■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
慎弥(しんや)
彰良(あきら)
男子生徒
女子生徒×2
■台本
慎弥(N)「絶対領域。それは男にとっての秘密の園であり、神聖な空間であり、ロマンであり、夢である。これまで、その絶対的、領域内を覗き見ようとして散っていった同志は星の数ほど存在する。多大なリスク、代償を払ってでも追い求める。これは俺達にとっての聖戦なのだ」
場面転換。
彰良「なあ、慎弥」
慎弥「ん?」
彰良「聖女の制服、変わったのって知ってる?」
慎弥「ああ、あの女子高だろ? それが?」
彰良「すげー、可愛くなったんだって」
慎弥「へー」
彰良「おいおい。なに興味ないフリしてるんだよ。格好つけてるのか?」
慎弥「いやいや、彰良。考えろって。いくら女子の制服が可愛くなったからと言って、俺達に関係あるか? クラスの女子はおろか、店の女性店員にさえ、話しかけられない俺達に、だ」
彰良「確かに、話しかけられないさ。それは否定しない。けどさ、見る分には話しかけなくてもいいんだからさ」
慎弥「いや、見るだけって……。そんなの悲しくならないか? それに下手したら、不審者だって通報されるかもだぞ? そんなリスクを負ってまで見たいか?」
彰良「……それは、見る場所にもよるだろ」
慎弥「何を言って――」
彰良「絶対領域」
慎弥「なっ! いや、待て! そりゃ、確かに多少のリスクを負っても見たいとは思う。思うけど、それは完全に超えてはいけない一線だ。下手したら戻れなくなる」
彰良「大丈夫だ。実はかなり、リスクが低いんだ」
慎弥「どういうことだ?」
彰良「これを見てくれ」
写真を出して渡す彰良。
慎弥「写真? なんの……うおっ! こ、これは!」
彰良「理解したか?」
慎弥「なんて短さのスカートだ! これはもうワカメちゃん一歩手前じゃないか!」
彰良「だろう? これなら、労せずとも突破できると思わないか? 絶対領域を」
慎弥「――行こう!」
彰良「ふふ。そうこなくてはな」
場面転換。
町中。
慎弥「うわー、すげー! 写真通り、実物もスカート短いなっ!」
彰良「これなら、ちょっと後をつければすぐだな」
慎弥「よし、行くぞ」
男子生徒「あんたら、なにやってんだ?」
慎弥「ぎくっ!」
彰良「べべべべつに、俺達は絶対領域を突破しようだなんて思ってないぞ! ホントに!」
慎弥「ば、ばか!」
男子生徒「……止めた方がいいよ」
慎弥「え?」
男子生徒「……今まで、幾多の男達が、あの短いスカートに釣られて、絶対領域に挑んだけど、その全員が心を折られて帰ってきた」
彰良「全員?」
男子生徒「ああ。誰一人として、突破出来た奴はいない。そして、心を折られた奴らが口をそろえて、こう言うんだ。止めておけばよかった、と」
彰良「冗談だろ? あの短さだぞ。ちょっと強い風が吹けば……」
男子生徒「一応、忠告はしたぜ。じゃあな」
男子生徒が行ってしまう。
慎弥「……なんだったんだ、あいつは?」
彰良「さあな。どうせ、女を尾行する度胸もない小心者なんだろ。俺達には関係ない。行こうぜ」
慎弥「ああ」
場面転換。
慎弥「……何か、変じゃないか?」
彰良「……やっぱりお前もそう思うか?」
慎弥「尾行を始めて、3時間。チャンスが一回もないなんて、あり得るか?」
彰良「……もしかしたら、警戒されているのかもしれん」
慎弥「どういうことだ? 尾行がバレてるっていうのか?」
彰良「いや、そうじゃない。あれだけ短いスカートだ。何かあれば、すぐに絶対領域を突破される。それは履いている本人たちにもわかっていることなんじゃないか?」
慎弥「……なるほど。確かに、スカートへの気の配り方は尋常じゃない。必ずカバンや手で、めくれないように抑えている」
彰良「狭い場所や物が多い場所でも、スカートが何かに引っかからないように常に対策している」
慎弥「なるほど……。これは思ったよりも、難関みたいだな」
彰良「ふふ。ふふふふ。やはりこうでなくてはな。絶対領域を狙っているのだ。このくらいの難易度がないと、返ってやる気が削がれる」
慎弥「その気持ち、わかるよ。やっぱ、困難があってこそ、達成したときの喜びは倍増する」
彰良「引き続き、監視していくぞ」
場面転換。
慎弥「なあ、彰良」
彰良「なんだ?」
慎弥「今日で何日目だ?」
彰良「正確には数えていないが、大体、一か月と少し、といったところだろ」
慎弥「……約一か月間、毎日、3時間以上を費やして、成果がなしだぞ」
彰良「焦るな。焦れば、相手の思うつぼだぞ」
慎弥「……すまん。こうも、成果が出ないと気が滅入ってしまって……」
彰良「わかるぞ。だが、ここが我慢のしどころじゃないか」
慎弥「……なあ、彰良。もう少しリスクを上げないか?」
彰良「何か作戦があるのか?」
慎弥「ちょっと耳を貸せ」
場面転換。
慎弥と彰良がわざとらしく話している。
慎弥「いやあ、さっきの子猫、可愛かったな―」
彰良「うむ。是非、飼いたいところだが、寮だから無理だもんな」
慎弥「誰か、拾ってくれないかなー」
彰良「山下ビルの横の路地裏に段ボールがあって、その中にいるんだよなー」
慎弥「……」
スタスタと歩く2人。
女子生徒1「……子猫だって」
女子生徒2「見に行ってみる?」
女子生徒1「そうだね」
こそこそと話す慎弥と彰良。
慎弥「よし、上手くいった」
彰良「山下ビルに戻るぞ!」
場面転換。
女子生徒たちがやって来る。
女子生徒1「この辺だよね?」
女子生徒2「あ、あそこ。段ボール置いてある。あの中じゃない?」
こそこそと話す慎弥と彰良。
慎弥「よし、釣れた」
彰良「あとは、あれを待つだけだ」
女子生徒1「あれ? 段ボールの中、なにもないよ?」
女子生徒2「誰かがもう、拾っちゃったのかな?」
女子生徒1「なーんだ。つまんない。帰ろっか」
女子生徒2「そうだね」
彰良「くそ。もう少し! もう少しなんだ」
慎弥「もう少しのはずなんだ! 頼む!」
女子生徒1「ねえねえ、帰りにさー」
女子生徒2「ん?」
そのとき、ビューと強い風が吹く。
慎弥「来た! ビル風だ!」
彰良「貰ったぞ!」
女子生徒1・2「きゃーーー!」
慎弥「よし! めくれた……」
彰良「え?」
慎弥「あ……」
女子生徒1「あー、ビックリしたね」
女子生徒2「こういうとき、履いててよかったって思うよね」
女子生徒1「そうだね」
慎弥「そ、そんな……」
彰良「バカな……」
慎弥(N)「念願のスカートの中は短パンだった。幾多の男達の心が折られた理由が理解できた。……この一ヶ月、俺達は何のために時間を使ってきたのか。……はあ。止めておけばよかった」
終わり。