【声劇台本】わからない想い

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ルーティア
リュウ
その他

■台本

ルーティア(N)「退屈だった。人間よりも全ての面に置いて遥かに上の存在である吸血鬼。そんな私たちが食料である人間に気を遣うのが単に面倒くさかった。だから、自由に振舞っただけ」

ルーティア「ふふふふふ……」

長老「ルーティア、やめろ! 我々は闇の眷属。目立つようなことをするんじゃない」

ルーティア「人間なんて、ただの食料じゃない。食料に気を使ってどうするのよ?」

長老「どうやら、お前と話し合うのは無理なようだな」

ルーティア「そうね。私は好き勝手にやらせてもらうわ」

長老「悪いな。お前には消えて貰う」

バサっと多くのマントが翻る音。

ルーティア「40……50……。ざっと100人というところかしら?」

長老「一族一番の力を持つお前でも、これだけの人数の前では、どうしようもあるまい」

ルーティア「ふふふ……。いいわ。いらっしゃい。私をゾクゾクさせて」

長老「かかれ!」

大勢がルーティアに襲い掛かる音。

場面転換。

ルーティア「100人の吸血鬼との戦闘。あれで、私は戦う楽しさを覚えた。生きているという充実感。相手の生命を無慈悲に終わらせるという高揚感。私は戦闘に魅入られてしまった」

場面転換。

男1「ひぃ! 赤毛のルーティアだ! に、逃げろ!」

男2「た、助けてくれ!」

ルーティア(N)「100人の吸血鬼との一戦により、私は有名となり、そのせいで私と戦おうなんて考える者はいなくなった。同族の吸血鬼でさえも」

場面転換。

老人「赤毛のルーティア様。若い男女を10人用意しました。これで、何卒、お見逃しください」

ルーティア「うふふふ。いいわよ。見逃してあげる」

老人「ほっ……」

ルーティア「その10人だけを、ね」

老人「そ、そんな! ぎゃあああああ!」

ルーティア「あはっ! あははははは!」

ルーティア(N)「人間はいい。吸血鬼と違って、一族全体のことよりも、個人の絆を重視する。吸血鬼は、どんなに殺しても私を無視し続けている。でも、人間は違う。大切な者を殺せば……」

場面転換。

青年1「赤毛のルーティア。今日こそ、お前を滅してやる」

青年2「今まで殺された者達の恨みを受け止めるがいい!」

ルーティア「ふふふふ。いらっしゃい」

ルーティア(N)「いくら力が劣っていても、私に挑んでくる。殺しても殺しても殺しても……。いや、殺すからこそ、私を狙う人間が増えていく。その人間を返り討ちにする。それが今の私の唯一の楽しみ」

場面転換。

リュウ「お父さん! お母さん!」

父親「リュウ! 逃げるんだ! 早く」

ルーティア「うふふふ。私を楽しませてくれるなら、その子供は見逃してあげる」

父親「うおおおおおお!」

リュウ「お父さーーん!」

ルーティア(N)「私にとっては、いつもと変わらない展開。子供の目の前で両親を殺す。もしくは、両親の目の前で子供を殺す。そうすれば、死ぬまで私を狙い続けてくれる」

場面転換。

リュウ「見つけたぞ。赤毛のルーティア」

ルーティア「あら、また来たのね、リュウ」

リュウ「何度でも来るさ。お前を殺すまではな」

ルーティア「ふふふ。前回は死にかけたのに、その目には一切、恐怖が写ってない。いいわ、あなた」

リュウ「……今日こそ、お前を殺す!」

ルーティア「そういえば、その右腕……。どうやったの? 人間は再生しないものだと思ったのだけれど」

リュウ「この腕は魔導と科学を融合させて作った特殊な義手だ。お前を殺すためだけに人間が編み出したものだ」

ルーティア「ふーん。まあ、いいわ。今回も、私を楽しませてね!」

リュウ「うおおおおおお!」

ルーティア「うふふふふふふ」

ルーティア(N)「リュウと名乗る人間は、随分と私を楽しませてくれている。何度も、何度も、何度も、瀕死まで追い込んでも、殺意を持って私の元へ来てくれる。その強さは人間とは思えないほど研磨され、精錬されたものになった。今の私は、リュウのおかげで充実している。……あの100人の吸血鬼との殺し合いのときよりも、ずっと」

