■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ダージ
ジレ
教師
兵士
ナレーション
■台本
ナレーション「各国が大陸の覇権を狙う、激動の時代。そんな時代に終止符を打ったのは、落ちこぼれと呼ばれた、一人の魔法使いだった」
場面転換。
ジレ「はああああ! 燃え盛れ、業火よ!」
ゴウと炎の柱が巻き起こる。
教師「素晴らしい。さすがジレ。我が校始まって以来の天才と呼ばれるだけある。将来は立派な魔法使いになって、この国を支えてくれ」
ジレ「はいっ! 俺の魔法で、敵を蹴散らして、大陸を統一します」
他の子供たちから歓声が上がる。
教師「うんうん。その意気だ。引き続き、頑張ってくれ。じゃあ、次、ダージ。やってみろ」
ダージ「はいっ!」
深呼吸をするダージ。
ダージ「はああああ! 燃え盛れ、業火よ!」
ポンと火の玉が弾ける音。
ダージ「……」
周りから笑い声が響く。
教師「ダージ。お前は我が校始まって以来の落ちこぼれだ。そんなんじゃ、立派な魔法使いになれないぞ。もっと頑張れ」
ダージ「……」
場面転換。
ダージ「はあああ! 弾けろ、業火よ!」
ポンと火の玉が弾ける音。
ジレ「……ダージ、こんなところで、一人で特訓か?」
ダージ「あ、ジレくん」
ジレ「相変わらず、ショボい魔法だな。俺が成功のコツを教えてやるよ」
ダージ「ううん。大丈夫」
ジレ「なんでだよ?」
ダージ「だって、成功してるから」
ジレ「成功? 今の、ショボい火の玉がか?」
ダージ「うん。見てて。はああああ! 燃え盛れ、業火よ!」
ポンと火の玉が弾ける音。
ダージ「どう?」
ジレ「いや、どうって言われても……。そんなんじゃ虫も殺せないぞ」
ダージ「見るところが違うよ。さっきの火の色、青色だったでしょ?」
ジレ「ん? んー。まあ、そうだな。……で、それがどうしたんだ?」
ダージ「綺麗だと思わない?」
ジレ「いやいや、敵を倒すのに、綺麗もなにもないだろ。必要なのは威力だ」
ダージ「うーん。青色が出せるなら、緑色も出せないかな?」
ジレ「……ダメだこりゃ」
場面転換。
10年後。
ガチャリとドアが開く音。
ジレ「ダージ、聞いてくれ。ついに、魔導騎士団長に任命された」
ダージ「……そうか。君なら、そうなると思っていたよ」
ジレ「……祝ってはくれないのか?」
ダージ「親友が大勢の人を傷つける立場になったことを喜ぶなんて馬鹿げてる」
ジレ「違う。英雄になるチャンスを貰ったんだ」
ダージ「人を傷つけることが英雄だなんて間違ってると思わないかい?」
ジレ「これは平和のためなんだ。人を傷つけることが目的じゃない」
ダージ「人を傷つけることが平和のため……。僕にはどう考えても矛盾しているようにしか思えない」
ジレ「じゃあ、お前はこの国が、他の国に滅ぼされてもいいというのか?」
ダージ「違う。そうじゃないよ。人は傷つけ合わなくたって、分かり合えるはずだ」
ジレ「そんなものはただの理想論だよ。結局、お前は一人前の魔法使いになれなかったから、理想に逃げただけだ」
ダージ「そうだ。僕は理想を追い求めるために、研究を続けている。諦めてしまったら、理想のままで終わってしまうから」
ジレ「その理想っていうのが、色んな色の炎を出す事なのか?」
ダージ「ああ。もうすぐ……もうすぐ完成しそうなんだ」
ジレ「そんな魔法で、どうやってこの世界を平和にできるんだよ?」
ダージ「争いは分かり合えないから起こるんだ。だから分かり合える、一つの感情を共有するんだよ」
ジレ「……意味がわからないな。所詮、お前は落ちこぼれだ。誰一人傷つけることもできない魔法で、理想を語っていればいいさ」
場面転換。
戦いの音。
剣で斬り結ぶ音や、魔法の轟音が響いている。
兵士たちの怒号や悲鳴が響いている。
兵士「ジレ様、退却してください!」
ジレ「味方はほぼ全滅だ。こんな状況で、俺だけ生き残ってどうする」
兵士「ですが……」
ジレ「一人でも多くの敵を道連れにしてやる! お前は下がっていろ!」
兵士「自爆する気ですか? 止めてください」
ジレ「うるさい! 黙ってろ」
そこに馬が駆けてくる。
ダージ「ジレ! 無事か!?」
ジレ「ダージ! お前、なんで?」
ダージ「間に合ったようだね。ようやく、僕の魔法が完成したんだ」
ジレ「バカ! お前の魔法でどうにかできる戦況じゃない! さっさと逃げろ!」
ダージ「大丈夫。この戦いを終わらせて見せる」
ジレ「お前の魔法の威力じゃ無理だ!」
ダージ「前に言ったこと、覚えてる? 人が争うのは、分かり合えないからだって」
ジレ「……ああ」
ダージ「だから分かり合える、一つの感情を共有する」
ジレ「一つの感情?」
ダージ「綺麗だと思う心だよ」
ダージが深呼吸する。
ダージ「夜を彩る、炎の花よ! 咲き乱れろ!」
ヒューと火の玉が上空へと上がる。
そして、バーンと弾け、パチパチと音を立てて、火の花が咲く。
ジレ「……すごい」
戦いの音がピタリと止む。
ダージ「はああああああ!」
次々と、ヒューと火の玉が上空へと上がる。
そして、バーンと弾け、パチパチと音を立てて、火の花が咲いていく。
兵士「……綺麗だ」
場面転換。
ナレーション「突如、夜の空に咲き乱れた火の花。憎しみ合い、傷つけ合っていた両軍の手は止まり、すべての人間は空を仰ぎ、その光景に見惚れたという。そのときを境に、争う意味に疑問を持ち、やがて戦うことを止めていった。そして、戦いを終わらせた、落ちこぼれの魔法使いが放った魔法は、花火と名付けられ、平和の象徴として、残り続けるのであった」
終わり。