■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
直輝(なおき)
彩花(あやか)
真(まこと)
悪魔
■台本
直輝(N)「そのときの俺は学校に一人も友達もいなかったし、勉強も下から数えた方が早かったし、運動神経も皆無で、特に趣味もなく、日々をただ漫然と過ごしていた。まさに、どうしようもない奴だった」
直輝が歩く音。
その横を車が通っていく。
直輝「……」
ピタリと立ち止まる。
直輝「このまま車に飛び込めば、楽になれるのかな……」
直輝(N)「そんなときだった。……あいつが現れたのは」
悪魔「自殺をお考えですか?」
直輝「うわああ!」
悪魔「ああ、驚かせてしまったようですね。申し訳ありません」
直輝「な、な、なんだ、お前は?」
悪魔「見たままですよ。悪魔です。……説明が面倒なので、人間が思い浮かべる悪魔の姿をしてみたのですが……。あまり効果はありませんでしたかね?」
直輝「……悪魔が俺になんのようだ? もしかして、魂を取りに来たのか?」
悪魔「そうですね。ここで、ご自身で命を絶たれるようでしたら、どうか私に譲っていただけないでしょうか?」
直輝「……ちょうどいい。最後の最後くらい、誰かのためになるなら、それもいい。例え、悪魔のためでもな。さあ、持っていけよ」
悪魔「ああ……。それがですね。悪魔といえども、勝手に持っていくことはできません。ですので、売っていただけませんか?」
直輝「売る? 魂を抜かれたら死ぬんじゃないのか? それなら、金を貰っても意味ないだろ」
悪魔「ええ、ええ。その通りでございます。ですので、売っていただくのはあなたの寿命。売っていただいた残りの命で、お金を使っていただく、というのはどうでしょう?」
直輝「……なんか、面倒くさいな。俺としては今すぐ渡したいところなんだが」
悪魔「まあまあ、そう言わず、私を助けると思って。最後にやりたいことをやる、というのも良いものですよ?」
直輝「……わかった。その条件を飲むよ」
悪魔「ありがとうございます。では、あなたの魂の値段を算出させていただきます。ええと……あなたの魂は1年で1億といったところですね」
直輝「1年で1億? 随分と高いな。普通のサラリーマンが生涯で稼ぐ金額が2置くくらいって聞いてるぞ」
悪魔「ええ、ええ。そうですね」
直輝「……人間の魂ってやつは、みんなそれくらい高いのか?」
悪魔「いえいえ。それこそピンキリですよ。生涯を通して、数万、という方もいらっしゃいますよ」
直輝「ふーん。まあ、いいや。で、俺はどのくらい売ればいいんだ?」
悪魔「そうですね……。せめて、もらった金額を使い切るくらいは残していただきたいですね」
直輝「んー。じゃあ……50年ってところでどうだ?」
悪魔「かしこまりました。では、50億であなたの魂を買い取らせていただきます」
直輝(N)「正直、現実離れし過ぎていて、夢かと思った。だが、俺の口座が作られていて、そこには50億の金額が入っている。そして、そのことに、周りは誰もおかしいと思っていない。……これも悪魔の力なんだろうか」
自動ドアが開く音。
店員「ありがとうございました」
直輝が店から出てきて歩き出す。
直輝(N)「50億。このとんでもない金額を使うためにとりあえず、色々と食べ歩きをしているが、それでも全然、使いきれない。友達に奢ってやろろうと思っても、友達もいないし、親に何かプレゼントをしてやろうという思いも湧かない」
ビルの中から彩花が飛び出してくる。
彩花「やっぱり、嫌です!」
男「ここまで来て、ふざけんじゃねえ!」
彩花「でも、その……無理です」
男「じゃあ、どうやって借金返すつもりだ?」
彩花「……そ、それは」
男「諦めろよ。これしかねーんだから」
彩花「……」
直輝「あの、よくわかりませんが、強引過ぎるのはどうかと思うんですが」
男「ああ? なんだてめえ! 関係ねえだろ、引っ込んでろ!」
