■概要
人数:5人以上
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
速人(はやと)
玲央(れお)
たいが(たいが)
女性×4
男性×6
■台本
夏。セミの鳴き声が響いている。
道を歩く足音が3つ。
速人「あちー……。もう帰りたい」
玲央「帰りたいって、まだ登校もしてねーだろ」
大雅「あと一週間もすれば夏休みなんだから、頑張ろうよ」
速人「この、いい子ちゃんが。一週間も待てねーから、言ってんの。あーあ、夏休み前借できねーかな」
玲央「出来るわけねーだろ」
速人「あちー、あちー、あちー! やる気出ねえ」
その時、ビューっと強い風が吹く。
女生徒1「きゃああ! ……もう!」
速人「……見たか?」
玲央「白だった」
速人「いやー。だるさが一気に飛んだな」
玲央「これで今日も一日戦える」
大雅「だ、だ、ダメだよ! スカートがめくれたからって、見たら」
玲央「そんなこと言って、お前もしっかり見てたじゃねーかよ。優等生が聞いてあきれるぜ」
大雅「ち、違う! あれは偶然で!」
玲央「見たことには変わりねーだろ。同罪だ同罪」
大雅「そ、そんなー」
速人「……」
玲央「ん? ……どうした?」
速人「なあ、今のって、罪になるのか?」
玲央「あん? なるわけねーだろ。あんなのは事故だよ事故」
大雅「うん、故意じゃないから罪にはならないと思う」
速人「ってことは、風を作り出すことができれば、例え、スカートがめくれても罪にはならないってことだよな?」
玲央「んー。まあ、そうかな」
大雅「でも、風を作るってどうやって? でっかい扇風機でも作るの?」
速人「団扇だ」
玲央「団扇?」
速人「扇風機なんて、そもそも、高校生の俺らに作れるわけね―」
大雅「そりゃ、そうだね」
速人「けど、巨大な団扇なら作れそうじゃないか?」
玲央「作れるかもだけどよー。実際、完成したとして、大きな団扇を振り回してたら、怒らるだろ。それこそ、故意でやってるってバレバレだし」
速人「ふふ。甘いな。もうすぐ夏休みだろ」
玲央「それが?」
速人「巨大団扇を自由研究として提出するんだよ。で、うちの学校って、なぜか自由研究の発表会があるだろ?」
大雅「ああ、壇上でやるやつね」
速人「そこで、こう言うんだ。この団扇はデカいだけじゃなく、ちゃんと仰ぐことができるんです、ってな……」
大雅「……みんな、壇上の方を向いて立ってるから……」
速人「ああ。そこで思い切り仰げば、スカートがめくれ、正面から見れる。しかも、事故に見せかけられるはずだ」
玲央「お前……天才かっ」
場面転換。
バキバキと木が折れる音がする。
速人「あー、くそ。折れちまった」
玲央「どうする? もっと太い木を使うか?」
速人「んー、けど重さがなぁ……」
大雅「ここを重くしちゃうと、今度はこっちに負担がかかって、折れちゃうんじゃない?」
玲央「くそ! ここまで来て、失敗かよ!」
速人「待て、まだ諦めるのは早い。夏休みはまだ半分残ってる。やるぞ!」
玲央「そ、そうだな!」
そこに、男子生徒1が現れる。
男子生徒1「随分と苦労してるみたいだな」
速人「お前、なんでここに?」
男子生徒1「お前らのしようとしていることは何となく想像できる」
玲央「……先生にチクる気か?」
男子生徒1「逆だ。手伝わせろ」
速人「え?」
男子生徒1「お前ら、適当に作ってるから折れるんだ。全然、物理学に沿ってない。だから、設計図は俺がひいてやる。この、物理学年一位の俺がな」
速人「お前……」
男子生徒1「だから、俺も共同制作者として壇上に挙げろよ」
速人「ああ。もちろんだ」
場面転換。
バリバリバリと紙が破れる音。
速人「くそ! 今度は紙の部分が破れる」
玲央「骨の部分が上手くいったと思ったら、今度はこっちかよ」
そこに男子生徒2が現れる。
男子生徒2「お困りのようだな、諸君」
速人「誰だ?」
男子生徒2「噂は聞いている。お前ら、頑丈な紙が必要なんだろ? 和紙工房の家の俺の力が必要なんじゃないか?」
速人「手伝ってくれるのか?」
男子生徒2「無論だ! その代わり、研究発表の時は俺も、壇上に上がるからな」
場面転換。
男子生徒3「おーい、そっち持って!」
男子生徒4「ちょ、待てって! 危ない、破ける、そーっとそーっと!」
男子生徒5「こっち、誰か手伝って!」
男子生徒6「おう、今行く」
速人・玲央・大雅「……」
速人「気づいたら、いつの間にか大所帯になっちまったな」
玲央「クラスの男子、ほぼ全員だからな」
速人「ったく、どうしようもない奴らだぜ」
玲央「どうしようもない。確かにそうかもしれない。だが、みんなで夢を追うっていうのも悪くないんじゃないか?」
玲央「そうだな」
そこに教師がやって来る。
教師「うわー。ホントに凄いの作ってるね」
速人「げっ! 先生!」
教師「クラスのみんなで一緒に自由研究やってるんだって? いいわね、そういうの先生、好きよ」
玲央「は、はは……」
教師「よーし、それなら、先生も手伝っちゃおうかな」
速人「いやいやいや、いいですいいです」
教師「何言ってるのよ。せっかく、クラスが一丸になってるのに……。って、あれ? 女子が誰もいないのね」
速人「いや、ま、まあ……その……はは」
教師「それじゃ、先生が手伝える女子もいないか連絡してみるね」
速人「いやーー! やめてー!」
場面転換。
ぶわっ! っという団扇を仰ぐ音。
しかし、ミシミシという音が響く。
女子生徒2「あー、ストップ、ストップ! 真ん中にヒビ入ってる」
女子生徒3「ちょっと、男子! そっちからテープ持ってきて!」
男子生徒2「ちょちょちょ! 雑に貼るなよ! 俺がやる!」
男子生徒1「やっぱり、もう一つ、骨が必要だな」
男子生徒3「どれくらいの大きさだ? すぐ作るぞ」
速人・玲央・大雅「……」
速人「結局、クラス全員来ちまったな」
玲央「……そうだな」
そこに教師が走って来る。
教師「みんなー! ニュースニュース! 大ニュース! 取材が入ったわよ!」
場面転換。
レポーター「さあ、クラス全員で臨んだ巨大団扇。その大きさは実に10メートルになります。もし、これを仰ぐことができれば、ギネスに認定されます。さあ、クラス全員が、巨大団扇を掴みます」
クラス全員「せーのー! それー!」
団扇が仰がれ、風がブワーっと巻き起こる音。
レポーター「やりました! 成功です! これでギネスに新たなる一ページが追加されました!」
クラス全員「やったー!」
教師「うう……。先生、感動で……」
女生徒2「嬉しいよー! ふえーん!」
男子生徒2「よし!」
男子生徒1「ふふ。俺が設計したんだから当然だ」
周りは歓声の渦に包まれている。
速人「……なあ?」
大雅「なに?」
速人「……俺達、何のために団扇作ってたんだっけ?」
玲央「さあな」
速人「……」
終わり。