■概要
人数:3人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
健斗(けんと)
碧(あおい)
男子生徒
■台本
健斗(N)「喧嘩するほど仲がいい。雨降って地固まる。嫌い嫌いも好きのうち。つまり、仲が悪いように見えて、実は仲良しだったりする。あとは……そう、相手のことを好きだったり……。学生のときなんてさ、素直になれなかったりするだろ? だから、喧嘩することで、言い合って、思いをぶつける。話をしたくても、恥ずかしくて遠くから見てるよりも、よっぽどいいだろ? だから俺は、今の関係でいいと思っていたんだ」
場面転換。
碧「けーんーとー!」
健斗「げっ! 碧!」
碧「なによ、その露骨に嫌そうな顔は?」
健斗「あー、いや、どうせ、また文句とか言う気なんだろ?」
碧「……あんたが、私を怒らせるようなことをしなければ、私もこうやって文句を言う必要はないんだけど?」
健斗「いや、お前が短気なだけだろ。最近、顔が般若みたくなってきたぞ」
碧「誰が般若よ!」
健斗「おお! それそれ! 子供が見たらトラウマ間違いなし!」
碧「あんたねー! 一発、殴らせなさい!」
健斗「うおっ! あぶね! 許可取る前に殴りかかるなよ」
碧「許可とろうとしたって、あんたは素直に殴られようとしないじゃない!」
健斗「当たり前だ!」
碧「待てー!」
男子生徒「おーおー。今日も夫婦喧嘩かぁ?」
碧「夫婦じゃない!」
健斗「そうだそうだ!」
碧「って、早く2発殴らせなさい!」
健斗「1発増えてるぞ!」
場面転換。
教室内。
カリカリとノートに文字を書いている健斗。
健斗「えーっと、問いの3は……Aか……」
バンと机を叩く音。
健斗「うおっ! ビックリした」
碧「……なんで、あんたが私のノート持ってんのよ?」
健斗「なんでって、宿題やってねーから」
碧「理由になってないんだけど。なんで、あんたが私のノートを持ってるのよ?」
健斗「だって、宿題やらなかったら、先生に怒られるだろ」
ギリギリと耳を引っ張る音。
健斗「いでででで! 耳を引っ張るな! 千切れる、千切れる―!」
碧「あんたが怒れるのは、当然でしょ」
健斗「お前は俺が留年してもいいのかよ?」
碧「願ってもないわよ」
健斗「……ふふ。素直じゃないなぁ。俺がいないと寂しいくせに……いでででで!」
ギリギリと耳を引っ張る音。
碧「もう一方も引っ張られたいみたいね」
健斗「引っ張ってから言うな!」
碧「耳が無くなるのと、ノートを返すの、どっちがいい?」
健斗「わ、わかった! ジュース奢る!」
碧「え?」
健斗「パンも付ける。どうだ? お前、今月小遣いピンチって言ってだろ?」
碧「パン2つ……」
健斗「しょ、しょうがねーな」
碧「交渉成立。……破ったらどうなるか、わかってるわよね?」
健斗「はいはい」
ガサガサと財布を取り出す。
健斗「ほら、千円。これで好きなパンとジュース買って来いよ」
碧「千円もくれるの? 太っ腹!」
健斗「釣りは返せよ」
碧「けち!」
ツカツカと歩いて、教室を出ていく碧。
健斗「ったく、やれやれ……」
場面転換。
碧がパンを食べている。
碧「もう、書き写すのに何分かけてるのよ」
健斗「うるさいなー。ノートは明日帰すから、お前は先に帰ってろよ」
碧「嫌よ。あんたにノートを一晩貸すなんて、落ち着かないもん」
健斗「なんだよ、一緒に帰りたいなら、素直にそう言え……」
ブンと碧の拳が空を切る。
健斗「うお! あぶねえ!」
碧「あんまり舐めたこと言ってると、ぶん殴るわよ」
健斗「手を出してから言うよなよ!」
場面転換。
ツカツカと廊下を並んで歩く健斗と碧。
碧「あー、もう最悪!」
健斗「ぶつぶつ文句言うなよ。決まったんだからしょうがねーだろ」
碧「なんで、よりによって、あんたと一緒に学園祭のクラス代表にされなきゃならないのよ」
健斗「だから、決まったことなんだから文句言ったってしょうがねーだろ」
碧「納得いかない」
健斗「お前は……当日どうするんだ?」
碧「どうするって、どういうこと?」
健斗「ほら、学園祭。誰かと回るのか?」
碧「んー。どうしようかなー。真那でも誘おうかな」
健斗「……なんなら、俺と回るか? 学園祭」
碧「はははは」
健斗「なんだよ、その乾いた笑いは?」
碧「バカなこと言ってないで、あんたは急いで学園祭を一緒に回るような友達をつくりなさいよ」
健斗「いや、今更、それもどうかと思って」
碧「じゃあ、一人で回りなさい」
場面転換。
学園祭当日。人が賑わっている。
健斗が一人で歩いている。
健斗「……あ、碧」
碧「あ、健斗」
健斗「なんだよ、結局、お前も一人なんじゃん」
碧「うるさいわね」
健斗「……一緒に回るか?」
碧「……」
健斗「どっかの出店で、何か食べようぜ。少しくらいなら奢るぞ」
碧「しょ、しょうがないわね。けど、勘違いしないでよね」
健斗「はいはい。……ったく、素直じゃないんだから」
碧「なんか言った?」
健斗「いえ、何にも」
場面転換。
外から、打ち上げ花火の音。
碧「あれ? 何の音?」
健斗「今年は日程が、町の花火大会と被ってただろ。だから、その花火なんじゃねーか?」
碧「……花火かぁ」
健斗「見に行くか? 屋上ならよく見えるはずだぞ」
碧「はあ……あんたと二人ってのがなぁ……」
健斗「はいはい。悪うござんした。ほら、サッサっと行くぞ」
碧「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
場面転換。
打ち上げ花火の音。
碧「うわー。キレー」
健斗「……」
碧「なによ? 人の顔、ジロジロ見て」
健斗「いや、なんでもない。けど、やっぱ、屋上から見る花火は最高だな」
碧「そうね。……隣があんたじゃなきゃ、もっと最高なのに」
健斗「素直じゃねーな―」
場面転換。
碧「……え? 今、なんて言ったの?」
健斗「だから、俺、引っ越すから転校するんだよ」
碧「いつ?」
健斗「今月末」
碧「そう……」
健斗「……だから、お前にも会えなくなる」
碧「……うう」
健斗「碧?」
碧「……ごめんね。なんか涙が止まらない。どうしたんだろ、私」
健斗「お前、もしかして、俺のこと……」
碧「うん。私……健斗のこと……」
健斗「……」
碧「ホントに嫌いだったみたい」
健斗「へ?」
碧「もう会うことないって思ったら、嬉しくて、涙出ちゃった。うれし泣きって奴だね」
健斗「そっちかよ!」
健斗(N)「喧嘩するほど仲がいい……なんてことはなかった。ホントに喧嘩するほど仲が悪かったみたいだ……」
終わり。