■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
亮二(りょうじ)
翔太(しょうた)
子供
母親
■台本
ガチャリとドアが開く音。
亮二「おお! 翔太、来てくれたのか」
翔太「よお、亮二。調子はどうだ?」
亮二「大分いいけど、念のため来週退院だってよ」
翔太「ただの風邪から肺炎って、お前らしいよ」
亮二「うっせーな。それより、持ってきてくれたか?」
翔太「ああ。ほら、スケッチブック」
亮二「さんきゅー。絵でも描いてねーと暇でさ」
翔太「けど、来週退院って、コンクールの絵、大丈夫なのか?」
亮二「まあ、退院してからちょっとムリすりゃ余裕余裕」
翔太「そんなことばっかしてるから、体調崩すんだよ」
亮二「うっせーな」
子供の声「やーだ! 明日の手術、怖いよ!」
母親の声「大丈夫、絶対成功するから」
子供の声「うわーん!」
翔太「……今の何?」
亮二「ああ。上の階の患者じゃないかな。窓を開けてるから、時々、声が聞こえてくるんだよ」
子供の声「僕なんて、僕なんて、もうダメなんだ!」
母親「そんなこと言わないで」
翔太「……結構、重い病気なのか?」
亮二「んー。多分」
母親の声「ねえ、たっくん。あそこに木があるんだけど、あの木は奇跡の木って言われてるの」
子供の声「奇跡の木?」
母親の声「うん。あの木に花が咲いてると、奇跡がおきるのよ」
翔太「……奇跡の木って、あれか?」
亮二「多分。花も5個くらい咲いてるし」
母親の声「あの花が咲いているときは、奇跡が起こって、明日の手術も成功するのよ」
子供の声「……ホント?」
母親の声「うん、絶対。あんなにいっぱい咲いてるんだから、たっくんの手術は成功するよ」
子供の声「……じゃあ、頑張る」
母親の声「うん、偉いね、たっくん」
翔太「……まあ、こういう心の支えって大切だよな。例え、嘘くさくても」
亮二「そうだな」
そのとき、ビューと強い風が吹いて来る。
亮二「おお! 風吹いてきたな。すまん、翔太、窓閉めてくれ」
翔太「ああ……。って、あれ? 待てよ」
亮二「どうした?」
翔太「……確か、明日、台風じゃなかったか?」
翔太が携帯を出して、操作する。
亮二「おい。病院でスマホはダメだ……」
翔太「ほら、見ろ! 今日の夜、10年に一度の台風だってよ」
亮二「それが?」
翔太「いや、だから、そんな台風がきたら、あんな花、散っちまうだろ」
亮二「そうかもしれねえけど、俺達にはどうしようも……あっ!」
翔太「わかったか?」
亮二「ああ。じゃあ、すぐに俺ん家から道具を持ってきてくれ」
翔太「わかった」
場面転換。
ペタペタと色を塗る音。
翔太「おお! やるな、亮二」
亮二「くそ、葉っぱの上に描くの、ムズイ」
翔太「頑張れ! あの子供の命がかかってるんだぞ!」
亮二「わかってる。こんなところで俺の絵の技術が役に立つなんてな」
翔太「そうだぞ。人の命を救うなんて、コンクールに入賞するよりすごいことだぞ」
亮二「ああ。そうだな。……よし! できたぞ」
翔太「よし! 台風が来る前になんとか描き上げたな」
ポツポツと雨が降ってくる。
亮二「雨降ってきた。中に入ろう」
場面転換。
窓の外から台風の強い風の音が聞こえてくる。
亮二「この風なら花は全部散ってるだろうな。……俺の描いた花以外は。ふふふ」
場面転換。
ガラガラとドアが開く音。
翔太「よお、台風一過だな」
亮二「おう! 実に晴れ晴れだ。いい手術日よりってやつだな」
翔太「昨日の台風は凄かったけど、絵の花は残ってるからな。母親も奇跡って思うんじゃないか?」
亮二「そうだな。じゃあ、その奇跡の花ってやつを見ようぜ」
翔太「ああ」
カーテンをシャッと開ける翔太。
翔太「……あれ?」
亮二「どうした?」
翔太「ない」
亮二「なにが?」
翔太「花が」
亮二「ああ。台風で散ったんだろ。俺が描いた奴以外」
翔太「いや、お前の描いたやつもない」
亮二「なんでだよ!」
翔太「俺に聞かれても……。見ろよ、ないだろ?」
亮二「ホントだ。え? なんで?」
翔太「……あっ!」
亮二「なんだ? 心当たりあるのか?」
翔太「お前……あの絵具……。水性じゃね?」
亮二「……あっ!」
翔太「バカ! 台風の雨で消えちまったんだよ! どうすんだよ!」
亮二「やべえ!」
子供の声「お母さん! 奇跡の木の花、咲いてる?」
亮二・翔太「……」
母親の声「うん。いっぱい、咲いてるよ!」
亮二「え?」
母親の声「台風にも負けなかったんだね。凄いね。今度はたっくんの番だね」
子供の声「うん!」
亮二「……どういうことだ?」
翔太「さあ……」
子供の声「じゃあ、目の手術、行ってきます!」
亮二・翔太「あっ……」
終わり。