■概要
人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
亜梨珠「……え? 顔が赤い?」
亜梨珠「あら、ダメね。まだ、動揺していたみたい。……実は、先ほどお客さんにデートに誘われたのよ」
亜梨珠「ふふふ。どう返答したか、気になるかしら?」
亜梨珠「もちろん、お断りしたわ」
亜梨珠「でも、あまりにも、情熱的だったから、少し驚いてしまって……」
亜梨珠「あなたは、情熱的に告白をしたことがあるかしら?」
亜梨珠「……そういえば、告白の言葉を殺し文句、なんていうことがあるけれど、どうしてかしらね」
亜梨珠「恋に落とすことを、殺す、なんて表現するのは、私的にはどうかなって思うのよね」
亜梨珠「ああ、そういえば、殺し文句といえば、ある話を思い出したわ」
亜梨珠「今日はそのお話をしようかしら」
亜梨珠「以前、お兄様が闇の眷属の話をしたのを覚えている?」
亜梨珠「その一族……吸血鬼のお話」
亜梨珠「彼女は、一族の中でも、かなりの力の持ち主だったの」
亜梨珠「強大な力を持つ彼女は、一族の中でも異端で、その力を自由気ままに使って、人々を恐怖に陥れていたわ」
亜梨珠「一族の者も、なんとか彼女を止めようとしたのだけれど、誰一人、生きて帰って来た者はいなかったの」
亜梨珠「もちろん、一族の者よりも人間の犠牲者の方が多かったわ」
亜梨珠「……現代では、疫病として亡くなったことになっているわね」
亜梨珠「一族の中でも、長く生きた彼女は次第に、生きることに飽きてきて、自分を殺しに来る者を倒すことが生き甲斐になっていたわ」
亜梨珠「でも、あまりにも、返り討ちにしてきたから、そもそも彼女を狙おうとする者さえいなくなってしまったの」
亜梨珠「それこそ、狙われた疫病にかかったようなもの、として諦めてしまうほどに」
亜梨珠「それでも彼女は自分への復讐者を生むためだけに、人々を殺し続けたわ」
亜梨珠「そして……そんなある日。家族を殺された一人の少年が、彼女の命を狙いに来たの」
亜梨珠「彼女は喜んだわ。そんな者が現れるなんて、実に数十年ぶりだったから」
亜梨珠「その少年は人間だったということもあり、彼女から見たら、全然、力は及ばない存在だったわ」
亜梨珠「それでも彼女は、この貴重な存在を消すことが勿体なくなり、痛めつけるけど、殺すことはしなかったの」
亜梨珠「殺されなかった少年は、何度も何度も彼女に挑み続けたわ。そのたびに、返り討ちに合い、修行をして力を付け、また彼女に挑んだ」
亜梨珠「そんなことを15年ほど続けたわ」
亜梨珠「少年が青年になる頃、体はボロボロになっていたのだけれど、人間の中では右に出る者がいないと言われるほどの実力者に育っていたわ」
亜梨珠「彼女は少年……青年が強くなっていくのが楽しかったみたいね。その青年と戦う事だけが人生の楽しみと言っていいほどだった」
亜梨珠「そんなある日。ちょっとした油断で、彼女は青年にかなり追い詰められたの」
亜梨珠「そして、喉元に剣先が突きつけられ、止めを刺される瞬間……。青年は剣を納めたわ」
亜梨珠「……理由は言わなかったみたいね。彼女は激怒して、理由を聞いたのだけれど、決して教えなかったわ」
亜梨珠「青年はそのまま帰ってしまったわ」
亜梨珠「彼女の怒りは収まらず、次に挑んできたときは、青年を殺そうと決心したの」
亜梨珠「だけれど、それから青年が挑んでくることはなかったわ」
亜梨珠「彼女は変装して、青年の住む村へと行ったの。そしたら……」
亜梨珠「青年は病に臥せっていて、死の寸前だったわ」
亜梨珠「病で死ぬくらいなら、と彼女は青年の喉元に爪を立てたの」
亜梨珠「すると青年は、彼女に対して、長年の恨みつらみを言ったの」
亜梨珠「彼女はそんな言葉は聞き飽きていたから、何とも思わなかったみたいね。でも……」
亜梨珠「青年は最後に、こう言ったの。お前を殺せなくて、すまない、と」
亜梨珠「彼女はその言葉に衝撃を覚えたわ。今まで感じたことのない、言い表せない感情だったらしいわ」
亜梨珠「彼女は、そのまま青年を殺した……」
亜梨珠「それから、一年も経たない頃。彼女は自分で自分の命を絶ったらしいわ」
亜梨珠「青年を手にかけた後、自分の命を絶つまで、ずっと引きこもっていたらしいの」
亜梨珠「だから……きっと、青年の最後の言葉によって、彼女は自ら死を選んだというわけね」
亜梨珠「彼女がその言葉を聞いて、どう思ったかは、本人しかわからないわ。でも……きっと……」
亜梨珠「私は、この言葉が青年から彼女に対しての、文字通り殺し文句、だったのではないかって思うわ」
亜梨珠「ふふふ。どういうことかわからない?」
亜梨珠「これは私の考えよ。あなたはあなたの答えを見つけてみて」
亜梨珠「さて、今日のお話はこれで終わりよ」
亜梨珠「また来てね。さよなら」
終わり。