■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
リョータ
女神
その他
■台本
電気屋の店内。
女性客「あのー。この洗濯機と、こっちの洗濯機はどこがどう違うのかしら?」
リョータ「えーっと。……どこが違うんですかね?」
女性客「いや、わからないから聞いたんだけど」
リョータ「すみません。僕もわからないです」
女性客「……」
上司が走って来る。
上司「申し訳ありません! こちらは乾燥機の機能が……」
場面転換。
上司「坂神君。あのさあ、接客の仕事、舐めてる?」
リョータ「いえ、別に……」
上司「……いつになったら、商品の説明ができるようになるわけ? もう、3年目でしょ?」
リョータ「僕にもわからないです」
上司「……もう、下がって、倉庫整理でもしてて」
リョータ「わかりました」
上司「……次の査定、期待しててね」
リョータ「……」
場面転換。
リョータ「お疲れさまでした。お先に失礼します」
自動ドアが開く音。
店から出て歩き始めるリョータ。
リョータ「はあ……。最悪。……寝て起きて仕事……。この後の人生も、これが続くのかな……? 地獄だよなぁ……」
キキ―っと急ブレーキの音と、ドンという車に轢かれる音。
リョータ「う、うう……」
場面転換。
リョータ「……はっ! ここは? 車に轢かれたのは……夢?」
女神「あなたの肉体は失われました。ですので、これからあなたは別の世界に転生することになります」
リョータ「……ホントにあるんだ、こんなこと」
女神「では、さっそく、このカタログの中から、次の世界に持って行くスキルを選んで下さい」
リョータ「おお! 来た来た。異世界と言えばやっぱりスキルだよね。えーっとどれどれ。うわー、いっぱいあるな」
女神「選べるスキルは2つとなります」
リョータ「2つかぁ。どれも捨て難いけどなー。今までの人生が、つまらないものだったら、異世界では楽で楽しい人生を送りたい。でも、やっぱりみんなに注目されたいし……」
女神「あと1分で決めてください」
リョータ「ええ? じゃ、じゃあ……えっと、この、指を鳴らせば、狙った対象を倒すことができるスキルと、指を鳴らせば、狙った異性を惚れさせるスキルで」
女神「わかりました。では、新しい世界では、よき人生を送れることを願っております」
場面転換。
ドラゴン「グオオオオオオ!」
パチンと指を鳴らす音。
ドラゴン「グッ……」
急に倒れ込むドラゴン。
男1「うおお! すげー、あの邪悪なドラゴンを一撃だ」
女1「すごーい! さすが勇者様」
リョータ「ふふふ。まあ、このくらいお手もものだよ」
場面転換。
男2「聞いたか? 突然現れた勇者が、邪悪なドラゴンをドンドン、狩ってるみたいだぜ」
男3「聞いた聞いた。すげーよな。これで世界は平和になるな」
リョータ「ふふふ。僕のこと話してる。みんな、僕のこと、注目してる。うーん。異世界に来てよかったぁ」
ドンとぶつかる音。
女の子「きゃっ!」
リョータ「ああ、ごめん。大丈夫だった?」
女の子「あんたねえ、どこ見て歩てるのよ! 道の真ん中でボーっとしてるんじゃないわよ」
パチンと指を鳴らす音。
女の子「あ……。ぶつかっちゃって、ごめんなさい。ねえ、お詫びにあそこのお店でご馳走させてくれない? ねえ、いいでしょ?」
リョータ「うん。もちろんだよ」
場面転換。
冒険者1「聞いたか。また、勇者の野郎が、活躍したってよ」
冒険者2「聞いた聞いた。あいつが来てから3ヶ月。こっちの仕事が激減だよ激減」
リョータ「……」
冒険者1「こっちは命張って戦ってるのに、勇者の野郎は指を鳴らすだけだってよ」
冒険者2「楽でいいよなー。身体能力は無能なくせによぉ」
リョータ「……」
冒険者1「昼間から酒が飲めるなんて、いいご身分だよ。お金が無くなったら、また指を鳴らしてドラゴンを狩ればいいんだもんな」
冒険者2「冒険者全員から、消えて欲しいって思われてるんだよな。もし、勇者と同じ能力を持ってたら、一番に勇者に使うってな」
冒険者「あはははは。確かに」
ガバッと立ち上がるリョータ。
リョータ「……お勘定、ここに置いておきます」
立ち去るリョータ。
場面転換。
ベッドにドサッと寝転がるリョータ。
リョータ「やめたやめた。せっかく、厄介なドラゴンを倒してやってるのにさ。迷惑だっていうなら、止めてやるよ。どうせ、もう働かなくても一生食ってけるくらい稼いだし」
場面転換。
家の中。外からは人々が行き交う音。
リョータ「ふわあー。まだ昼か。……つまんないな。この世界って、テレビとかゲームもないし……。基本、暇なんだよな。引きこもりしても、1週間が限界だな……」
シーンと静まり返る。
リョータ「……結局、俺はどこの世界にいても、つまらない人生を送るしかないんだな……」
場面転換。
店の中。
女性客「あのー。このフルーツの赤いやつと緑のやつは、どう違うのかしら?」
リョータ「ああ。それは、赤いのは酸っぱい味です。緑色が濃くなれば甘さが増していきますよ」
女性客「じゃあ、緑の方がいいってわけね」
リョータ「いえいえ。そうとも限りませんよ。唐揚げなんかに、振りかけると、酸っぱさで味が引き立つんですよ」
女性客「へー。なるほどね。みんなにも教えようっと。じゃあ、この赤のを3つ緑のを2つちょうだい」
リョータ「はい。毎度あり! 870ギドです」
女性客「じゃあ1000ギドで。ああ、お釣りはいいわ。お兄さんにあげる」
リョータ「いえ、悪いですよ」
女性客「いいのいいの。あげたい気分だから」
リョータ「じゃあ、このタオスっていう野菜をサービスします」
女性客「ええ? いいの? これじゃかえって私の方が得しちゃったじゃない」
リョータ「いいんです。そういう気分ですから」
女性客「ありがと」
女性客が立ち去る。
店主「いやあ。君が来てくれてから、店の売り上げが倍増だよ」
リョータ「いやあ。まだまだ雇ってくれた恩は返せてません」
店主「君が来てから3ヶ月で、ここまで仕事をしっかり覚えて、接客も完璧だ。……査定は期待してくれていいからね」
リョータ「ありがとうございます!」
終わり。