■概要
人数:3人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
直太(なおた)
昌平(しょうへい)
警官
■台本
直太(N)「アイドルのファンは、ちゃんとわきまえないといけない。例え、その子に彼氏ができたとしても、例え、結婚することになったとしても、拍手で見送ってあげるべきだ。それを祝福できないなら、それは真のファンとは呼べないのだ」
昌平「アイドルのファンが握手会で襲い掛かって逮捕だってさ。動機はもう少し、話したかった、か。これ、直太はどう思う?」
直太「愚問だよ、昌平。そいつはファンなんかじゃない。ただの妄想野郎だ。アイドルを自分のものかなにかと、勘違いしたんだろ」
昌平「けどさ、何となくわかるよ、こいつの気持ち。ファンとして、その子のために、たくさんお金使ったと思うんだよ。少しは、自分のことを知ってもらいたいって考えたって、おかしくないだろ?」
直太「その子のためにって、そんなの、そいつの勝手な行動だろ? 直接、その子に、お金を使ってって頼まれたわけじゃないだろ」
昌平「そりゃ、そうだけどさ。でも、ファンがお金を使って、初めてその子は人気者になっていくんだぞ」
直太「ファンは、その子が人気になって欲しいから、金を使う。それで、もう対価は貰っているんだよ。それ以上、求めるのはおかしい」
昌平「うわあ。お前は相変わらず、徹底してるな」
直太「当たり前だ。俺にとって、奈緒ちゃんは、神聖な存在。彼女の活躍を応援して、その姿を見て、ときめかせてもらう。それで十分だよ」
昌平「ホント、変わった奴だよ。たくさんチケット買うのに、握手会には行かないんだからな」
直太「俺の望みはアイドルである彼女を見ること。話したり、握手したり、そんなことを望んでるわけじゃない」
昌平「そんなこと言って、ただ、怖いだけだろ?」
直太「……」
昌平「お前は、人一倍、のめり込む性格だ。手なんて握った日には、暴走しちまう。それが怖いんだろ?」
直太「……そうだな。その通りだ。俺は彼女に迷惑をかけたくない。だから、見るだけ、鑑賞するだけと決めているんだ。見てるだけ。鑑賞してるだけで、俺は満足なんだ。そう思っていれば、暴走はしないだろ?」
昌平「まあ、そうだな」
直太「これさえ守っていれば、俺はその記事の奴みたいに捕まったりはしないはずだ」
場面転換。
夜。道を歩く足音が響く。
直太「お、奈緒ちゃんが出て来た。ああー。今日も可愛い……」
足音が響く。
直太「うう……。もう少し近くで見たい。……いや、ダメだ! これ以上、近づけば、彼女に感づかれる。そうなれば、彼女を怖がらせてしまう。……俺は奈緒ちゃんの真ファンだ。見るだけで満足なんだ!」
足音が止まり、鍵を開ける音と、家の中に入っていく音。
直太「はあ……。家に入ってしまった。うう……。家で何してるんだろ? 家の中の奈緒ちゃんも見たいな」
風がビューっと吹く。
直太「……見るだけ。見るだけなら、奈緒ちゃんに迷惑は掛からないはずだ。見るだけなら、俺は真のファンでいられる」
場面転換。
ガチャリとドアが開き、直太が出てくる。
直太「ふう。これで、準備はOKだ」
警察「君、ちょっといいかな?」
直太「え? な、なんですか?」
警察「……この家、君の家じゃないよね?」
直太「いや、これはその……」
警察「君、あれでしょ。ストーカーってやつでしょ?」
直太「違う! 全然違う! 俺は奈緒ちゃんの真のファンなんだ!」
警察「はいはい。じゃあ、これから、ちょっと署に来てもらえるかな?」
直人「違う! 違うんだ! 俺は見てるだけ! 見てるだけなんだー!」
終わり。