不思議な館の亜梨珠 天才マジシャン

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

亜梨珠「あら? ……ふふ。今日は随分と真っ黒ね。ずっと外にいたのかしら?」

亜梨珠「……公園に子供がいるのは普通だと思うのだけれど」

亜梨珠「……なるほどね。あなたらしいわね」

亜梨珠「けれど、知らない子供の逆上がりの練習を手伝ってあげるなんて、なかなか出来ることではないと思うわ」

亜梨珠「……その気持ち、よくわかるわ。失敗を続けていても、諦めずに頑張っている人を見ると、思わず助けたり、見守ってしまったりしてしまうものよね」

亜梨珠「……そうだ。面白いお話を思い出したから、今日は、その話をしましょうか」

亜梨珠「それはある天才マジシャンのお話……」

亜梨珠「その男の両親はマジシャンで、子供の頃からその技術を引き継いできたの」

亜梨珠「両親からは天才とさえ言われ、とても高い技術力を持っていたそうよ」

亜梨珠「けれど、その男は、両親を見て、あることを思ったの」

亜梨珠「それは、マジックの世界というのは技術だけがものをいう世界ではないということ」

亜梨珠「現に、男の両親は腕が確かだったのに、売れないマジシャンとして認識されていたらしいの」

亜梨珠「男は考えたわ。売れるためにはマジックの腕以外に何かが必要だと」

亜梨珠「そこで男は大道芸をすることにしたの」

亜梨珠「……ええ。道端でやるパフォーマンスのことよ」

亜梨珠「多くの大道芸人が芸をする中に混じって、男はマジックをやったわ」

亜梨珠「もちろん、最初の頃は誰の目も引かなく、足を止めて男のマジックを見ることもなかったわ」

亜梨珠「けれど、次第に、絶大な人気を誇るようになったわ」

亜梨珠「……ふふふ。さて、ここで問題」

亜梨珠「その男のマジックはどうして、絶大な人気を得るようになったと思うかしら?」

亜梨珠「……ええ。そうね。毎日休まずにやっていたというのも、もちろんあったと思うわ」

亜梨珠「けれど、それは他の人たちも一緒よ。男だけが毎日やっていたわけではないわ」

亜梨珠「……一番、マジックが凄かった?」」

亜梨珠「いいえ、違うわ。というより、男のマジックは一番酷かったはずよ」

亜梨珠「……さくらだった? いいえ。そこは完全に純粋なお客さんだけよ」

亜梨珠「……ふふ。随分と悩んでいるようね」

亜梨珠「じゃあ、ヒントをあげようかしら」

亜梨珠「……マジックが酷いからこそよ」

亜梨珠「……これじゃ、ほとんど正解を言ってしまったようなものかしら」

亜梨珠「似たような話で、こういうものがあるわ」

亜梨珠「ある裕福な男が、道端に住む男にこう尋ねるの」

亜梨珠「一万円札と百円玉、どっちか好きな方をやる、ってね」

亜梨珠「すると道端に住む男は喜んで百円玉を選んだの」

亜梨珠「裕福な男は本当にそれでいいのかと聞くと、道端に住む男はもちろんと答えたわ」

亜梨珠「裕福な男は、道端に住む男を面白がって、何日かに一回来て、同じ質問をするの」

亜梨珠「でも、そのたびに道端に住む男は百円玉を選んだわ」

亜梨珠「裕福な男はますます面白がって、道端に住む男の所へ頻繁に来るようになったの」

亜梨珠「……じゃあ、なぜ、この道端に住む男はいつも百円玉を選んだのかわかるかしら?」

亜梨珠「もちろん、男は戦略で百円玉を選んでいたのよ」

亜梨珠「いい? つまり、わざと百円玉を選んだの」

亜梨珠「……ふふ。そう、正解よ」

亜梨珠「一万円を選んだ時点で、裕福な男の興味は無くなるわ。一万円は得られるけれど、それ以上は得ることは出来ない」

亜梨珠「だけれど、百円を選ぶことで裕福な男の興味を引いたわ」

亜梨珠「裕福な男が100回以上来れば、一万以上を得ることができるってわけね」

亜梨珠「それを踏まえて、もう一度、先ほどの問題を考えてみて」

亜梨珠「酷いマジックしかしない男が、なぜ、絶大な人気を得るようになったのか」

亜梨珠「それはつまり、どう、興味を引いたのか」

亜梨珠「ふふふ。正解よ」

亜梨珠「そう。失敗ばかりのマジックを見せ続けたの」

亜梨珠「確かに、凄いマジックを見せれば、一度はその場に立ち止まってくれるかもしれないわ。拍手だって貰えるでしょうね」

亜梨珠「けれど、周りにも凄いマジックをしてる人は多いわ。そこから頭一つ以上飛び抜けるのは至難の技よ」

亜梨珠「けれど、そんな中で、失敗しているのを見たらどうかしら?」

亜梨珠「印象に残るはずよ」

亜梨珠「演者が必死であれば、あるほどね」

亜梨珠「ひたむきに、素直に、努力していれば、人は応援したくなるもの……」

亜梨珠「面白いことに、観客は男のマジックの成功を見たいために、訪れるようになったの」

亜梨珠「そして、他のマジシャンではやらないような、簡単なマジックでも、男が成功させたときは、歓声が上がり、大盛り上がりしたそうよ」

亜梨珠「あなたが、公園で逆上がりを練習している子供を見ているのと同じような感覚じゃないかしらね」

亜梨珠「……今回は、人の興味というものは面白いという話ね」

亜梨珠「ふふっ。今日はこれで、お話は終わりよ」

亜梨珠「また来てね。さよなら」

終わり。

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