■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
坂神 三鷹(さかがみ みたか)※大人、子供Ver
三星(みほし)
伊吹 征十郎(いぶき せいじゅうろう)
子供×2
アナウンサー
■台本
テレビ中継。
アナウンサー「見えました! 伊吹征十郎です! そして、その腕には……子供です! 救助成功です! 一時は絶望と思われていたこの状況で、みごと、子供を助け出しました。さすが、レスキュー隊エース、伊吹征十郎! まさしく、ヒーローそのものです!」
テレビを見ている三鷹。
三鷹「すっげー! やっぱ、伊吹征十郎はすげーなー! よーし! 俺も、将来は絶対にヒーローになってやるぞ!」
三星「ねえ、お兄ちゃん。もう、テレビ終わった?」
三鷹「ああ、ごめんごめん、三星。待たせたな。遊びに行こうか」
三星「うん!」
場面転換。
公園。
三鷹「んんーー! んんー! やああ!」
鉄棒で懸垂をしている三鷹。
三鷹「で、できた! ……うわっ!」
ドサッとしりもちをつく三鷹。
三鷹「いてて。でも、ようやく一回、懸垂できたぞ!」
三星「ねー! お兄ちゃんー!」
三鷹「あー、ごめんごめん。今行く」
三鷹が歩き始める。
そこに子供1がやってくる。
子供1「おーい、三鷹! 大変だ! よっしーが、三組の奴らに絡まれてる!」
三鷹「マジで? 今行く! ごめん、三星! すぐに戻るから、一人で遊んでてくれ!」
三鷹と子供1が走っていく。
場面転換。
三鷹と三星が一緒に歩いている。
三星「ホットケーキ! ホットケーキ!」
三鷹「帰ったらいっぱい、焼いてやるからな」
三星「うん!」
そこに子供2がやってくる。
子供2「みっちゃん! 大変だよ! あっくんが穴に落ちちゃって!」
三鷹「え? すぐ行く! ごめん、三星。先に帰ってて!」
子供2と三鷹が走って行く。
場面転換。
アトラクション内。
三鷹と三星が歩いている。
三星「すごいねー、お兄ちゃん」
三鷹「これ、全部、木で出来てるだってさ」
三星「へー! 木の迷路だね」
三鷹「上手く、ゴールに行けるかな?」
三星「がんばろー!」
三鷹「うん!」
三星「……ねえ、お兄ちゃん。今日は大丈夫?」
三鷹「ん? 何がだ?」
三星「困った人、助けに行かなくて」
三鷹「あははは。大丈夫だよ。今日は、ずっと三星と遊ぶために、ここに来たんだもん」
三星「えへへへ。嬉しい」
三鷹「……いつも、ごめんな。一人にさせてばっかりで」
三星「ううん。お兄ちゃん、ヒーローになるんだから、いいの」
三鷹「……三星」
そのとき、メリメリと木が裂ける音が響く。
三鷹「ん? なんの音だろう?」
突然、木の迷路が崩れ始める。
三鷹「うわあああ! 天井が崩れてきた!」
三星「お兄ちゃんー!」
ドーンと木の迷路が崩壊する音が響く。
三鷹「……」
三星「……」
三鷹「三星、大丈夫か?」
三星「う、うん……」
三鷹「どうして、木の迷路が壊れちゃったんだろう?」
三星「……」
周りからは悲鳴や助けを呼ぶ声が響く。
三鷹「中にいた、他のお客さんかな?」
三星「木に挟まれちゃったの?」
三鷹「そうみたい」
三星「……」
三鷹「どうした、三星」
三星「いいよ」
三鷹「……え?」
三星「助けに行ってあげて。三星はここでジッとしてるから大丈夫」
三鷹「……三星」
三星「(震えて)三星、ちゃんと待ってられるから」
三鷹「……ううん。ここにいる」
三星「え?」
三鷹「三星とずっと一緒にいるよ」
三星「う、うえーーーん!」
三星が三鷹に抱き着いて、泣き始める。
場面転換。
三鷹「もうすぐ、救助が来るはずだから、頑張ろうな」
三星「う、うん」
そのとき、崩れた木を搔き分けて来る音。
征十郎「あ、いたぞ! 子供2名! 発見した!」
三鷹「あっ! 伊吹征十郎」
征十郎「待たせたな。もう大丈夫。助けに来たぞ」
三鷹「あの……三星を……妹を先に、助けてください」
征十郎「大丈夫。二人とも、一緒に助けるよ」
三鷹「それなら、妹と、他の人を助けてください。……俺は最後でいいです」
征十郎「なぜだい?」
三鷹「俺……。ずっとヒーローになりたかったんです。だからいつも、困っている人を助けたりしてたんです」
征十郎「……」
三鷹「だけど、今は……怖くて、助けに行けなかった。……妹を守るって誤魔化して、助けに行かなかった……。だからせめて、俺以外を先に助けてほしいんです。俺が助けれなかった人を助けてほしいんです」
征十郎「……ふむ。なるほど。だが、君は一つ、大きな間違いをしている」
三鷹「間違い?」
征十郎「君はもう、十分ヒーローってことさ」
三鷹「え?」
征十郎「妹を守っただろ?」
三鷹「でも、それは……そんなんじゃ、ヒーローなんて言えないです」
征十郎「いいかい? ヒーローは人を助ける人のことだ。人数は関係ない。他人を助けることも、大切な人を助けるのも、ヒーローには変わりないんだ」
三鷹「……」
征十郎「それにね、もし、今、君が妹を置いて他の人を助けに行ったとしよう。だが、君はまだ子供だ。できることは限られている。もしかしたら、二次災害で、君が巻き込まれてしまう可能性だってある」
三鷹「……」
征十郎「だが、君は自分ができる精いっぱいの力で妹を守った。守ることができた。自分の力量に合った人助けをする。これも、ヒーローにとって大切なことなんだよ」
三鷹「……」
征十郎「けど、もし、それでも納得がいかないなら、もっと自分を鍛えなくっちゃ駄目だな。妹も助けながら、他の人もしっかり助けられるくらいの力をつけないとね」
三鷹「は、はい!」
場面転換。
十数年後。
三鷹「今日から、レスキュー隊員として配属されました、坂神三鷹です! よろしくお願いいたします」
征十郎「来たか、ヒーロー。ガンガン、鍛えてやるから、覚悟しろよ」
三鷹「はい! よろしくお願いいたします!」
終わり。