■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、恋愛
■キャスト
逹也(たつや)
悠里(ゆうり)
■台本
雨がシトシトと降る音。
逹也(N)「僕は梅雨が嫌いだった。僕の家は貧乏で、雨が降ったら、おじいちゃんが使っていたデッカイ傘を持っていくしかなかった。僕は背が小さい方だから、大きな傘をさすと、ほとんど体が隠れてしまう。だから友達からは、傘のお化けってことで、カラカサってあだ名をつけられた。何度かお母さんに、新しいのを買ってほしいと言ったけど、まだ使えるんだからと、買ってくれない。だから、僕は雨が多い梅雨が嫌いだった……」
場面転換。
学校のチャイム。
雨がシトシトと降る音。
周りでは生徒たちがバイバイと言ったり、雑談をしたりしながら、雨の中を、傘をさして歩いて行く。
逹也「……ふう。みんな帰ったかな」
傘を広げる音。
逹也「……あれ?」
悠里「……」
悠里に近寄る達也。
逹也「悠里ちゃん、どうしたの?」
悠里「あ、達也君。……えっと、傘……忘れちゃって」
逹也「そっか……。えっと、先生に借りてこようか?」
悠里「……いい。これ以上は恥ずかしいし」
逹也「……恥ずかしい?」
悠里「雨が止んだら帰るよ」
逹也「……入ってく?」
悠里「え?」
逹也「傘」
悠里「……いいの?」
逹也「うん。僕の傘、大きいから、もう一人くらい入れるよ」
悠里「ホントだ。おっきいね」
逹也「それに、たぶん、雨は夜まで止まないってテレビで言ってたよ」
悠里「……じゃあ、甘えちゃおうかな」
逹也「うん。どうぞどうぞ」
悠里「ありがと。入れてもらうね」
逹也「じゃあ、行こうか」
悠里「うん」
二人が歩き出す。
逹也「……」
悠里「……」
逹也「……」
悠里「ねえ」
逹也「え? な、なに?」
悠里「どうして達也くん、一人なの?」
逹也「え? ……ああ、冬樹たちは、この傘、バカにするからさ。雨の日は一緒に帰らないようにしてるんだ」
悠里「大きくて、素敵な傘なのにね」
逹也「これ、おじいちゃんの傘なんだ。ずっと大切に使ってた傘だからさ、僕も大事にしてるんだ」
悠里「へー。私は素敵だと思うよ」
逹也「……ほ、ほんと?」
悠里「うん。あ、そうだ、達也くん、今日の宿題なんだけどさ……」
場面転換。
雨がシトシトと降る音。
悠里「今日はありがと」
逹也「ううん。もし、また忘れたときがあったら、言ってね」
悠里「ホント?」
逹也「うん」
悠里「……ありがと」
逹也「じゃ、じゃあ、また明日ね。バイバイ」
悠里「バイバイ」
逹也が足早に歩いて行く。
逹也「……」
逹也がジャンプする。
逹也「やったー!」
場面転換。
学校のチャイム。
雨がシトシトと降る音。
逹也「よし、みんな帰ったかな」
傘を広げる音。
悠里「ねえ、達也くん」
逹也「あ、悠里ちゃん」
悠里「……今日も、いいかな?」
逹也「う、うん。もちろん!」
悠里「ありがと」
悠里が傘の中に入り、二人が歩いて行く。
逹也(N)「それからは、悠里ちゃんを傘に入れて、一緒に帰るという日が続いた」
場面転換。
雨の中、傘をさして、達也と悠里が歩いている。
悠里「ねえ、達也くん。傘、少し持とうか?」
逹也「え?」
悠里「ほら、いつも両手で持って、大変そうだからさ」
逹也「う、ううん。大丈夫! 全然、平気だよ」
悠里「そう? いつも傘に入れてもらって、悪いから、たまには私が持つよ」
逹也「ううん。いいんだよ。悠里ちゃんと一緒に帰れるだけで、満足だから」
悠里「え?」
逹也「……あっ! いや……その……」
悠里「……」
逹也「……」
悠里「私も……」
逹也「……」
悠里「達也くんと一緒に帰れて楽しいよ」
逹也「ほ、ホント?」
悠里「うん」
逹也「……」
悠里「……」
逹也「な、なんか恥ずかしいね」
悠里「そ、そうだね。……そうえば、今日のアニメなんだけど……」
場面転換。
雨の中、傘をさして、達也と悠里が歩いている。
悠里「なかなか、梅雨が明けないね」
逹也「そうだね。もう少しかかるんじゃないのかな」
悠里「そっか……」
逹也「……」
悠里「あのね、達也くん」
逹也「なに?」
悠里「私、いつも、傘を忘れたって言ってるけど、本当は違うんだ」
逹也「え?」
悠里「私ね、小さい頃からずっと同じ傘を使ってたの」
逹也「……」
悠里「それで、周りからからかわれてさ。……キャラクター入りの傘だったから」
逹也「そうなんだ……」
悠里「それでね、この前、わざと傘を置いて帰って、お母さんに失くしたって言ったの」
逹也「……」
悠里「そしたら、お母さん、また同じのを買って来たの」
逹也「ああ……。それはきついね」
悠里「うん。だから、いつも、傘を持ってきてなかったの」
逹也「そうだったんだ。それなら、毎日、僕の傘に入ればいいよ」
悠里「うん。本当にありがとね」
逹也「いいんだよ。気にしないで」
悠里「……早く、梅雨、明けないかな」
逹也「……」
逹也(N)「正直、僕は、このままずっと……一日でも長く、梅雨が続くようにお祈りしていたんだ」
場面転換。
スズメの鳴く声。
逹也(N)「だけど、僕のお祈りは叶わなかった。……梅雨は明けてしまい、空は晴れていた」
場面転換。
学校のチャイム。
周りでは生徒たちがバイバイと言ったり、雑談をしたりしながら、帰って行く。
逹也「……はあ。帰ろうっと」
逹也が歩き出す。すると後ろから足音がする。
悠里「達也くん!」
逹也「え? あれ? 悠里ちゃん?」
悠里「一緒に帰ろ?」
逹也「……ど、どうして? 雨じゃないのに……」
悠里「え? 雨じゃないと一緒に帰っちゃダメ?」
逹也「う、ううん。そんなことないよ」
悠里「よかった。じゃあ、帰ろ」
逹也「うん」
並んで歩く二人。
悠里「……えいっ」
悠里が突然、達也の手を握る。
逹也「え?」
悠里「えへへ。手、握っちゃった」
逹也「……」
悠里「あ、ごめん。嫌だった?」
逹也「ううん、そんなことないよ」
悠里「ふふふ。やっぱり、私、晴れてた方がいいな。……だって、こうやって手を繋げるから」
逹也「ぼ、僕も、やっぱり晴れがいい」
終わり。