直輝「……借金でしたっけ? いくらですか? 俺、払いますよ」
彩花「え?」
男「へっ! 学生に500万なんて払えるわけねーだろ」
ドサドサドサと札束を置く音。
直輝「これでいいですか?」
男「お、おお……。まあ、払ってくれるなら」
男が去っていく。
彩花「あ、あの、ありがとうございました」
直輝「どうせ、余らせていたお金だ」
彩花「えっと、なにかお礼をさせてください」
直輝(N)「彩花と名乗った女は、親の残した借金で、随分と苦労したらしい。彩花には夢があるらしいが、お金が無くて、諦めてたらしい」
彩花「ねえ、直輝くんも、一緒に大学受けようよ。色々お世話になった分、今度は私が勉強教えるよ」
直輝「いいよ、面倒くさい」
彩花「やることないんでしょ? なら、暇つぶしってことで」
直輝「暇つぶし……ね」
直輝(N)「彩花の大学の入学金の代わりということで勉強を教わることになった。彩花の教え方が上手いということもあり、勉強はなかなか楽しかった。そして、俺はなんなく、希望の大学に入ることができた」
真「頼む、直輝! 助けてくれ!」
直輝「……面倒な頼みなら却下だ」
真「今日、アプリの納品日なんだ。プログラム、手伝ってくれ」
直輝「……はあ。そういうことは早く言えって言っただろ。今から高給で募集かけるぞ」
真「いや、お前に手伝って欲しいんだよ。欲しいのは労働力じゃなくて、お前のプログラミングセンスだ」
直輝(N)「真は大学に入ってからできた友達だ。学生ながら、企業を起こすというちょっと変わった奴だ。まあ、俺が出資したんだけど」
パソコンを打つ音。
真「つーかさ。お前、社長のくせに全然顔出さないって、ダメじゃね?」
直輝「は? 俺、社長なのか?」
真「当たり前だろ。お前が金出してるんだから」
直輝「いや、俺はただの出資者だよ」
真「俺は、お前とだから起業したの! お前が嫌なら、俺も辞めるよ」
直輝「……」
直輝(N)「正直、真とは金での繋がりとしか思われていなかったから、この言葉は正直、嬉しかった」
真「うおおおお! やったぞ、直輝! この前のアプリがメガヒットだ!」
直輝「……色々な会社から依頼が来てるな」
真「……どうする? さすがに2人だけだと無理だぞ」
直輝「人を雇おう」
真「そんな金、どこに!? 銀行だって貸してくれねーぞ」
直輝「俺が出す」
真「バカ言うな! リスクは一緒に負うって約束だろ」
直輝「金に関しては気にするな。それに、これは俺の会社だ。俺が金を出すことに口を出すんじゃねえ」
真「ったく、なんなんだよ、お前は。石油王の息子か何かか?」
直輝「まあ、そんなところだ」
直輝(N)「この投資は大成功を納めた。会社は一気に大きくなり、俺はさらに会社へ投資し続け、ついには上場も果たした」
彩花「ねえ、直輝くん。結婚……してくれないかな?」
直輝「……普通、プロポーズは俺からするものじゃないのか?」
彩花「だって、待ってたら、いつまで経ってもしてくれなさそうだし」
直輝「俺で……いいのか?」
彩花「もう、それはこっちの台詞!」
直輝(N)「彩花は夢だった弁護士になり、色々と忙しい毎日を過ごし、俺も同じく忙しかったが、決してすれ違うこともなく、順風満帆な生活が続き、子供も2人授かることができた」
悪魔「お約束通り、魂をいただきに参りました」
直輝「あ……」
悪魔「ふふふ。年収1億。まさに査定どおりになりましたね」
直輝「ま、まってくれ! 買い直す! 俺の魂を……寿命を買い戻す! 頼む! 今、死ぬわけにはいかないんだ!」
悪魔「ふふふ。そんな提案を受け入れる悪魔はいませんよ」
直輝「う、うう……ああ……」
ドサっと倒れる音。
悪魔「ああ、そうそう。あのときの魂の査定は、私からお金を『受け取っていない』ときの金額になります。これがどういうことか……。まあ、もう遅いですし、止めておきましょう。それでは、さようなら」
終わり。