場面転換。

リュウ「……もう、20年になるんだな。お前に両親を殺されてから」

ルーティア「ごめんなさいね。吸血鬼は人間とは時間の感覚が違うの。20年なんて、最近よ」

リュウ「そうか……。俺は人生の全てをお前を殺すことだけに捧げて来た」

ルーティア「素晴らしいわ、リュウ。あなたを超える人間はもう出てこないでしょうね。それくらい、あなたの力は完成されている」

リュウ「……仲間もお前に全て殺されて来た。……考えてみれば、俺が今まで生きて来た人の中で、お前が一番長い付き合いになった」

ルーティア「そうね。私も、そうかもしれないわ。少なくても、私の中で、あなたが一番私の中での存在感が大きいわ」

リュウ「今日で……終わらせる」

ルーティア「うふふふ。いいわ。最高に、私を高ぶらせて」

リュウ「うおおおおお!」

ルーティア(N)「リュウは強かった。四肢はもちろん、体のほとんどの箇所は、人工物と入れ替わっている。もう、人間とは言えないほどに。だからこそ、リュウの強さは私にさえ、届くほどになった。……ああ。最高よ。リュウ……。あなたに殺されるなら、私は満足……。いえ、あなたに殺されたい」

リュウ「うおおおお!」

ドスと剣が刺さる音。

ルーティア「がはっ!」

リュウ「はあ、はあ、はあ……」

ルーティア「おめでとう。リュウ。あなたの勝ちよ。さあ、止めを刺しなさい」

リュウ「ああ……」

ルーティア「ふふふふ。ありがとう」

リュウ「……」

ルーティア「あなたとの時間、最高だったわ。さあ、私を殺して、両親の仇を討ちなさい」

リュウ「……」

ルーティア「私という呪縛から解き放たれ、あなたはあなたの人生を生きなさい」

リュウ「俺の……人生」

ルーティア「そうよ。今更かもしれないけれど、人間として生きればいいわ。私を殺せば、あなたは称えられ、崇められ、一生困らないほどの富を得るはずよね。それを使って、残りの人生を謳歌するといいわ」

リュウ「……俺は」

ルーティア「さあ、やりなさい」

スッと剣を抜き、歩き出すリュウ。

ルーティア「待ちなさい! どうして? どうして、止めを刺さないの? 私が憎いんでしょ? 殺したいのでしょ? どうして? 待って! 殺しなさい!」

リュウ「……」

ルーティア(N)「なぜ、リュウが私に止めを刺さなかったかは、わからない。わかりたくもない。私は初めて、憎いという感情を覚えた。初めてリュウという人間を殺してやりたいと思った。だから……」

場面転換。

ルーティア「今度は私が殺しに来たわ、リュウ」

リュウ「ああ……」

ルーティア「……病だって? 私が手を下さなくても、死にそうね」

リュウ「そう……だな」

ルーティア「安心して。私がちゃんと殺してあげるわ」

リュウ「ああ……」

ルーティア「……どうして、あの時、私に止めを刺さなかったの?」

リュウ「……」

ルーティア「いいたくないってわけね。いいわ。……言い残すことはある?」

リュウ「……俺の人生はお前を憎む人生だった。本当だったら、戦いなんて知らずに過ごす人生だった。もしかしたら、結婚し、子供をもっていたかもしれない」

ルーティア「……」

リュウ「お前が憎い。それは今も変わってない。お前に憎しみ以外の感情を持ったことはない」

ルーティア「あ、そう。じゃあ、死になさい」

リュウ「……すまなかったな」

ルーティア「……っ!」

リュウ「お前を殺せなくて」

ルーティア「……」

リュウ「あのとき、殺してやるべきだった。……すまなかった」

ルーティア「……さよなら」

ザシュっという音が響く。

場面転換。

ルーティア「これで、私の話は終わりよ。……ふふふ。そうね、どうして、この話をしようかと思ったのかしら。自分でもわからないわ。……ただ、聞いて欲しい。そう思っただけ。本当にわからないことばかりよ。なぜ、リュウは私を殺さなかったのか。なぜ、最後に私に謝ったのか……。そして、どうして、その言葉が私の中に深く、突き刺さっているのか……。でも、これだけはわかるわ。私の中でリュウは大きな存在だった。それを失った今、この喪失感を埋めることができないくらい。それに、私はもう十分長く生きたわ。だから、もう、いいやって気持ちよ。……本当はあのとき、リュウに止めを刺してもらうのが一番良かったのだけれど。いつか……機会があれば、この話を誰かにしてもらえるかしら。私なんかの為に、人生を捧げたバカな男がいたってことを。それじゃ、さようなら。最後に話せて楽しかったわ」

終わり。

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