■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」
亜梨珠「ふふっ、今日は不思議な話日和ってところかしらね」
亜梨珠「え? 今日はなにか上機嫌な気がする?」
亜梨珠「そうかしら? 私自身はそうは思っていないのだけれど、もしかしたら、無意識に出てしまってるのかもしれないわ」
亜梨珠「……ええ。まあ。いいことというか……これ」
亜梨珠「兄さんがプレゼントしてくれたのよ。妹に指輪を贈るのはどうかと思うけれど、まあ、嬉しいことには違いないわね」
亜梨珠「……そうね。たった一人の家族だから、好きというより、大切って感じかしら」
亜梨珠「あなたは兄弟や姉妹はいるのかしら?」
亜梨珠「……あら、そうなのね」
亜梨珠「でも、兄弟や姉妹がいるからって、必ずしも大切な存在というわけではないものね」
亜梨珠「……え? そんなことはない?」
亜梨珠「そうかしら? 仲がよくない兄弟も、世の中にはいるものよ」
亜梨珠「……それでも、大切な存在にはかわらない?」
亜梨珠「兄弟をどう思っているかは、本人にしかわからないものよ。他人はもちろん、兄弟同士だって、相手をどう思っているかなんてわからないわ。それがどんなに似た双子だったとしても、ね」
亜梨珠「確かに家族の絆というものは、他の絆とは違う、特別なものというのはわかるわ。でもね、ときには、その特別な絆が不幸を呼ぶことだってあるのよ」
亜梨珠「……いいわ。今日はある兄弟の話をしようかしら」
亜梨珠「その兄弟は一卵性双生児で、本当にそっくりで、親でさえも見分けることができなかったらしいわ」
亜梨珠「でもね、見た目はそこまでにてたのだけれど、性格は真逆と言っていいほど、違っていたの」
亜梨珠「兄は明るく、活発的で人懐っこく、人気者だったの」
亜梨珠「でも弟の方は暗く、人見知りで、ほとんど友達がいなかったわ」
亜梨珠「弟がそんな性格だったから、兄の方はずっと弟と一緒にいて、ずっと弟を守っていたらしいの」
亜梨珠「弟の中で兄は誇らしい存在だったわ。そんな兄の弟として生まれたことを、神に感謝するほどに、ね」
亜梨珠「でも、そんなある日のことだったわ。家族で旅行をしている途中で、事故にあったの。馬車で山道を通っていた際に、落石があり、たまたま馬車に当たって、馬車の半分が割れて、父親と兄が谷底に落ちてしまったの」
亜梨珠「必死の捜索も虚しく、父親も兄も見つけることができなかったわ」
亜梨珠「そして、二人は死亡とされてしまったの」
亜梨珠「弟はかなりショックを受けたわ。自分よりも兄の方が生きるべきだったったと」
亜梨珠「自分が生き残ったことに後悔し、恥じたわ」
亜梨珠「そして、ずっと兄のことばかりを考えるようになったの」
亜梨珠「そんなある日。突然、弟の心の中で兄の声が聞こえるようになったの」
亜梨珠「兄は事故で肉体を失ったのだけれど、魂だけは残って、弟の中に入ることができたのだというの」
亜梨珠「弟は歓喜したわ。例え、肉体は滅んだとしても、兄という存在は残っていることに」
亜梨珠「そこからは弟と兄の、共存生活が始まったわ」
亜梨珠「兄は遠慮したのだけれど、弟は兄に体を貸したの」
亜梨珠「そのおかげで、周りからは弟が明るくなったと思われ、人気者になっていったわ」
亜梨珠「そして、徐々に、弟の方が表に出る時間が少なくなっていったの」
亜梨珠「元々、外見は同じの二人だったから、それはもう兄が生きているということに近くなったってわけね」
亜梨珠「そのことに弟は喜んだわ。ずっと望んでいた、兄の方が生き残ったということになるのだから。そして、もう二度と、二人は離れ離れになることはないということに」
亜梨珠「だけれど、それから数年後に衝撃的なことが起こったの」
亜梨珠「それは……」
亜梨珠「兄の方が目の前に現れたのよ」
亜梨珠「谷に落ちた後、奇跡的に命が助かり、狩人に助けられ、ずっと看病されていたのだと」
亜梨珠「つまり、兄は事故で死んでいなかったというわけね」
亜梨珠「……そう。そうなると、弟の中の兄は何なのか、ということになるわ」
亜梨珠「これはあくまで憶測なのだけれど、弟の中の兄は、きっと、弟が作り出した、兄という人格だったと思うの。つまり、兄を思う気持ちが強すぎて、兄のような人格を作り出してしまった。……二重人格者になってしまったのかもしれないの」
亜梨珠「でも、本当の兄が生きて現れてしまった……」
亜梨珠「そこで、弟はどうしたと思うかしら?」
亜梨珠「ずっと望んでいた、本当の兄が生きて現れたのよ。……涙を流して喜んだ……」
亜梨珠「わけではないわ」
亜梨珠「その逆よ」
亜梨珠「弟は自分の中の兄こそが本物で、目の前に現れた兄は偽物だと言い始めたわ」
亜梨珠「そして、ついには……兄の方を殺害してしまったのよ」
亜梨珠「弟は捕まり、死刑となったわ。でも、死刑が執行されるその瞬間まで、弟は喜んでいたの。たとえ、死刑が執行されたとしても、ずっとずっと兄と一緒でいられることに……」
亜梨珠「どうだったかしら?」
亜梨珠「家族……兄弟の絆は特別なものよ。でも、その絆をどう思っているかは、本人にしかわからないわ。……いえ、その弟にとっては、ずっと自分と一緒にいてくれる、自分の中の兄が本物だと思ってしまった」
亜梨珠「そう考えると、案外、家族の絆なんて、本人が思い込んでいるだけのものかもしれないわね」
亜梨珠「もし、そんな悲しいことが真実だったとしても、私は兄さんを大切に思っている。それが真実だわ」
亜梨珠「でも、私の中に兄を作り出さないように注意はしないといけないわね」
亜梨珠「これで、今回のお話は終わりよ」
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。