【声劇台本】無難な学校生活

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
佐藤 宗吾(さとう そうご)
田宮(たみや)
矢代(やしろ)
その他

■台本

宗吾(N)「僕の名前は佐藤宗吾。宗吾という名前は強そうな感じがするが、僕は逆に気弱で、人と話すのも不得意なほどだ。そんな僕にしてみれば、学校という場所はお世辞にも好きなところとは言えない。逆に嫌いな場所だ。でも、そんな僕にも、とっておきの秘策がある……。この秘策があれば、僕の学校生活は無難に送ることができる」

教師「よーし。これでクラス全員、なにかしらの委員になってるな? 自分はまだなんの委員にもなってない奴はいるか?」

宗吾「……」

教師「じゃあ、ホームルームは終わりだ。今日は帰って良いぞ」

教室内が騒がしくなる。

宗吾(N)「もちろん、今のホームルームで僕はなんの委員にもなっていない。……委員になれば、仕事をしなければならない。まあ、それはいいとして、誰かと一緒となれば、その人と話さなくてはならない。それはいやだ。だから、何の委員にもならないというのが最良の策だ」

田宮「最悪―。俺、科学委員になっちまったよ」

矢代「えー。まだいいじゃん。俺、清掃委員だぞ。なんで、月に一回、校内の大掃除なんかしなくっちゃならないんだよ!」

宗吾(N)「うちの学校は、全員、何かしらの委員に入らないとならない。だけど、僕は今、何の委員にもなっていないのだ。もちろん、見つかれば、怒られる。でも、逆を言うと見つからなけれ、問題がない。……そう、何事も、『見つからなければ』いいのだ。僕はひたすら、息を殺し、存在が透明になる方法をマスターした。先生も、周りのみんなも、僕が何の委員にもなっていなことに気づいていない。僕はこの方法で、去年も委員にならずに、過ごすことに成功している」

田宮「はあ……帰るか。……腹減ったな。なんか食ってかね?」

矢代「あ、じゃあ、ファミレス行こうぜ。みんなー、こと後ファミレス行く人―!」

女生徒1「あ、はいはい! 私行くー」

女生徒2「じゃあ、私もー」

男子生徒1「俺も行こうかな……」

男子生徒2「行く行く! 俺も!」

矢代「うおっ! 結構な大人数になったな。じゃあ、行く人着いて来て―」

宗吾「……」

場面転換。

ファミレス内。

店員「お冷です」

矢代「ありがとうございます。あ、みんなに回してー!」

店員「ご注文はお決まりですか?」

男子生徒1「俺、パスタ。ミートソースで」

女子生徒2「じゃあ、私は……」

場面転換。

クラスメイト達が楽しく話している。

宗吾(N)「こういう集まりは本当に苦手だ。誰かと話さないといけないという雰囲気。……まあ、話さないけど。だけど、なんで、わざわざこんな集まりに参加しているのか? 普通、嫌なら着いていかなければいい。別に強引に誘われたわけでもないし。でも、それを続けていると、クラスメイトに『付き合いの悪い人』という印象を与えてしまう。それは、存在を透明でいることに致命傷になる。ある意味、目立ってしまうからだ。だから、逆に、こういう不特定多数が集まる場合は積極的に参加する。その場にいれば、付き合いが悪いという印象を与えないからだ」

店員「お待たせしました。ミートソースのパスタです」

男子生徒1「あ、俺俺―!」

宗吾(N)「そろそろ、帰り時だ。僕に必要なのは、その場にいたような気がする、という感じを周りに持ってもらえればいいのだ。みんな帰るときにいなくなっても、誰も気づかない。さすがに料理が来始めると注文していない僕が目立ってしまう。だから、全員分のが来る前にスッと変えるのだ。ちなみに、僕には水も配られていない。そのことに誰も気づいていない。……まさに完璧だ」

