん……」

セリル「それがなにか?」

オウマ「いや、なんでもない。じゃあ、セリル、元気でな」

セリル「はい! オウマさんも」

場面転換。

バンとドアを開けて、オウマが入ってくる。

そして、ドカッと玉座に座る。

配下「王! 一人で城から出るのはお止めくださいと、何度も……」

オウマ「一人で行かないと散歩にならないだろ」

配下「……まったく。王に何かあったらどうするのですか?」

オウマ「俺に? 何かあるなんてこと、あるか?」

配下「……はあ。そう言われると、返す言葉がないのですが。……それはそうと、国を一つ滅ぼしたようですね」

オウマ「ああ。ちょっと目障りだったからな」

配下「では、本格的に人間に対して、侵略開始というわけですね? 長年の争いに終止符を打ちましょう。さっそく、準備を……」

オウマ「いや、必要ない」

配下「は? しかし……」

オウマ「それどころか、分かり合える日も近いかもな」

配下「は、はあ……」

場面転換。

スズメが鳴く声。

オウマ「んー! いい朝だ。さてと、今度はどこに行こうかな」

終わり。

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