■概要
人数:5人以上
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
リュウ
ルーティア
その他
■台本
リュウが5歳の頃。
リュウ「お父さん! お母さん!」
父親「リュウ! 逃げるんだ! 早く」
ルーティア「うふふふ。私を楽しませてくれるなら、その子供は見逃してあげる」
父親「うおおおおおお!」
リュウ「お父さーーん!」
場面転換。
リュウが15歳の頃。
リュウ(N)「それはなんの前触れもなく、突然に、無慈悲に、絶望に叩き落とされた。周りは、それを災厄と呼び、運が悪かったと言う。だが、俺は……それを受け入れることができなかった。俺は、その災厄を殺すことを決意した……」
場面転換。
吸血鬼1「ま、待ってくれ! もう、数ヶ月も血を吸っていなかったんだ。しかもこいつは既に瀕死で、俺が血を吸わなくても死んでいた。だから……ぐあああ!」
ザクっと剣が胸に突き刺さる音。
リュウ「お前の事情は関係ない。お前は吸血鬼。それが、俺に殺される理由だ」
吸血鬼1「う、い、嫌だ……」
ザンと斬られる音。
場面転換。
師匠「リュウ……。無用な殺生はするなと言ったはずだが?」
リュウ「お言葉ですが、師匠。相手は吸血鬼です。存在するだけで人に危害を加えます。滅ぼすに越したことは無いでしょう」
師匠「リュウよ。存在してはいけない者などいないのだ。お前がやってるのは、単なる八つ当たりを正当化しているだけだな」
リュウ「どう思われても構いません。俺は吸血鬼を滅ぼし……赤毛のルーティアを必ず殺す。それだけです」
師匠「……」
場面転換。
リュウ「ようやくだ……。ようやく見つけたぞ、赤毛のルーティア」
ルーティア「あら。どこかで会ったかしら? まあ、いいわ。いらっしゃい。遊んであげる」
リュウ「うおおお!」
戦いの音。
ルーティア「あら、なかなかやるわね。まだ子供なのに」
リュウ「うおおお!」
ルーティア「ふふふふ。いいわ。ぞくぞくしちゃう。少し、本気を出しちゃおうかしら」
ザンと腕が斬られる音。
リュウ「ぐあああああ!」
ルーティア「ふふふ。片腕くらいなくなっても、まだやれるわよね?」
リュウ「ぐっ! くそ……」
場面転換。
リュウ「……はっ! ここは?」
師匠「気づいたか。よく、生き残ったものだな。赤毛のルーティアと会って、生きて帰ってきただけで、十分凄いさ」
リュウ「……生き残るだけじゃダメなんです。奴を殺せなきゃ、全く意味がない」
師匠「……もう辞めないか? 復讐したところで、お前の両親は戻ってはこない」
リュウ「わかっています。確かにあいつに対して憎しみがありますが、俺みたいな人間をこれ以上増やさないためにも、あいつを殺さないといけないんです」
師匠「片腕では無理だ。諦めろ」
リュウ「例え両腕が無くなっても、あいつの喉を噛み切ってやります」
師匠「……わかった。お前には、新しい戦う力を与えてやる」
リュウ「……新しい力?」
場面転換。
女性「こんにちは。あなたがリュウね」
男性「赤毛のルーティアと戦って、生きて帰って来たんだよな? すげーよ」
リュウ「……殺せなかったら意味はない」
女性「またまたー。謙遜しちゃって。協会の人たちは、みーんな、リュウのことを救世主だって言ってるわよ」
リュウ「興味ない」
男性「ふふ。まあ、そんなこと言うなよ。これから、チームで動くんだから、よろしくな」
リュウ「……」
場面転換。
男性「助けてくれ! リュウ! リュウ―!」
女性「いやああーーーー!」
ザンと斬られる音。
バンとドアが開く音。
リュウ「はあ、はあ、はあ……。くそ、間に合わなかったか……」
ルーティア「あら、また来たのね、リュウ」
リュウ「何度でも来るさ。お前を殺すまではな」
ルーティア「ふふふ。前回は死にかけたのに、その目には一切、恐怖が写ってない。いいわ、あなた」
リュウ「……今日こそ、お前を殺す!」
ルーティア「そういえば、その右腕……。どうやったの? 人間は再生しないものだと思ったのだけれど」
リュウ「この腕は魔導と科学を融合させて作った特殊な義手だ。お前を殺すためだけに人間が編み出したものだ」
ルーティア「ふーん。まあ、いいわ。今回も、私を楽しませてね!」
リュウ「うおおおおおお!」
ルーティア「うふふふふふふ」
リュウ(N)「ルーティアと戦う中で、たくさんの出会いがあり、それと同じ数の別れを経験した。だが、それを悲しんでいる暇はない。俺はあいつをルーティアを殺すことだけに人生を捧げたのだから」
場面転換。
師匠「リュウ……」
リュウ「師匠、しっかりしてください」
師匠「ふふ。床の上で、こうして穏やかに逝ける儂は、幸せなのか……それとも、不幸なのか。たくさんの者達を育ててきたが、残ったのはお前だけだ」
リュウ「師匠には感謝してます。師匠のおかげで、あいつと戦えるんです」
師匠「なあ、リュウよ。どうするんだ?」
リュウ「……どうするとは?」
師匠「あいつを……ルーティアを殺した後は、どうするのだ?」
リュウ「あいつを……殺したあと?」
師匠「もし、復讐を果たしたら、お前は自由だ。……どう生きる?」
