■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
直斗(なおと)
喜咲(きさき)
輝(ひかる)
霊能力者
男
警察官
■台本
町中。
霊能力者「世の中に、完全犯罪というものは存在すると思うかね?」
直斗「あ、俺、そういうの興味ないんで」
霊能力者「別に大層な犯罪ではなく、ちょっとした、仕返しにだって使うことができるんだ」
直斗「……」
霊能力者「もし、気になったら、この名刺の所へ訪ねてきたまえ」
直斗「……」
霊能力者が行ってしまう。
男「……直斗、今の何だったんだ?」
直斗「さあ、俺にもわからん……。それより、早く服を見に行こうぜ」
男「ああ、そうだったな。……けどさあ、普通、デートの前日に慌てて買いに行くか?」
直斗「うるさいな。まさか、オッケーもらえるなんて思わなかったんだよ!」
男「まあ、あの女王だもんな。どんな手を使ったんだ?」
直斗「ライブのチケット……」
ペラっと紙を出す。
男「おおお! 超レアもんじゃん! 良く手に入ったな!」
直斗「マジ苦労したよ。色々なツテと金を使ってさー」
男「なるほど。あの女王がオッケーするわけだ」
直斗「ってわけで、コーディネート頼む。あとで奢るからさ」
男「はいはい」
場面転換。
駅前。
直斗「……」
喜咲「直斗さん、お待たせしましたわ」
直斗「あ、喜咲さん。全然、今、来たばっかりだよ」
喜咲「それで、チケットは持ってきたんですの?」
直斗「ああ、もちろん」
チケットを取り出す。
だが、そのチケットをサッと取られてしまう。
直斗「え? あっ! ちょっと?」
喜咲「直斗さん、悪いのですけれど、やっぱり、直斗さんと一緒だと、ライブが楽しめないと思いますの」
直斗「……へ?」
喜咲「ですから、わたくし、別の方と行くことにしましたの」
輝がやってくる。
輝「悪いね、直斗くん。君の分までしっかり楽しんでくるから」
喜咲「それじゃ、行きましょ、輝さん」
輝「ああ」
直斗「え……あ……」
喜咲と輝が歩き去って行く。
直斗「そんな……」
そのとき、ポケットから名刺が落ちる。
直斗「あ、昨日の変な人から貰った名刺だ……」
場面転換。
部屋の中。
霊能力者「警察や司法という組織はね、超常現象というものを認めていないのだよ」
直斗「……何の話ですか?」
霊能力者「言っただろう? 完全犯罪の話さ」
直斗「……」
霊能力者「いやあ、すまない。どうもまどろっこしい言い回しをしてしまったようだね。つまり、超常現象によって引き起こされた犯罪は立証ができない。つまり、完全犯罪が成立するというわけだ」
直斗「……はあ」
霊能力者「とはいえ、誰にでもできるわけではない。素質が必要なんだよ」
直斗「俺にその、素質っていうのはあるんですか?」
霊能力者「ああ、もちろんさ。だから声をかけたんだよ」
直斗「具体的には、どうするんですか?」
霊能力者「幽体離脱、というのは知っているかい? または生霊とも言う」
直斗「ええ。自分の体から魂だけを出して、移動するってやつですよね?」
霊能力者「そうだ。ある程度の才能がある者は、何とか幽体離脱まで努力次第で出来るようになる。だが、その状態で、物に触れれるようになるには才能が不可欠なんだ。それが君にはある」
直斗「ホントですか?」
霊能力者「ああ。普通の人間よりも、はっきりと霊体を形作ることができるはずだよ。下手な幽霊よりもずっとハッキリとね」
直斗「……さっそく、さっそく試させてください! どうしても、仕返しした相手がいるんです」
場面転換。
ライブ会場。周りは大賑わい。
喜咲「輝さん、スマホで撮って!」
輝「いくよー」
カシャッというシャッター音。
喜咲「きゃああ!」
輝「ど、どうした?」
喜咲「今、髪引っ張られた」
輝「え? ……誰に?」
場面転換。
レストラン。
輝「なんか、散々だったね、ライブ」
喜咲「あの会場、変だったわよ。なんか、気持ち悪い感じがしたのよね」
輝「まあ、それは忘れて、せっかく頼んだ料理が来たんだから、食べようよ」
喜咲「その前に撮って! ちゃんと栄えるようにね!」
カシャッというシャッター音。
喜咲「じゃあ、食べま……ぶっ!」
輝「ええ?」
喜咲「……輝さん、随分なことをやってくれますのね。ピザを顔面にぶつけるなんて」
輝「お、俺じゃないって。見てたでしょ? 俺、スマホ持ってたし」
喜咲「じゃあ、これは一体……」
場面転換。
高台。
喜咲「夜景がきれいですわ」
輝「そうだね」
喜咲「もちろん、ここでも撮らないとですわ」
輝「ああ」
カシャリッというシャッター音。
喜咲「上手く撮れたかしら……きゃあっ!」
ドンと押され、転ぶ喜咲。
輝「だ、大丈夫かい……うわああ!」
輝も押されて転ぶ。
場面転換。
部屋の中。
直斗「上手くいきました!」
霊能力者「うむ」
直斗「……でも、ホントに大丈夫なんですかね?」
霊能力者「平気平気。警察は超常現象なんか絶対に信じないからね」
直斗「ありがとうございます」
場面転換。
インターフォンの鳴る音。
直斗「はい?」
ガチャリとドアを開ける。
警察官「警察です」
直斗「え? あ、あの……」
警察官「あなたは、この写真の二人のことをしってますよね?」
直斗「ええ、まあ」
警察官「なら、なぜ、私がここに来たかわかるね?」
直斗「いや、その……いえ、わかりません」
警察官「はあ……。なんで、そんなシラを切るかな? この二人に付きまとって、さらには押し倒して、怪我をさせたでしょう! 軽傷だったとしても、犯罪だよ!」
直斗「待ってください! 俺、その場にはいませんでしたよ」
警察官「はあ……。これ。男の人が撮ってた写真。どれも、バッチリ、あなたが写ってるでしょ!」
直斗「……あ、心霊写真」
警察官「こんなにはっきりと写ってるんだから、言い逃れできないよ!?」
直斗「ちょっと待ってください。えっと、これは……俺、幽体離脱というか、生霊だったんです」
警察官「はあ……。はいはい。後は署で聞くから。来てくれる?」
直斗「うおおー! 嘘つきー! 完全犯罪なんて出来ないじゃん!」
終わり。