■概要
人数:5人
時間:5分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
ノア 幼少期
ノア 青年期
男
ミリア
男性
■台本
通信の音。
ノア「ターゲット確認。情報通り、ターゲットは一人だ」
ミリア「了解。30秒後に電源が落ちるので、その間にターゲットを確保してください」
ノア「了解」
ノア(N)「……幼少時、学校の課題で虫の標本を作ることは珍しくなかった。もちろん、俺も作ったことがある。……あのとき、出会った、名も知らない男性。今思えば、あの人も、俺と同じことをしていたのだろうか……」
場面転換。
回想。ノアが8歳の頃。
セミの鳴き声が響く中、森の中を走る音。
ノア「えいっ!」
虫取り網でセミを取ろうとするノア。
ノア「あっ! 逃げられちゃった……。上手くいかないなぁ……」
男「慎重さが足りないな」
ノア「ひゃあ!」
男「悪いな、驚かせて」
ノア「……おじさん、お腹から血が出てるよ。大丈夫?」
男「平気だ。平気だから、どこかに連絡するのは止めてもらえると助かる」
ノア「う、うん。わかった。……ねえ、家から包帯を持ってくる?」
男「……」
ノア「大丈夫。誰にも言わないよ」
男「……ありがとう。持ってきてくれると助かる」
ノア「じゃあ、持ってくるから待っててね」
場面転換。
男「これでよし」
ノア「本当に大丈夫なの?」
男「ああ。止血が出来れば、大分、楽になった」
ノア「よかった」
男「なにかお礼をさせてくれ。……そうだ。虫取りをしていたんだったよな?」
ノア「え? あ、うん」
男「手伝ってやるよ」
場面転換。
男が網で虫を取る。
男「よし、捕まえた」
ノア「すごーい! 虫取り上手だね」
男「ふふ。これにはコツがあるんだよ」
ノア「コツ?」
男「いいか。虫が止まっている場合、後ろから取ろうとするのではなく、やや上から網を振るんだ」
ノア「上から?」
男「そうだ。虫が飛び立つ方向を目掛けて、網を振るんだ」
ノア「……なるほど。止まっているのをバレないようにするんじゃなくて、動き出すことを考えて網を振るんだね」
男「ああ。やってみろ」
ノア「う、うん」
セミの鳴き声が響く。
ノア「えい!」
男「よし!」
ノア「ホントだ! 出来た!」
男「上手いぞ」
ノア「よーし、もう一回!」
場面転換。
ノア「えへへへ。大量、大量」
男「……お前には才能があるかもしれないな」
ノア「才能? 虫取りの?」
男「俺よりも上かもしれない」
ノア「……おじさんも虫取りするの?」
男「ああ。俺の仕事は虫を捕まえて、虫かごに入れるというものだ」
ノア「へー。虫を取る仕事なんてあるんだね」
男「人間も……」
ノア「え?」
男「人間も、虫と同じだ。相手の行動を先読みすることで、スムーズに捕まえることができる」
ノア「……でも、僕、人なんか捕まえないよ?」
男「……そうだな。忘れてくれ」
場面転換。
現代に戻る。
ミリア「……いくわよ」
ノア「ああ」
ミリア「5、4、3、2、1」
パッと電気が消える音。
男性「うわっ! なんだ? 電源が落ちたか?」
男性が歩き出す。
ノア「……」
男性「うっ!」
男が倒れる音。
ノア「ターゲットを確保した。これより虫かごに送る。後始末を頼む」
ミリア「了解。……相変わらず、手際がいいわね」
ノア「……虫を捕まえるコツは、逃げることを想定して、その先で捕まえるんだ」
ミリア「言葉で言うのは簡単だけど、それができるのは一握りよ」
ノア「……そうか」
ノア(N)「……今、俺は表社会では裁かれない人間を裏で捕まえ、厚生施設、虫かごに送りこむ仕事をしている」
終わり。