■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
絵麻(えま)
康太郎(こうたろう)
みつば
静(しずか)
史郎(しろう)
■台本
水に沈んでいく音。
男の声「来世で……必ず……」
場面転換。
ガバッと起き上がる音。
絵麻「……夢……か」
場面転換。
みつば「水の中に落ちていく夢、ね」
絵麻「でも、嫌な感じはしないんだよね……」
みつば「んー。夢占いでも見てみる?」
絵麻「ううん。なんか、違う気がするんだよね」
みつば「でも、その夢、何回か、見てるんだよね?」
絵麻「うん。本当に時々、ね。でも、着にすることでもないのかな?」
みつば「まあ、絵麻が気にならないなら、きにしなくてもいいんじゃない?」
絵麻「うん、そうだね……」
みつば「それじゃ、帰ろっか。駅前のスイーツの新店、寄っていくでしょ?」
絵麻「うん、行く」
場面転換。
絵麻とみつばが歩いている。
みつば「だってさー」
絵麻「あはは! それは引くねー」
そこに康太郎が走って来る。
康太郎「あ、あの……」
絵麻「え?」
みつば「ん?」
康太郎「やっと……見つけた」
絵麻「……見つけた?」
みつば「え? なになに? 知り合い?」
絵麻「ううん……。知らない人」
康太郎「うん。確かに、まだ会ったことはないね」
みつば「……じゃあ、ナンパ?」
康太郎「いや……。前に会ったことがある」
みつば「は? 今、会ったことがないって言ったばかりじゃない」
康太郎「前世で会ったんだ」
絵麻「え……?」
みつば「……ぷっ! あはははは! なーに、それ! 古っ! なんだかんだ言って、ナンパじゃない!」
康太郎「静……。見つけたよ。約束通り」
絵麻「いや、私……」
みつば「あのさあ、この子は絵麻! 静って名前じゃないわよ。誰かと間違えてるんじゃない?」
康太郎「静……」
バッと絵麻の手を握る康太郎。
みつば「ちょっ! あんた……」
絵麻「……」
水に沈む音。
場面転換。
静「どうするの、史郎?」
史郎「うーん。そうだね。こうなったら、駆け落ち……しかないかな」
静「あははは。そう来たかー。諦めるって選択肢はないの?」
史郎「んー。ないね。静は、やっぱり嫌?」
静「ううん。史郎が諦めるなんて言ったら、強引にでも一緒に村を出るつもりだったよ」
史郎「けど、苦労するよ。村を出るなんて」
静「苦労なんて……ずっとしてきたじゃない。それにくらべれば今更」
史郎「ま、そうだな……」
静「それじゃ、今日の夜に、村の外れでね」
史郎「ああ。わかった」
場面転換。
静「もう、遅い」
史郎「ごめんごめん。じゃあ、行こうか」
静「うん……」
二人が歩き出す。
下の方で川が流れる音。
静「気を付けてね。落ちたら終わりだよ」
史郎「ああ。下に川があるとしても、助かりそうにないよな……」
二人で慎重に歩いて行く。
静「……色々、あったよね」
史郎「辛い事ばっかりだったけどね」
静「でも、史郎と出会えた」
史郎「良かった点はそこだけだよね」
静「もし……もし、私が捨て子じゃなかったら……」
史郎「ん?」
静「もし、私の身分が普通で、みんなに祝福されたとしたら……どうなってたかな」
史郎「さあ……。でも、静と一緒なら、どんなところでも、幸せだと思うよ」
静「うん……。私も」
史郎「なあ、静」
静「なに?」
史郎「逆に言うとさ。静と一緒じゃないと不幸ってことなんだ」
静「うん……。そうだね。私も、史郎がいない人生なんて考えられないかな」
史郎「だからさ、もし、静と別れることがあったとしても、必ず、見つけに行く」
静「……どういうこと? 連れ戻される……とか?」
史郎「んー。なんていうかな。例えば、もし、なにかあって、俺が死ぬことがあったとしたら……」
静「そんな不吉なこと言わないでよ」
史郎「ごめん。でもさ、もし、俺が先に死んだとしても、生まれ変わって必ずまた静のところに会いに行く。……で、もし、先に静が死んだとしても、生まれ変わった静を探しに行く」
静「んー。でも、それだと、私と史郎は親子くらいの年の差だよ?」
史郎「嫌か?」
静「ううん。でも、史郎はいいの? おばあちゃんの私でも」
史郎「もちろん」
静「でもさー、史郎」
史郎「ん?」
静「こんなこと話してたら、なんかありそうな気がするんだけど」
史郎「あー、うん。俺もそう思った」
男「史郎さま! お戻りください! 村長がお怒りです」
史郎「悪い。俺は帰る気はない」
男「その女のせいですね。その女がいなければ……」
史郎「お、おい、やめろ!」
男「覚悟!」
静「きゃあっ!」
史郎「静っ!」
ガラガラっと足元が崩れる音。
史郎「う、うわああああ!」
男「史郎さま!」
ザザザザっと崖から落ちる音。
ドボンと水に落ちる音。
ぷはっ! と二人が水面に顔を出す。
史郎「静!」
静「史郎!」
史郎「静、聞いてくれ! もし、もし、このまま死んだとしても……絶対に見つける! 来世でも、絶対!」
静「うん!」
史郎「もし、俺のことを忘れても、これだけは覚えててくれ! 前世で会ったことgあるって……。そう、声をかけるから!」
静「うん! わかった!」
場面転換。
絵麻「……あ、史郎」
康太郎「思い出した?」
絵麻「確かに、前世で会ってたね」
康太郎「うん」
絵麻「それにしても……ぷっ!」
康太郎「あ、もしかして、全部思い出した?」
絵麻「うん」
康太郎「川に落ちたところまでの記憶なら、格好よかったんだけどね」
絵麻「いいじゃない。史郎との記憶は全部、思い出しておきたかったし」
康太郎「……はは」
場面転換。
静「……史郎、大丈夫?」
史郎「……うーん。さすがにもう、ダメそうかな」
静「そっか……」
史郎「もう、俺も80だからね。寿命だよ寿命。あのとき、崖から落ちた時に二人とも生き残っただけでも、儲けものだったさ」
静「うん……。そうだね」
史郎「70年以上も一緒にいれたんだ。これ以上は贅沢ってものだよ」
静「わかってる。でも……」
史郎「また、次も一緒にいよう。見つけるよ。来世で……必ず」
静「うん……。待ってる」
終わり。