鍵谷シナリオブログ

不思議な館のアリス 天才

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……え? どこか、寂しそうに見える、ですか?」

アリス「ふふっ。表に出さないようにしていたのですがね。あなたにはバレてしまいましたか」

アリス「ですが、気付かれたのはあなただけですよ。なんだか、少し嬉しいです」

アリス「とはいえ、別段、大した話ではありません」

アリス「妹が所用で、少しの間、家を出ていましてね。ふと、気が抜けたときに、少し寂しさを感じてしまうというわけです」

アリス「……ええ。確かに、ここには多くのお客様がいらっしゃいます」

アリス「ですが、やはり、それとこれとは違いますね」

アリス「仕事上で多くの人と関わっているからと言って、その人の人間関係が充実しているとは言えませんから」

アリス「気を抜いてお話ができるのは、妹とあなたくらいです」

アリス「……おっと、いけませんね。あなたはお客様でした。気を抜いて話すなんて言ってしまい、申し訳ありません」

アリス「……ふふ。ありがとうございます。そう言っていただけるからこそ、あなたとの関係も深くなったのだと思います」

アリス「妹の分も含めて、改めてお礼を言わせてください」

アリス「……そうそう。いくら、気を抜いてお話しできる間柄とは言え、あなたはお客様です」

アリス「今日のお話を始めましょうか」

アリス「……そうですね。では、せっかくですので、寂しさにまつわるお話を」

アリス「その男は、子供の頃からとても頭がよく、その才能を遺憾なく発揮していました」

アリス「人の数倍の早さで物事を理解してく様を見て、周りは神童ともてはやしました」

アリス「子供というのは何より、褒められたいという感情が強いものです」

アリス「周りに褒められるのが嬉しくて、さらに勉学に励みました」

アリス「青年になり、男は植物の研究に没頭するようになります」

アリス「植物の成分の研究は、様々な分野に応用ができ、新しい発見をするたびに、男は天才だと、周りから賞賛されました」

アリス「男にとって、それが一番の幸せであり、自分の承認欲求を満たしていました」

アリス「そして、その男は常人では辿り着けないようなところまで、自己を高めていきました」

アリス「人々が、その男の研究結果を見ても、理解できなくなるほどです」

アリス「そんなとき、男はふと、気付きます」

アリス「自分の周りには誰もいないことに」

アリス「今までは、自分が何かを発表するたびに、もてはやされ、褒め称え、感謝されていたのが、今では全くなくなってしまっていたのです」

アリス「人は理解できないものを見せられても、そこには不快と恐怖が生まれてしまうものです」

アリス「逆に男のことを避ける人の方が多くなってしまいました」

アリス「男は自分が孤独なのだと理解したのです」

アリス「ですが、そんなとき、男はある青年に出会います」

アリス「その青年は男のように才能に満ち溢れていました」

アリス「自分の話にも理解を示し、褒め称える存在を得ることができ、男は喜びました」

アリス「青年に、自分の知識の全てを教え込み、自分を超える存在として育てあげました」

アリス「男は孤独から解放され、寂しさを感じることもなくなったのです」

アリス「ですが、それから5年が経った頃でした」

アリス「男は、段々と青年の言うことが理解できなくなっていきます」

アリス「つまり、青年は男と並び立つだけではなく、抜き去っていったのです」

アリス「男はそのことに、不快と恐怖を感じました」

アリス「今まで、自分が積み重ねてきたものが崩れていくような感覚さえ、したとのことです」

アリス「そして、男は青年の元から去ることを決めました。……そのまま、青年と一緒にいることに耐えられなくなったのです」

アリス「その際に、青年は言いました」

アリス「先生なら、ずっと、自分の傍にいてくれると信じていたのに、と」

アリス「それに対して、男は、天才は孤独なものだと言い、去って行きました」

アリス「そして、男は再び、孤独になってしまいます」

アリス「男は後悔したそうです。青年に全てを教えたことを」

アリス「いかがだったでしょうか?」

アリス「天才というのは得てして、理解されないものです」

アリス「……まさしく、私のような凡人には理解できないですね」

アリス「もし、天才であることが孤独ということであるなら、私は天才でなくてよかったと思います」

アリス「こうして、あなたと分かり合えたのですから」

アリス「ふふ。それでは、今日のお話はこれで終わりです」

アリス「またのお越しをお待ちしております」

終わり。

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