■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
郷英(きょうえい)
響(ひびき)
その他
■台本
悪霊「キシャ―!」
郷英「……斬」
ガラスが割れるような音が響く。
悪霊「ギヤアアアア!」
女性「あ、あの……?」
郷英「終わりましたよ、奥さん。これで息子さんの意識も回復するでしょう」
女性「ありがとうございます!」
郷英「では、こちらの口座に……」
女性「はい、200万、振り込んでおきます」
郷英「どうも……」
場面転換。
カツカツと歩いている郷英。
そこに響が走って来る。
響「ちょっと待ちなさい! 郷英!」
郷英「ちっ! またウルセエのが来やがった」
響「あんな低級霊を祓って、200万ってぼたっくりでしょー!」
郷英「あのな、お嬢ちゃん。これはビジネスだ。あそこの息子は低級霊に取り憑かれていた。その幽霊を、いくら払ってでも祓って欲しい。その希望に俺が応えただけだ。つまり、俺が提示する除霊料に、あの母親が納得して出した。他人がどうこう言うことじゃないだろ」
響「あんな低級幽霊、500円、いやタダだっていいくらいだよ!」
郷英「それはお前の相場だろ」
響「とにかく、あの人にお金、返しなさいよー」
郷英「はあ。やれやれ仕方ないな。いくら欲しいんだ?」
響「お金を要求してるんじゃなーい! 返せって言ってんの!」
郷英「断る。俺も、食っていかないとならないんでな。学生で、親に養ってもらってるお前とは違うんだ」
響「だからって、除霊でぼったくりで稼ぐなんて許せない―!」
郷英「だーかーら。あの値段はちゃんと、あの母親が納得して出した金だ。もし、高いってなら、他を当たればよかっただろうが」
響「うう……。私が最初に話してれば……」
郷英「はあ……。あのなあ、お嬢ちゃん。お前みたいな女子高生に霊を祓ったって言われたって、納得できると思うか? しかも、タダで、だ。相手は不安に思うだろうな」
響「でも、私の方があんたよりも、ずっと優秀だよ?」
郷英「そんなこと、あの母親がわかるわけないだろ」
響「うう……」
郷英「身分と金額。それには、安心という意味合いも含まれているんだ。高いからこそ霊はちゃんと祓われたはずだ。社会的な身分のある大人が、嘘を言うはずがない。そういう安心も含めて、あの母親は俺から買ったんだよ」
響「うう……ズルい大人の言い分だよ」
郷英「大人はみんなズルいもんさ。じゃあな」
響「あ、こら! まだ、話は終わってなーい!」
場面転換。
社長「……というわけでして。どうしても、この建物を使えるようにしないとならないのです」
郷英「なるほど。……かなりの犠牲者が出てますね、ここ」
社長「わ、わかりますか?」
郷英「かなりの数の悪霊と、その中にかなり怨念の強いやつがいるのを感じます」
社長「こ、これ以上、業者に犠牲者を出すわけにはいかんのです。悪霊がいなくなれば、ここは最高の物件になります。なんとか、お願いできませんか?」
郷英「ふーむ。これはなかなか骨が折れますね。今まで受け持った案件でも、トップクラスだ」
社長「お願いします! なんとかしてください!」
郷英「わかりました。ですが、今回は成功報酬ではなく、半分は前金でいただきます。準備にも、かなりの費用がかかる。前金で、300万、お願いします」
社長「わかりました。お支払いします」
場面転換。
郷英が歩いている。
郷英「お、いたいた。おーい、お嬢ちゃん」
響「あ、郷英! あんたが話しかけてくるなんて珍しいわね」
郷英「あー、いや、まあ、な。お嬢ちゃんとはいがみ合っていたけど、同業だし、最後の挨拶くらいはしておこうと思ってな」
響「……なに? この町、出ていくの?」
郷英「ああ。結構、荒稼ぎさせてもらったしな。今回は、もう前金貰ったし、そのまま消えさせてもらうさ」
響「ちょ、ちょっと! どういうことよ!」
場面転換。
響「うわー……。こりゃ、凄いわね」
郷英「だろ? さすがに俺レベルじゃ無理だ」
響「けど、あんた、前金貰ったんでしょ?」
郷英「ああ」
響「お金貰っておいて、逃げるってどういうつもりよ!」
郷英「言ってるだろ。逃げるつもりだって」
響「じゃあ、依頼者はどうするのよ?」
郷英「さあ?」
響「ふっざけんじゃないわよ! 悪霊に困っている人がそこにいるのよ? それを解決するために除霊師がいるの!」
郷英「悪いが、俺はそんな高尚な意識は持ってない。食っていくためにやってるだけだ。そして俺は、仕事で命をかける気はない」
響「うう……。見損なったわよ!」
郷英「とっくに見損なわれてたと思ったんだがな。まだ、信じてる部分があったのか?」
響「もういい! 私がやるわ!」
郷英「ああ? なんでお前が。依頼されたのはお前じゃねーだろ」
響「悪霊に困ってる人がいる! 理由はそれだけよ!」
ズンズンと建物に入っていく。
郷英「ふう……。ま、15分ってところか」
場面転換。
バンとドアが開いて、響が出てくる。
響「はあ、はあ、はあ……。祓ってやったわよ。さすがにちょっと疲れたけど」
郷英「おおー。さすが天才除霊師。まさか、10分切るとは」
響「いい!? わ、た、し、が祓ったんだからね! あんたは何もしてない! わかってるわね?」
郷英「ああ。わかったわかった。俺は何もしなかった。そして、お前が除霊をした」
響「忘れないでよ!」
ズカズカと歩き去っていく。
郷英「若いねぇ……」
場面転換。
社長「本当にありがとうございました。これで、安心して工事に入れます」
郷英「いえいえ。仕事ですから。では、残りの報酬はこちらに振り込んでください」
社長「わかりました」
場面転換。
郷英が歩いている。
そこに響が走って来る。
響「きょーえーいー!」
郷英「おお、お嬢ちゃん。今日も元気だな」
響「除霊は私がしたでしょ!」
郷英「ああ。そうだな」
響「なんで、報酬受け取ってるのよ!」
郷英「分け前が欲しいのか? いくらだ?」
響「お金がほしいわけじゃなーーーい!」
郷英「あ、そう」
響「あんた、何もしてないのに、なんで報酬を受け取ってるのよ!」
郷英「あのなあ、お嬢ちゃん。俺は、あの場所の除霊をしてくれと依頼された。それで、あの場所を、悪霊がいない状態にした。それに、俺が除霊するとは言ってない」
響「――っ! そんなのへ理屈よ!」
郷英「へ理屈だろうが、なんだろうが、あの社長の依頼内容は達成した。それに対しての報酬を受け取っただけだ」
響「うううー! ズルい大人めー!」
郷英「大人はズルいもんさ」
終わり。