■概要
人数:3人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、昭和、シリアス
■キャスト
佐吉(さきち)
ねね
兵士
■台本
佐吉(N)「妹はいつも空を見上げていた」
ねね「兄様。ねねもいつか、あの鳥のように空を自由に飛べるようになるでしょうか?」
佐吉「人間はね、鳥のように飛べるようにはできていないんだよ」
ねね「……そうなのですか?」
佐吉「でもね、ねね。そんな人間でも、空を自由に飛べる方法があるんだ」
ねね「それはなんでしょうか?」
佐吉「飛行機だよ」
ねね「飛行機……ですか」
佐吉「飛行機のパイロットになれば、空を自由に飛べるようになるんだよ」
ねね「それでは、ねねは将来、飛行機のパイロットになります!」
佐吉「うん。ねねなら、きっとなれるよ。頑張ってね」
ねね「はい!」
佐吉(N)「しかし、そんなねねの希望は打ち砕かれてしまう。……太平洋戦争の勃発だ。飛行機は全て軍が所有することとなり、パイロットは兵士だけとなってしまったのだ」
場面転換。
佐吉「悪いな。兄ちゃんの方が、先にねねの希望を叶えることになりそうだ」
ねね「兄様。どうか……どうか、ご無事でお戻りください」
佐吉「……お国の為。……ねねを守るため、兄ちゃんは頑張って戦ってくるよ」
場面転換。
飛行機の銃撃戦。
佐吉が撃った弾が相手に当たり、相手の飛行機が落ちていく。
無線機からの声。
兵士「さすがツバメ。今日だけで、もう3機落としてる」
佐吉「まぐれさ。って、第二派来たぞ」
兵士「おう。落とされるんじゃないぞ」
佐吉「お前もな」
佐吉(N)「俺はパイロットとしての素質があったのか、すぐに数多くの戦果を挙げることができた。仲間は俺が鳥のように自由に飛び回るところから、俺のことをツバメと呼ぶ。……君の思い描いたものとは違うけれど、兄ちゃんは毎日のように空を自由に飛んでいるよ」
場面転換。
兵士「……ついに来たな。特攻の命令……」
佐吉「ああ」
兵士「お前はどうするんだ?」
佐吉「家に帰るよ」
兵士「そうか。家族とゆっくり話してこいよ」
佐吉「ああ……」
場面転換。
ねね「ごほっ! ごほっ! ごほっ!」
佐吉「大丈夫か、ねね」
ねね「ごめんなさい、兄様。せっかくの帰郷なのに」
佐吉「いや、いいんだ」
ねね「……特攻するって本当なんですか?」
佐吉「ああ。だから、帰ってこれたんだ」
ねね「……どうせなら、ねねが特攻できればよかったのに」
佐吉「何を言ってるんだ」
ねね「ねねの命はもう残り少ないです。苦しむくらいなら、最後は自由に空を飛び回ってみたかったです」
佐吉「……」
場面転換。
飛行機の飛ぶ音。
無線からの声。
兵士「じゃあ、ツバメ! 先に行くぜ」
佐吉「ああ。俺もすぐにいく」
兵士「うおおおおおお!」
爆発音。
佐吉(N)「ねねが憧れた空。その空を自由に飛び回る飛行機での最後というのは、幸せなのかもしれない。……ねね。兄ちゃんは先に行くけど、君も来たら、今度は一緒に飛ぼう。きっと天国なら、自由に空を飛べるはずだから」
終わり。