■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
坂本 勝巳(さかもと かつみ)
真崎(まさき)
宮沢 響子(みやざわ きょうこ)
高梨(たかなし)
香田(こうだ)
清川(きよかわ)
女生徒
■台本
学校の職員室。
勝巳がガラガラと机の引き出しを開ける。
そして、ノートを取り出す。
勝巳「……」
響子「随分と古いノートですね。生徒からの押収品ですか?」
勝巳「ははは。違いますよ。高校の時に使ってたノートです」
響子「坂本先生の高校時代……ってことは、のときの物ですか?」
勝巳「え? 宮沢先生も知ってるんですか?」
響子「……ええ、まあ」
勝巳「いやあ、何か恥ずかしいですね。ははは」
勝巳(N)「そう。あのときのことは、有名で、今でも覚えている人間は多い。……俺は……いや、俺達はそれくらいのことをやったのだから」
場面転換。
10年前。
生徒会室。
香田「なあ、坂本。本当にやるのか?」
勝巳「無理して付き合うことはないよ。降りて貰っても構わない」
高梨「そうよ。迷うくらいなら、やめなって。そのくらいのモチベーションしかないなら邪魔だわ」
香田「いや、別にそこまで言ってないだろ」
勝巳「2人とも、聞いてくれ。これは何もこの学校だけのことじゃないんだ。全国の高校が同じように苦しんでるかもしれない。だから、俺達はその全国の高校生の先陣を切るんだ」
香田「うん、わかってる」
高梨「頑張ろうね」
勝巳「俺達が声をあげることで、全国の高校の校則が見直されるかもしれない。どんな結果になろうとしても、やる価値はあると思う」
香田「……どうせだから、成功させようぜ」
高梨「坂本くんならできるよ」
勝巳「よし! 今より、聖将学園生徒会は、学園に対して、ボイコットを開始する!」
場面転換。
ドンドンドンとドアがノックされる音。
真崎「おい、坂本、開けろ! 真崎だ!」
勝巳「……真崎先生」
真崎「今ならまだ大事にならずに済む。すぐにドアを開けて出てくるんだ」
勝巳「……やっぱり、止めるんですね。先生は味方だと思ってたのに」
真崎「俺はいつでもお前らの味方だ!」
勝巳「なら、どうして止めるんですか!?」
真崎「お前らの言い分もわかる。確かに、うちは校則が厳しいし、正直、意味のないものも多い。だからって、お前らが声をあげる必要はないだろ」
勝巳「そうやって、今まで生徒が黙っていたから、改善されないんです。誰かが声をあげないとダメなんですよ」
真崎「だから、それをお前らがやる必要はないって言ってるんだ」
勝巳「俺は、そうやって逃げるような大人になりたくありません。例え、今回のことが、意味がなかったとしても、自分が正しいと思ったことを貫きたいんです」
真崎「大人になれ、坂本。そんな正しさを貫いて、どうなる? リスクとメリットを考えろ!」
勝巳「だから、そんな打算的な大人になりたくないと言ってるんです」
真崎「……坂本。お前、医者になりたいんだろ?」
勝巳「……それがなんですか? 関係ないですよね?」
真崎「大ありだ。……下手をすると医者の道を諦めないとならなくなる」
勝巳「……わかりました」
真崎「よし、じゃあ、すぐにここを開けて……」
勝巳「医者の道は諦めます」
真崎「坂本! ……どうしてだ? 高校生活なんて、あと、たった2年だ。どうして、その2年が待てない? 卒業すれば、校則に縛られることなんてないだろ」
勝巳「俺達の高校生活は……青春は一度だけです」
真崎「俺は今まで、できる限りのことは目をつぶってきた。他の先生への根回しもしてきた。……それじゃダメなのか?」
勝巳「先生。俺は変えたいんです。こんな理不尽な校則が、今でも意味なく守られているという現実に。そして、同じように苦しんでる人のために、声をあげたいんです」
真崎「坂本、聞いてくれ。お前は単に、革命っぽいことに酔ってるだけだ。もし、今回のことで校則が変わるかもしれない。だが、それでお前らに感謝したとしても、一瞬だ。すぐにお前らのことなんて忘れられる」
勝巳「だから、俺達は感謝されるためにやってるわけじゃないんです!」
真崎「自己満足なら、尚更だ。止めるんだ」
勝巳「……もう、後には退けません。いや、退くつもりはありません」
真崎「……わかった。そこまでの決意なら、俺はもう何も言わない。だが、これだけは覚えておいてくれ。俺はいつまでも、お前らの味方だからな」
勝巳「……真崎先生」
勝巳(N)「この後、俺達は生徒会室に1ヶ月近く立てこもった。このことは世間でも大騒ぎになり、マスコミも大いに盛り上げた。……そのおかげか、学校の校則について見直しする風潮が生まれた。……そして、少しだけ校則の制限が緩くなる。このとき、俺はかなりの満足感を得たのだった」
場面転換。
10年後。
職員室。
響子「……先生? 坂本先生?」
勝巳「ああ、すみません。ちょっとあのころを思い出しちゃって」
響子「……凄かったですよね。私は坂本先生たちのこと、格好いいと思いましたよ」
勝巳「はははは」
響子「そのノートはあの頃の物ってことは、やっぱり、あの時の気持ちを忘れないようにってことですか?」
勝巳「ええ。これだけは絶対に忘れてはいけないんです」
響子「……?」
そのとき、ガラガラと職員室のドアが開き、女生徒が入って来る。
女生徒「先生! 大変! 清川くんたちが、教室に閉じこもっちゃった!」
響子「ええ!?」
勝巳「すぐ行く」
場面転換。
ドアをノックする勝巳。
勝巳「……清川、開けてくれ。坂本だ」
清川「先生、止めないでくれ!」
勝巳「とにかく、話そう」
清川「嫌だ! 俺はみんなのためにやってるんだ!」
勝巳「聞いてくれ、清川。お前はみんなのためだって言っているが、みんなはそんなことは思ってない」
清川「え?」
勝巳「校則が変われば、一瞬はお前に感謝するかもしれない。けど、お前のことなんて、すぐに忘れる」
清川「……みんなのためってだけじゃない」
勝巳「わかってる。お前の青春は1度きりだもんな」
清川「……先生」
勝巳「確かに、青春は大事だ。だけどな。その青春のせいで、お前の人生そのものが狂うことだってある。青春のために、人生を狂わせないでくれ」
清川「……」
勝巳「話そう、清川」
ガラガラとドアが開く。
清川「……先生」
勝巳「清川……」
勝巳(N)「俺はあのときの出来事で、全国の校則を変えたと言っても過言じゃないかもしれない。でも、そのための代償も大きかった。あんな問題を起こした俺は、長年の夢だった医者への道も閉ざされ、どこに行っても、白い目で見られる。あの、約1ヵ月のせいで、俺の人生は狂った。あの頃は……学生の頃は、自分のしたことに対しての責任の大きさをわかっていなかった。だから、俺は、俺と同じような生徒を作らないため、教師の道へと進んだのだ」
終わり。