■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、コメディ
■キャスト
ラルク
ソフィア
スィーフ・キャット
ベン警部
■台本
ラルク「ソフィア君。名探偵に必要なものは何かわかるかね?」
ソフィア「はい。それは犯人です」
ラルク「そう。その通りだ。いかに優れた頭脳を持ち、人並み外れた洞察力、推理力を持っていたとしても、事件そのものが起きなければ、名探偵にはなれない。そう。病気がない街で、名医が生まれないようにね」
ソフィア「はい」
ラルク「……ちなみに、今日の新聞の一面は、どんな記事だね?」
ソフィア「芸能人の結婚、スポーツ選手の記録更新、ペットと飼い主の感動秘話です。今日も街は平和そのもののようです」
ラルク「くそっ! なぜだ! なぜなんだ! 私はこの先、誰からの脚光を浴びることなく、老いさらばえしまうのか……」
ソフィア「……私は、ラルク先生は世界一の名探偵だと思っています」
ラルク「……当たってしまって、すまなかった。信じて待とう。この、ラルク・アンダーソンに相応しい事件が起こることを」
ソフィア「はい……」
場面転換。
階段を駆け上がる音。
勢いよくドアが開かれる。
ソフィア「先生! 事件です! 事件が起きました!」
ラルク「本当かね、ソフィア君! どんな事件だ?」
ソフィア「怪盗です! 怪盗が現れました」
場面転換。
ベン「いやあ、これはこれは。よくぞおいでくださいました」
ラルク「ラルク・アンダーソンです」
ベン「どうも、ベン警部です。なんでも、怪盗を捕まえる協力をしてくれるとのことで?」
ラルク「はい。必ず、捕まえてみせます」
ベン「いやあ、助かりますよ。なにしろ、この町でこんな大きな事件が起きるなんて、10年ぶりくらいですからね。すっかり、捜査の方法も忘れてしまいましたよ、はっはっはっは」
ラルク「……」
ベン「部下たちの指揮権は全てお渡ししまうので、自由に使ってやってください。みんな、久々の事件ということでやる気だけはあるみたいなので」
ラルク「はい、助かります」
ベン「では、私は家に帰りますので、なにかれば、連絡ください」
ラルク「わかりました」
場面転換。
ソフィア「先生、言われた場所に、人員を配置しました」
ラルク「御苦労」
ソフィア「……あの、先生。お言葉ですが、今回の人員配置は、穴があると思うのですが?」
ラルク「ほう?」
ソフィア「これは、この宝石店の見取り図なのですが、今、配置されている人員はここになります」
ペンで見取り図に書き込む音。
ラルク「ふむ」
ソフィア「上から見るとわかると思のですが、このルートだと、怪盗がお目当ての宝石に辿り着いてしまいます」
ラルク「ふふふ。さすがソフィア君だ」
ソフィア「先生?」
ラルク「いいかね? 今回の怪盗の騒動は10年に一度の大事件なのだ」
ソフィア「はい」
ラルク「私はこのチャンスを逃すわけにはいかない。……わかるかね?」
ソフィア「……あっ。この配置は、囮……ですか?」
ラルク「ビンゴ。その通りだ。ガチガチに人数の配置をしたとして、もし、怪盗が臆して、やって来なかった、なんてことは絶対に避けねばならない」
ソフィア「なるほどです。怪盗にこの警備の穴を敢えて示すことで、盗みを決行してもらうわけですね」
ラルク「そういうことだ。事件が起こって、初めて探偵が活躍できる。未然に防ぐのは警察の仕事だ」
ソフィア「はい」
ラルク「……よし、そろそろ、怪盗の予告時刻だ。ソフィア君も配置に付くのだ」
ソフィア「はい」
場面転換。
時計の針が動く音。
ラルク「……おかしい。予告時刻はとっくに過ぎた。まさか、臆したか?」
スィーフ・キャット「うふふふ。そんなことはありませんわよ」
ラルク「なっ! 貴様、い、いつの間にこの部屋に?」
スィーフ・キャット「まずは、ご挨拶を。初めまして、名探偵、ラルク。スィーフ・キャットよ」
ラルク「……監視モニターはすべてチェックしていた。どうやったのだ?」
スィーフ・キャット「監視モニターなんて、設置場所がわかっていれば、無いようなものよ」
ラルク「ま、まさか! 全てのモニターの場所を調べていたというのか?」
スィーフ・キャット「ふふ。怪盗なら、当然のことよ」
ラルク「くっ! だが、この部屋に入るためのアクセスキーはどうした?」
スィーフ・キャット「……これ、なにかしら?」
ラルク「それは……ソフィア君のカードキー! ま、まさか、貴様!」
スィーフ・キャット「心配しないで。彼女は無事よ。私は必要以上に人を傷つける気はないの」
ラルク「……ふう」
スィーフ・キャット「それじゃ、目的の宝石はいただいていくわね」
ラルク「……ふふ」
スィーフ・キャット「……何がおかしいのかしら?」
ラルク「この部屋まで入ってきたことに関しては、褒めておこう。私の完敗だ」
スィーフ・キャット「……」
ラルク「だが、この私が仕掛けたのが、配置の罠だけだと思うかね?」
スィーフ・キャット「ま、まさか、この宝石は……?」
ラルク「ああ、偽物だ」
スィーフ・キャット「ふふふ。驚いたわ。本当に優秀なのね。正直見直したわ」
宝石を床に置く音。
ラルク「……」
スィーフ・キャット「今日のところは、引き分けってところかしら?」
ラルク「ああ。だが、次は必ず捕まえる」
スィーフ・キャット「うふふ。楽しみにしてるわ」
スィーフ・キャットが去って行く音。
ラルク「……ふう。危なかったな」
場面転換。
ラルク「ソフィア君、ソフィア君」
ソフィア「……あ、先生」
ラルク「ふう。よかった。無事で何よりだ」
ソフィア「あ、あの、先生。怪盗は?」
ラルク「逃げられてしまった。なかなかできる怪盗だったよ」
ソフィア「……そうですか」
ラルク「今回は引き分けたが、次こそは捕まえて見せるさ」
ソフィア「そういえば、先生」
ラルク「なにかね?」
ソフィア「いつの間に、宝石を偽物と入れ替えたのですか?」
ラルク「ん? いや、入れ替えてなんかなかったんだよ」
ソフィア「え? まさか……」
ラルク「ああ。ハッタリだ」
ソフィア「ふふふ」
ラルク「ソフィア君?」
ソフィア「さすが先生です。やっぱり、ラルク先生は世界一の名探偵です」
ラルク「ふっ。今に、世界中の人間にそう思わせて見せるさ」
場面転換。
ラルフ「くそ! また逃げられた! まさか、こうも裏をかかれるとは」
ソフィア「スィーフ・キャットも手強いですね」
ラルフ「なぜ、こうもことごとく策を見破られるのだ。今回は完璧な作戦だと思ったのだがな」
ソフィア「ですが、先生、物は盗まれなかったので、引き分けですよ」
ラルフ「だがなぁ……」
ソフィア「新聞でも一面で書かれてますよ。先生とスィーフ・キャットの戦いが」
ラルフ「……ふん。まあ、怪盗あっての名探偵だからな。あいつにはもう少し付き合ってもらうとするか」
ソフィア「ええ。末永くお付き合いのほど、よろしくお願いいたします」
終わり。