■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
洋祐(ようすけ)
修平(しゅうへい)
その他(モブ5人)
■台本
洋祐(N)「お母さんに褒められた。最初はそんな小さなことがきっかけだった。でも、それが本当に嬉しくて、僕は漫画を描き続けた。でも……」
女の子「洋祐くんのマンガ、よくわかんない」
男の子「なんか、つまんない」
洋祐(N)「結局、褒めてくれたのはお母さんだけ。だから僕は、マンガを描くのを止めたんだ……」
場面転換。
教室内。
クラスメイト1「修平くんのマンガ、面白いね」
クラスメイト2「修平、プロになれるんじゃないのか?」
洋祐「……」
クラスメイト3「私にも見せてー」
クラスメイト4「凄いな、修平」
修平「……もういいよ」
修平が原稿をクラスメイトから取り上げる。
クラスメイト2「あ、まだ読んでるのに」
修平「……無理して読まなくていいよ」
ツカツカと歩いて、教室から出ていく修平。
クラスメイト3「え? なんで、急に怒ったの?」
クラスメイト4「知らね。せっかく、転校生だから、気を使ってやったのにさ」
クラスメイト1「修平の家って、すげー貧乏なんだろ? 貧乏人の考えることはよくわかんねーな」
洋祐「……」
洋祐(N)「小学生で漫画を描く人なんてほとんどいない。だから、僕は修平君が描いた漫画が気になった。でも、見たくない。だって、僕はもう漫画を描くのを止めたんだから。だからきっと、描き続けていて、みんなに面白いって言われている修平君のことをズルいって思っちゃうから……」
場面転換。
ドアを開ける音。
洋祐「ふう。久しぶりに屋上に来たな。今日はここで時間つぶそっと」
修平「う、うう……」
洋祐「あれ? 修平君? こんなところでなにやってるの?」
修平「え? あ……。その……」
洋祐「……なんで泣いてるの?」
修平「……」
洋祐「まあ、言いたくないなら別にいいけど」
修平「みんな、僕の漫画が酷いって言うから……」
洋祐「え? みんな、面白いって言ってたんじゃない?」
修平「だからだよ!」
洋祐「……」
洋祐(N)「一体、修平君が何を言っているのかわからなかった。クラスのみんながいうように、修平君はちょっと変わったところがある。あまり、話しかけない方がいいのかも……」
修平「……ねえ、僕の漫画、読んでみてくれない?」
洋祐「え? いや……」
修平「お願い!」
洋祐「……う、うん。いいよ」
洋祐(N)「読みたくないって気持ちもあったけど、やっぱり、どんな漫画なのか、見たいって気持ちの方が強かった……」
場面転換。
ぺらりとページをめくる音。
修平「……どうだった?」
洋祐「……ない」
修平「え?」
洋祐「ぜんっぜん! 面白くない!」
修平「ほ、ホント?」
洋祐「うん! こんなの捨てた方がいいよ!」
洋祐が走り出して逃げ出す。
洋祐(N)「ウソだ。本当は、すごく面白かった。……だけど、それがすごい悔しくて……。だから、僕は面白くないって、嘘を付いたんだ」
場面転換。
チャイムの音。廊下を歩く洋祐。
そこに後ろから修平が走って来る。
修平「ね、ねえ。今、大丈夫かな?」
洋祐「え? 修平君? な、なに?」
修平「あのさ。僕の漫画、もう一つ、読んで貰ってもいいかな?」
洋祐「……また?」
修平「うん。……ダメ、かな?」
洋祐「いいよ」
修平「ホント! やったぁ!」
洋祐(N)「てっきり、この前のことで、落ち込むと思ってた。なのに、笑顔で、また読んで欲しいって言ってきた。そのことに、僕はとても腹が立ったんだ」
場面転換。
洋祐「ホント、つまらない。もう、描くの止めたら?」
修平「ね、ねえねえ。どの辺が面白くなかったの?」
洋祐「ここ。主人公が女の子を助けるところ」
修平「へー。そっかそっか」
洋祐(N)「修平君の描いた漫画はとっても面白かった。でも、悔しいから、反対のことを言ってやったんだ」
場面転換。
修平「また、読んでくれないかな?」
場面転換。
修平「これも読んで欲しいんだ」
洋祐(N)「あれだけ、面白くないって言ってるのに、それからも修平君は僕に漫画を持ってくる。しかも、笑顔で、だ。それが、僕には不気味で……怖かったんだ」
教師「ふーん。なるほどね。じゃあ、先生がちょっと聞いてみてあげるね」
洋祐「……お願いします」
洋祐(N)「先生に頼んで、僕のことをどう思っているのかを聞いてもらうことにした。先生は後から伝えるって言ってたけど、教壇の下に隠れて、聞くことにした」
場面転換。
教室のドアが開く音。
修平「……なんですか?」
教師「修平君、ちょっとここに座って」
修平「はい……」
教師「ねえ、修平君はクラスに馴染めた?」
修平「いいえ。みんな、僕のこと、嫌ってるから……」
教師「え? そう? みんな、仲良くしようとしてると思うけど」
修平「だからです」
教師「どういうこと?」
修平「僕の家は、借金がいっぱいです」
教師「え? ああ、う、うん……」
修平「それはお父さんが騙されたから」
教師「……」
修平「だから、いつもお母さんが言ってるんです。親しくない人や、笑顔で近づいて来る人は思ってることと逆のことを言うって」
教師「……ああー。でも、それは大人の話で……」
修平「お母さんが、小さい頃からしっかりと身に付けておかないと、お前も騙されるって……」
教師「……そ、そっか」
洋祐(N)「なんで修平君が、僕に面白くないって言われて笑顔になったのか、わかった。引っ越してきた修平君は、周りが逆のことを言ってると思い込んでたんだ。だから、クラスのみんなが面白いと言ったときに、泣いてたんだ。そして、僕は、面白くないって言った……。だから、修平君は僕に面白いって言われてると思ったんだ。……描いた漫画が面白くないって言われたときの、あの悲しい気持ちは、凄くわかる。クラスのみんなから面白くないなんて言われたら、僕だって泣いちゃう。……じゃあ、今度からは僕は修平君に、面白くないって言えばいいんだ……」
場面転換。
修平「……どうかな? 新しい漫画」
洋祐「……全然、面白くないよ」
修平「ほ、ホント!」
洋祐「うん。もう、漫画描くの止めた方がいいくらい」
修平「えへへへ……」
洋祐「……えっと、でも、ここは面白かったかな。えっと、もう少し、主人公が来るのを早くした方がいいと思う」
修平「ああー。なるほど。うん。わかった。ありがとう!」
洋祐(N)「あれからも、僕は修平君の漫画を読み続けている。感想を言う時に、あべこべにしないといけないのが大変だけど。そして、今度は、僕の描いた漫画を見て貰おうと思って、また描き始めている」
終わり。