【フリー台本】誤差

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
太陽(たいよう)
偉月(いつき)
紬(つむぎ)
アナウンサー×2

■台本

太陽(N)「俺と偉月は一卵性双生児。同じ屋根の下、同じ物を食べ、同じ教育を受け、同じように育ってきた。……なのに、どうしてこうなってしまったのだろうか」

場面転換。

キンとバットで球を打つ音。

そして歓声が上がる。

場面転換。

太陽、偉月、紬が並んで歩いている。

紬「すごい、すごい! 2連続ホームランだよ! 太陽なら甲子園行けるんじゃない?」

太陽「たまたまだよ、たまたま」

偉月「……」

太陽「どうした、偉月」

偉月「いや、どうして双子なのに、こんなに違うのかなって。兄貴は2打席連続ホームランで、俺は3打席三振……」

紬「何言ってるのよ。偉月だって、この前の試合、2ヒットだったじゃん。今日は調子が悪かっただけだよ」

太陽「そうそう。あんまり気に病むなって」

偉月「……」

場面転換。

ブン、ブン、と太陽と偉月がバットを振っている。

太陽「ふう。よし、今日のノルマ終わり、と」

ブン、ブンとバットを振り続ける偉月。

太陽「偉月、家に入らないのか?」

偉月「俺はもう少し、振ってく」

太陽「……そうか。無理するなよ」

場面転換。

廊下を歩く太陽。

太陽「ふわー。ねみぃ……」

紬「ちょっと、太陽! 何してんのよ。もうすぐ練習始まるよ」

太陽「すまん。今日は、体調不良で休むって監督に言っておいてくれ」

紬「あんたねー。この前もそんなこと言って、サボってたじゃん」

太陽「ホントに体調悪いんだって。それに、一か月に一回くらい練習休んだっていいだろ。骨休みだよ、骨休み」

紬「もう! 偉月は毎日、遅くまで自主練してるのに」

太陽「明日は俺もやるよ」

紬「約束だからね」

太陽「はいはい」

場面転換。

偉月「おかわり……。うっぷ」

太陽「おいおい、無理して食う事ねーだろ」

偉月「いや、もう少し筋肉つけたくてさ」

太陽「茶碗一杯でそこまで変わるかぁ?」

偉月「はは。どうだろうね」

太陽「変に真面目だよな、偉月は」

場面転換。

テレビの音。

太陽「ふわー。そろそろ寝るかぁ……」

そのとき、ガチャリとドアが開き、偉月が入って来る。

太陽「あれ? 偉月、まだ起きてたのか?」

偉月「ああ、うん。ちょっと勉強しようと思って」

太陽「おいおい。大丈夫か? 明日、朝練だぞ」

偉月「うん。だから、1時間だけ」

太陽「ふーん。1時間くらいじゃ、全然、勉強にならないだろ」

偉月「はは。そうかもね。気分だよ、気分」

太陽「あっそ。ま、俺は寝るわ。明日は寝坊すんじゃねーぞ」

偉月「兄貴こそね」

場面転換。

太陽、偉月、紬が歩いている。

紬「偉月、4番、おめでとう」

太陽「あー、ついにお前に4番、取られたか」

偉月「ありがとう。けど、俺と兄貴、ほとんど差はないって監督が言ってたよ。たまたまだよ、たまたま」

太陽「ま、次は4番、奪い返してやるよ」

偉月「取られないように頑張るよ」

場面転換。

歩いている太陽。

そこに紬がやってくる。

紬「ちょっと、太陽! 辞めるってどういうことよ!」

太陽「ベンチにも入れねーんじゃ、続ける意味ねーだろ」

紬「そんなことないよ。もう少し頑張れば、またレギュラー入りできるって」

太陽「いいよ、もう。野球は偉月に任せた。俺は勉強、頑張るさ」

紬「もう……」

場面転換。

ドサッとベッドに倒れ込む音。

太陽「あー、くそ。全然集中できねー。……気晴らしにゲームでもするか」

場面転換。

ガチャリとドアが開く音。

紬「偉月、用意できてる?」

偉月「ああ。じゃあ、兄貴、合宿行って来るね」

太陽「おー、頑張ってこいよ。で、ちゃんと甲子園行けよ」

偉月「任せておいて」

紬「……ねえ、太陽。あんた、ちょっと太った?」

太陽「なっ! そ、そんなことねーよ……」

紬「野球辞めたからって、少しは運動しないとダメだよ」

太陽「わかってるって」

偉月「そろそろ出ないと」

紬「やばっ! 早く行こ」

二人が慌ただしく出ていく。

太陽「……さてと。俺は、補習に行かないとな―……」

場面転換。

テレビの音。キンとバッドで球を打つ音。

沸き上がる歓声。

アナウンサー「打ったー! 入るか! 入るか! ……入ったー! ホームラン! まさに怪物! ルーキー川井戸偉月、3連続ホームラン!」

太陽「よし! これで、新人王は確定だろうな」

ピッとテレビを消す音。

太陽「さてと。俺は勉強、勉強。さすがに2浪はヤバいからな……」

場面転換。

テレビの音。

アナウンサー「――選手が、メジャーに挑戦ということで、どうでしょうか? 通用しますかね?」

ガチャリとドアが開く音。

紬「お義母さーん、手続きの方だけど……」

太陽「おう、いらっしゃい」

紬「あ、太陽。お義母さんは?」

太陽「母さんなら、さっき出かけたぞ」

紬「そっか。じゃあ、出直そうかな」

太陽「おめでとう」

紬「え?」

太陽「メジャー。頑張れって、偉月に言っておいてくれ」

紬「ありがとう。太陽も就職活動、頑張ってね」

太陽「ああ。すげー会社に入ってやるよ」

紬「もう、長年、自宅警備員やってるのに何言ってるのよ。とにかく、まずは働くこと。いいわね?」

太陽「……わかったよ」

紬「ふふ。それじゃね、太陽お兄ちゃん」

太陽「おい、やめろ」

紬「あはは」

紬が出ていく。

太陽「……はあー」

太陽(N)「「俺と偉月は一卵性双生児。同じ屋根の下、同じ物を食べ、同じ教育を受け、同じように育ってきた。……なのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。一体、どこであいつとの差が出来てしまったのだろうか……」

終わり。

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