■概要
人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
亜梨珠「ふふふ。どうかしら? お兄様の真似をしてみたのよ」
亜梨珠「……あら? お気に召さなかったかしら?」
亜梨珠「あなたはモノマネはあまり好きじゃない?」
亜梨珠「まあ、私も悪意があるモノマネは好きじゃないんだけれど」
亜梨珠「でも、真似というのはとても大事な事なのよ」
亜梨珠「学ぶというのは、真似ぶ、というところからきているって話、聞いたことないかしら?」
亜梨珠「なにごとも最初は真似ることから始めるのよ」
亜梨珠「赤ちゃんだって、最初は両親の真似をしようとするわよね」
亜梨珠「それになにか、新しいことを始めるときには、まずは経験者の真似をするところから始めるわよね」
亜梨珠「ええ。私も昔はお兄様の真似ばかりして、お客さんの前に立とうとしたわ。そのたびにお兄様には叱られたけれどね」
亜梨珠「それじゃ、今日は真似についての、お話でもしようかしら」
亜梨珠「その男は昔から、すごく器用で、なにをしても上手くいくらしかったの」
亜梨珠「というより、真似をするのが上手かったみたい」
亜梨珠「初めてのことでも、経験者の真似をなんとなくすることで、初心者には思えないくらい、最初から何事も上手くいっていたみたいよ」
亜梨珠「でも、そんな男でもすぐに限界が来たみたい」
亜梨珠「ほら、よく言うでしょ? 基礎を学んだら、次はその基礎を破るようにすることが大事って」
亜梨珠「その男は真似をすることは得意だったんだけど、いわゆる自分でなにかを作り出す、というのは不得意だったみたい」
亜梨珠「だから、いつしか周りにはまねしかできない男って言われてたようね」
亜梨珠「でも、そんな男にも一つの転機が現れたわ」
亜梨珠「それは陶芸」
亜梨珠「一から物を作り出せるということに魅了されたみたいなの」
亜梨珠「そして、真似が上手いのは陶芸でも発揮されたわ」
亜梨珠「でも、陶芸は焼きあがるまではどうなるかわからないという部分もあるから、それが面白かったみたい」
亜梨珠「そんなあるとき、人間国宝と呼ばれる人の元で弟子をさせてもらえるようになったの」
亜梨珠「その師匠の真似をし続けることで、ドンドンと頭角を現したらしいわ」
亜梨珠「そして、あるとき、その男が焼いた陶器を、師匠が自分の作品だと言って売り始めたみたいなの」
亜梨珠「もうその頃には、師匠が作ったものか、その男が作ったものなかが見分けがつかないくらいの真似の精度になっていたというわけね」
亜梨珠「そこから10年が経ったとき、男は師匠に独り立ちしたいと言ったらしいわ」
亜梨珠「すると師匠は激怒して、もし、弟子を止めるなら、この世界にいられなくしてやると言われたらしいの」
亜梨珠「男は悩んだけど、やはり自分が作ったものとして、評価して欲しいと思い、独り立ちを決意したわ」
亜梨珠「師匠は自分のモノマネしかできない男が成功するわけがないと吐き捨てたの」
亜梨珠「確かに数年間はただの贋作と言われて評価されなかったらしいわ」
亜梨珠「でも、時間が経つにつれて、徐々に評価されるようになったわ」
亜梨珠「そして、ついには師匠よりも評価されるようになったそうよ」
亜梨珠「なぜなら、師匠は弟子に代わりに作品を作らせていただけだけど、男はその間もずっと師匠の真似の精度を上げていったの」
亜梨珠「それで、ついには師匠よりも師匠らしい作品だと言われるようになったわ」
亜梨珠「つまり、師匠でもその男のような作品は作れないってわけね」
亜梨珠「どう? 真似と言っても突き詰めれば、それは真似ではなく立派なオリジナリティになると思わないかしら?」
亜梨珠「今日は短いけど、お話は終わりよ」
亜梨珠「また来てね。さよなら」
終わり。