■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
空人(そらと)
母親
教師
その他
■台本
シュートの音。
ボールがゴールに突き刺さる。
歓声が響く。
アナウンサー「ゴール! ゴール! ゴール! すごい! ハットトリック達成―! そしてー!」
笛の音が響く。
アナウンサー「試合終了! これで、日本ベスト4進出です!」
場面転換。
空人(N)「将来のために、東大を目指して頑張りなさい。母さんから、ずっと言われていた言葉だ。東大に入る夢を実現させるために、俺は色々なことを犠牲にして、進み続けている」
場面転換。
空人が歩いている。
空人「……」
そこに男の子達が走って来る。
男の子1「空人、また歩きながら勉強してんのか? 真面目だな」
空人「……」
男の子2「おい、放っておけよ。こいつ、勉強にしか興味ないんだから」
男の子1「そんなに勉強、面白いのか? 変人だな、変人」
男の子2「行こうぜ」
男の子1「おう」
男の子達が走って行く。
空人(N)「勉強が面白いか、だって? 一度だって、面白いなんて感じたことなんかない。……面白いからなんて関係ない。東大に入るには、東征(とうせい)高校に入る必要がある。東征に入るためには、桜桃(おうとう)中学に入る必要がある。……東大に入るための戦いはもう始まっているんだ。東大に入るという夢を実現させるために、俺は勉強しているのだ」
場面転換。
学校の授業中。
空人「……」
教師「つまり、この図形の面積を求めるためには……」
男の子3「先生―! 空人くんが、また違う教科書を開いてまーす!」
教師「あー、いや、空人はいいんだよ、別に」
男の子3「なんでですか?」
空人「その公式はもう知ってるから」
男の子4「じゃ、じゃあ、この問題の答えわかるのかよ?」
空人「356」
男の子4「え?」
教師「はいはい。いいから、空人は中学受験に専念させて欲しいと親からも連絡が来ている。放っておいてやれ」
男の子4「……」
場面転換。
教室内でカリカリと勉強している音。
ガラガラとドアが開く音。
男の子4「まだ勉強してるのかよ?」
空人「……」
男の子4「お前、塾行ってるんだろ? さっさと行けよ」
空人「これから行くよ。まだ開いてないからここで勉強してるだけだ」
男の子4「お前さ、なんで、そんなに勉強してるわけ?」
空人「夢のため」
男の子4「夢? 夢ってなんだよ?」
空人「……東大に入るため」
男の子4「はあ? なんだ、そりゃ?」
空人「……わからないならいいよ、別に」
男の子4「……お前さー、そんなんで、人生楽しいか?」
空人「……」
男の子4「やっぱ楽しくないんじゃん。くだらねー」
空人「……お前は」
男の子4「あん?」
空人「お前は楽しいのか?」
男の子4「当たり前だろ」
空人「何が?」
男の子4「何って……サッカーとか……」
空人「サッカーか。プロサッカー選手になるのが夢なのか?」
男の子4「は? 何言ってんだよ、んなわけねーだろ。プロになれる奴なんて、一握りなんだから」
空人「……俺は夢のために勉強をしてる。お前は別にプロを目指していないのにサッカーをやってる。どっちが正しいと思う?」
男の子4「くっだらねー。小学生なのに、将来のことだって。まあ、そんなに勉強好きならずーっとやってろよ」
空人「……」
場面転換。
空人の部屋。
勉強をしている空人。
ガチャリとドアが開く。
母親「空人……。ちょっといい?」
空人「なに? お母さん」
母親「塾の先生から話聞いたわよ。このままじゃ、桜桃、難しいって」
空人「……」
母親「なんのために、高いお金払って塾に行かせてると思ってるの。ちゃんと勉強しなさい」
空人「……してるよ」
母親「あのね、空人。東大に入らないと意味ないの。それなのに桜桃にさえ、入れないでどうするの?」
空人「……ごめんなさい」
母親「明日からは学校に行かないで、家で勉強しなさい。学校の先生にはお母さんから話しておくから。本番はもうすぐなんだから、気合入れなさいね」
空人「……はい」
場面転換。
母親「う、うう……。どうしてよ。どうして」
父親「仕方ないだろう、落ちてしまったんだから」
空人「……」
母親「もう終わりよ。桜桃にさえ受からないんだから、東大なんて夢のまた夢よ!」
父親「そんなことないさ。中学に入ったら、もっと頑張るよな? 空人」
空人「……」
母親「無理よ! 空人の将来は終わりよ、終わり! 負け組よ!」
空人「……」
場面転換。
チャイムの音。
教室で、一人で勉強している空人。
ドアが開く音。
教師2「ん? 坂神か。なんだ? 宿題でもやってるのか?」
空人「先生……。塾の宿題です」
教師2「ふーん。どれどれ……。え? マジか? これ、中学生の問題じゃねーだろ」
空人「東征の入試問題です」
教師2「東征? お前、東征を目指してるのか?」
空人「はい」
教師2「ふーん。この学校からは東征行った奴はいないからな。難しいかもしれねーけど、頑張れよ」
空人「……多分、無理ですけどね」
教師2「……」
空人「小学生の頃、ある奴に、そんなに勉強して意味があるのかって言われたことがあります。……その時は、何も考えてないそいつよりも、将来の夢の為に頑張ってる俺の方が偉いと思ってました。けど、中学の受験を失敗して……。結局、そいつの言ったことの方が正しかったみたいです。あのときの勉強は意味がなかった……」
教師2「……高校受験に役に立つはずだろ?」
空人「高校受験も失敗したら? 俺にはもう、何も残らない。それに、今の塾でも勉強についていけてない。……どう考えても、東征に入るのは無理です」
教師2「……俺がサッカー部の顧問をやってるって知ってるか?」
空人「え? あ、はい……」
教師2「ちょっとやってみないか?」
空人「は?」
場面転換。
空人「はあ、はあ、はあ……」
教師2「うん、空人はセンスあるな。どうだ? 本格的にサッカーやってみないか?」
空人「え? でも、サッカーなんて、やっても意味ないですよ」
教師2「なんでだ?」
空人「だって……。サッカーのプロになれるのなんて、一握りですから……」
教師2「確かに、プロになれる人間は少ない。なれない人間の方が圧倒的に多い。……けどな。上手くはなれるんだ」
空人「……」
教師2「練習すれば、するほど、上手くなる。お前の中に、技術が残る。無駄になることなんて何一つないんだ」
空人「……」
場面転換。
シュートの音。
ボールがゴールに突き刺さる。
教師2「よーし! よし、よし! いいぞ、空人! けど、まだ試合は終わってないぞ! 気を抜くなよ!」
空人「はい!」
空人(N)「俺は母さんの言うように、将来のために東大に入ることはできなかった。……今、やってるサッカーは練習だって、苦しいし、辛い。……でも、楽しい。将来のためになるかはわからない。でも、これは自分で見つけた夢だ。だから、今度はこの夢に向かって全力で進んでみようと思う」
終わり。