■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
幸三(こうぞう)
一郎(いちろう)
都(みやこ)
さくら
■台本
赤ちゃんの泣き声。
幸三「都……。よく頑張ったな」
都「あなた……」
幸三(N)「今、俺に子供が生まれた。本当に可愛くて、弱弱しくて、守ってやりたくなる。だが、甘やかしすぎては、この子はダメになってしまう。ここは心を鬼にして、厳しく育てよう。……そう。可愛い子には旅をさせなければならない。例え、この子に恨まれてもいい。この子が、しっかりと強い子に育ってくれれば、それでいいんだ」
場面転換。
幸三「馬鹿者! 門限は6時だと何度言わせるんだ!」
一郎「……ごめんなさい」
幸三「一郎。今日のお前の晩飯は無しだ」
一郎「そ、そんな!」
都「ちょっと、あなた。30分遅くなっただけじゃない。なにも、そんなに目くじら立てなくても……」
幸三「お前は黙ってろ! たった30分だと? その30分で信用を落とすことだってあるんだ! 現に、一郎は俺の信用を落とした」
一郎「……ごめんなさい」
幸三「落とした信用は、簡単には取り戻せん。そのことをしっかりと肝に銘じておけ。とにかく、晩御飯は無しだ。いいな」
一郎「……はい」
ドスドスドスと歩いて行く幸三。
幸三(N)「……本当は許してやりたい。あんなに反省しているのだから。だが、その甘えが一郎をダメにする。しっかりしろ。あいつが一人前になれるようにするのが親の務めだ」
場面転換。
幸三「……何を言ってるんだ?」
一郎「将来は画家になりたんだ。だから、大学じゃなくて、先生の家に住み込みで絵の勉強をしたいんだ」
幸三「馬鹿者! 画家なんてものは、ほんの一握りの人間にしかなれん! お前では無理だ!」
一郎「父さんはいつもそうだ。俺の話を聞いてくれない」
幸三「俺はお前のことを思って言ってるんだ!」
一郎「違う! 父さんは、自分のメンツのことしか考えてないだけだ! 周りに子供が大学に行けなかったと思われるのが嫌なんだ!」
パチンと頬を叩く音。
幸三「勘当だ! 二度と、俺の前に顔を見せるな!」
一郎「……わかったよ。言われなくても、そうする」
一郎が出ていく。
都「ちょっと、一郎待って! お父さんも、一郎を追って!」
幸三「……」
幸三(N)「どうして、こうなってしまったのだろうか。俺はただ、あいつを一人前にしたかっただけなのに……」
場面転換。
幸三「……一郎は、どうしてる?」
都「ふふ。この前、コンクールで入賞したらしいわよ」
幸三「そうか。……いつもより、仕送りの額を多くしてやれ。それと……」
都「はいはい。私がこっそり送ってるってことにしろっていうんでしょ?」
幸三「……もし、帰ってきたくなったら、いつでも帰って来ていいと言っておけ」
都「はいはい。私が説得したって言えばいいんでしょ?」
場面転換。
一郎「……父さん。その……」
幸三「……」
都「大丈夫よ、一郎。お父さんは怒ってないから」
幸三「……で? 何しにきたんだ?」
一郎「実はその……結婚しようかと思って」
幸三「っ!」
都「あらあらあら! 本当に!?」
一郎「うん。先生の娘なんだけど……」
幸三「そ、そうか……」
一郎「父さん。俺、父さんの言ったこと、わかる気がするんだ」
幸三「……」
一郎「確かに、画家になれるのなんて一握りの人間だけだった。ちゃんと大学出てれば、もっと色々な未来があったと思う」
幸三「そうか」
一郎「でも、俺は、後悔はしてないんだ。画家にはなれなかったけど、画家を目指したこと。絵を勉強したこと。……そして、あの子に出会えたこと。その全てがあって、今の俺がいるんだ」
幸三「……お前がそういうのなら、それでいい」
一郎「父さん……」
幸三「家族を持つというなら、しっかりと家族を守れるようになるんだぞ」
一郎「ああ」
場面転換。
幸三「……俺は一郎をちゃんと育てられたんだろうか?」
都「胸を張っていいと思うわよ。あんなに立派になったんじゃない」
幸三「そうだな」
都「そうよ」
幸三「俺のしてきたことは無駄ではなかったんだな」
場面転換。
赤ちゃんの泣き声。
一郎「父さん。孫だよ」
幸三「お、おお……」
都「あらあらあら! 可愛らしいわねー」
幸三「ああ。可愛いな」
一郎「父さん。俺、父さんのように、この子をしっかりと育てて見せるよ」
幸三「あ、ああ。頑張れ、一郎」
一郎「ありがとう、父さん」
場面転換。
さくら「おじいちゃーん!」
幸三「おお、おお! よく来たね、さくら」
都「いらっしゃい、さくらちゃん」
幸三「さくら、これ、お小遣いだ」
さくら「え? いいの?」
幸三「お父さんには内緒だぞ」
一郎「……父さん!」
幸三「あっ!」
一郎「あ、じゃない! もう、さくらを甘やかせないでよ! ほら、さくら、おじいちゃんからもらった小遣い、よこしなさい。貯金しておくから」
さくら「ええー」
幸三「一郎。ちょっとくらいいいじゃないか」
一郎「ダメだよ! そうやって甘やかして、さくらがダメな人間になったらどうするんだよ」
幸三「大丈夫だって。さくらは、もういい子なんだから」
一郎「何言ってるんだよ」
幸三「厳しすぎるのは良くないと思うぞ」
一郎「……よくいうよ」
幸三「さくら、何か欲しいものないか? 今からおじいちゃんと買いに行こう」
さくら「ホント!? やったー!」
一郎「父さん!」
幸三「ちょ、ちょっとくらいいいじゃないか。甘やかせても」
一郎「……あのさあ、可愛い子に旅をさせよって言葉、知ってる?」
幸三「いいや! さくらは旅なんかには出さないぞ、危ない! ずーっとじいちゃんの傍にいような、さくら」
さくら「うん! おじいちゃん大好き」
幸三「あはははは」
一郎「はあ……。まったく」
終わり。