リュウ「……わかりません。今まで、あいつを殺すことだけを考えていたので。……殺した後に考えます」
師匠「……もしかしたら、お前にも……普通の人生があったのかもしれないな」
リュウ「……」
リュウ(N)「俺は今まで、あいつを殺すことだけを考えて生きて来た。殺す事さえできれば、この命がなくなってもいいとさえ思っていた。……殺した後……。そんなことは考えたことはなかった」
場面転換。
リュウ「……もう、20年になるんだな。お前に両親を殺されてから」
ルーティア「ごめんなさいね。吸血鬼は人間とは時間の感覚が違うの。20年なんて、最近よ」
リュウ「そうか……。俺は人生の全てをお前を殺すことだけに捧げて来た」
ルーティア「素晴らしいわ、リュウ。あなたを超える人間はもう出てこないでしょうね。それくらい、あなたの力は完成されている」
リュウ「……仲間もお前に全て殺されて来た。……考えてみれば、俺が今まで生きて来た人の中で、お前が一番長い付き合いになった」
ルーティア「そうね。私も、そうかもしれないわ。少なくても、私の中で、あなたが一番私の中での存在感が大きいわ」
リュウ「今日で……終わらせる」
ルーティア「うふふふ。いいわ。最高に、私を高ぶらせて」
リュウ「うおおおおお!」
戦いの音。
ドスと剣が刺さる音。
ルーティア「がはっ!」
リュウ「はあ、はあ、はあ……」
ルーティア「おめでとう。リュウ。あなたの勝ちよ。さあ、止めを刺しなさい」
リュウ「ああ……」
ルーティア「ふふふふ。ありがとう」
リュウ「……」
ルーティア「あなたとの時間、最高だったわ。さあ、私を殺して、両親の仇を討ちなさい」
リュウ「……」
ルーティア「私という呪縛から解き放たれ、あなたはあなたの人生を生きなさい」
リュウ「俺の……人生」
ルーティア「そうよ。今更かもしれないけれど、人間として生きればいいわ。私を殺せば、あなたは称えられ、崇められ、一生困らないほどの富を得るはずよね。それを使って、残りの人生を謳歌するといいわ」
リュウ「……俺は」
ルーティア「さあ、やりなさい」
スッと剣を抜き、歩き出すリュウ。
ルーティア「待ちなさい! どうして? どうして、止めを刺さないの? 私が憎いんでしょ? 殺したいのでしょ? どうして? 待って! 殺しなさい!」
リュウ「……」
リュウ(N)「なぜ、あいつを殺さなかったのか。……正直、自分でもわからなかった。ただ、全てが終わることが……怖かった」
場面転換。
リュウ「ごほっ! ごほっ!」
女の子「リュウ様、大丈夫ですか?」
リュウ「ああ。今日は大分調子がいいよ。……今日はもういいから、帰りなさい」
女の子「わかりました。もし、何かあれば、言ってくださいね」
女の子が立ち去る。
リュウ「ごほっ! ごほっ! ごほっ!」
リュウ(N)「あれから俺は、肺の病にかかり、戦うことができなくなった。医者からそう聞かされた時、俺は……正直、ホッとしてしまった。あいつは生きている。あいつを憎しみながら、俺は死ぬことができる」
ルーティア「今度は私が殺しに来たわ、リュウ」
リュウ「ああ……」
ルーティア「……病だって? 私が手を下さなくても、死にそうね」
リュウ「そう……だな」
ルーティア「安心して。私がちゃんと殺してあげるわ」
リュウ「ああ……」
ルーティア「……どうして、あの時、私に止めを刺さなかったの?」
リュウ「……」
リュウ(N)「こいつに殺されるなら、悪くない。こいつとはずっと殺し合いをしてきた仲だ。今まで出会った誰よりも、こいつとの付き合いが一番長い。人生のほとんどをこいつのことを考えて生きて来た。……言ってしまえば、俺にとって、こいつは俺の半身と言っていいほどに」
ルーティア「いいたくないってわけね。いいわ。……言い残すことはある?」
リュウ「……俺の人生はお前を憎む人生だった。本当だったら、戦いなんて知らずに過ごす人生だった。もしかしたら、結婚し、子供をもっていたかもしれない」
ルーティア「……」
リュウ「お前が憎い。それは今も変わってない。お前に憎しみ以外の感情を持ったことはない」
ルーティア「あ、そう。じゃあ、死になさい」
リュウ(N)「……なぜ、ルーティアはそんな悲しそうな顔をするのだろう? お前にとって、俺は単なる獲物ではなかったのだろうか? ……もし、お前にとって、俺も半身のように思っているのなら……」
リュウ「……すまなかったな」
ルーティア「……っ!」
リュウ「お前を殺せなくて」
リュウ(N)「俺を殺したら、こいつの生きる目的もなくなるのではないだろうか。そんな人生に、こいつは耐えられるのだろうか? 俺は……耐えられずに逃げた。だから、あのとき、こいつを殺さなかったんだ。こいつを殺した後、俺の人生も終わる気がして……それで怖くなって、止めを刺さなかった……」
ルーティア「……」
リュウ「あのとき、殺してやるべきだった。……すまなかった」
ルーティア「……さよなら」
リュウ(N)「思えば奇妙な関係だった。もっとも憎くて、もっとも親しい、俺の半身。その半身に殺されるのなら、俺は幸せなのかもしれない……」
ザシュっという音が響く。
終わり。