宗吾「ごめん。ちょっとトイレ行って来る」

男子生徒2「ん? ああ」

宗吾が立ち上がって歩いて行く。

場面転換。

教室内。

ざわざわしている。

教師「今日で学園祭も終わりだが、羽目を外し過ぎて問題とか起こすなよ。節度を守って楽しめよ。あと、終わったらちゃんと後片付けもあるからな。そのまま帰るなよ。出席取るからな」

宗吾(N)「前から楽しみにしていた学園祭も今日で終わりなのが残念だ。こういう学校行事は授業が無いし、なによりサボってもバレにくい。僕にとっては最高の休日のような日だ。もちろん、学園祭の準備もしていないし、この後の後片付けにも参加しない。……いや、その場に数分いるだけで、機会を見計らってサッと消える。これが一番いい、学園祭の過ごし方だ」

場面転換。

教師「28、29、30……。よし、全員いるな。じゃあ、後片付けだ。片付けまでが学園祭だぞー」

矢代「あーあ。なんか、あっという間だったなー」

田宮「まあ、帰りに打ち上げしようぜ、打ち上げ―」

矢代「いいな。やろうやろう」

宗吾(N)「先生も出席取ったし、どこかで片付けが終わるまでサボろう。ホントは帰りたかったけど、打ち上げがあるっぽいし、そこに参加していれば、後片付けのときにいなかったというのもあやふやになるはずだ」

場面転換。

体育館を歩く宗吾。

宗吾「……後片付けで、どこの教室にも人がいるからなー。仕方ない。体育館倉庫で寝てようっと」

ガラガラとドアを開けて、倉庫内に入り、マットの上で横になる宗吾。

宗吾「……あー、なんか眠くなって来た」

場面転換。

教師「よーし、これで、後片付け終わりだ。先生が戸締りしていくからお前らは帰っていいぞー」

男子生徒1「はーい」

宗吾「……え?」

教師「誰も倉庫内にいないよな?」

宗吾「……え? あ、いますいます」

ガチャガチャと鍵が掛けられる。

宗吾「え? え? え?」

ドアを何度も開こうとするが、開かない。

宗吾「閉じ込められた!」

ドンドンドンとドアを叩く宗吾。

宗吾「います! 倉庫内にいますー!」

しかし、静寂のまま。

宗吾「……どうしよう」

場面転換。

矢代「あはははは。ソウコ、大変だったな」

女子生徒1「夜の体育館倉庫って怖そうだよね」

女子生徒2「幽霊とか出なかった?」

宗吾「え? あ、うん。ずっと寝てたから」

田宮「そんな状況で寝てるなんてスゲーな、ソウコは」

宗吾(N)「あの後、僕は体育館倉庫に閉じ込められたままで、結局、解放されたのは次の日の朝だった。しかも、僕を探しに来たのではなく、部活の朝練で用具を取りにきた生徒に発見されただけだ。……つまり、一晩、僕がいなくなったことを誰も気づかなかったのだ。その中に親も含まれていることに僕は驚愕を覚えたけど、まあ、家でも空気化できてたのかと思えば、それはそれで誇らしい」

矢代「ソウコ、帰りにカラオケ行こうぜ!」

女子生徒1「ソウコくん、宿題忘れたから見せてくれない?」

田宮「ソウコ、一緒に昼飯食おうぜー」

宗吾(N)「その事件以来、僕はすっかり有名人になってしまった。あだ名もソウコになってしまい、何かと話しかけられるようになった。これでは、もう存在の空気化は無理だ。今まで積み上げていたものが一気に崩れてしまった」

女子生徒2「ねえ、ソウコくん、冬休みに、先生に内緒でクラスのみんなでお泊り会するんだけど、参加するでしょ?」

宗吾「あ、う、うん。参加する」

女子生徒2「ふふ。楽しみだよねー、お泊り会」

宗吾「う、うん。そうだね」

宗吾(N)「……僕の学校生活は無難ではなくなってしまったけど、これはこれでまあ、いいかなと、今では思っている」

終わり。

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