■概要
人数：1人
時間：10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠（ありす）
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」
亜梨珠「……ええ。ついさっき、用事から帰ってきたのよ」
亜梨珠「今度は代わりにお兄様が出かけたわ」
亜梨珠「……え？ ふふふ。あら、そう。お兄様が、ね」
亜梨珠「寂しいだなんて、私にも言ったこと何のに。あなたは随分と、お兄様に気を許されているみたい」
亜梨珠「それって、信用されている、と言い換えても良いのかもしれないわね」
亜梨珠「お兄様も、もう少し、私を信用してもいいと思うのだけれど」
亜梨珠「……あら、そうかしら？ あなたからはそう見えているかもしれないけれど、実は色々と制限がかけられているのよ」
亜梨珠「制限というより、厳格なルールがある、と言った方がいいのかもしれないけれど」
亜梨珠「……そんなことないわ。相手を信用しているというようなら、ルールは必要ないわ。……そう思わない？」
亜梨珠「つまり、ルールがあるということは、相手を制限しているということになるわ」
亜梨珠「……けれど、全くルールがないというのも、返って混沌を招くこともあるから、今のままでいいのかもしれないわね」
亜梨珠「あなたは、今の世の中に対して、息苦しく感じていたりするのかしら？」
亜梨珠「ふふ。特に気にしたことがないなんて、あなたらしいわね」
亜梨珠「では、今日はそんな自由とルールにまつわるお話をしましょうか」
亜梨珠「その男は世の中に不満を持っていたの」
亜梨珠「どこに行くにも、何をするにも、ただ来ているだけでも、規制されることにうんざりしていたようね」
亜梨珠「と言っても、私から見たらそうでもないと思うのだけれど」
亜梨珠「この世界と大体同じと思ってくれていいわ」
亜梨珠「とにかく、その男は何より自由を望んだの」
亜梨珠「何事にも縛られない自由な世界を」
亜梨珠「そんな男は、仮想世界にハマり込んだわ」
亜梨珠「この世界でいうと、オンラインの世界、といえばいいのかしら」
亜梨珠「とにかく、男は一日のほとんどの時間を仮想世界で過ごしたの」
亜梨珠「だけれど、現実の世界とは比べ物にならないほど自由な仮想世界なのだけど、それでもやっぱり、ある程度の制限があるわ」
亜梨珠「男にとって、その些細な制限でさえ、気にくわなかったみたい」
亜梨珠「そこで男は自分で新たに仮想世界を作り出したの」
亜梨珠「そこは何も制限がかかっていなくて、自由に過ごせる世界」
亜梨珠「男にとって、まさに理想の世界だったわ」
亜梨珠「そして、男は決意したの。その世界に永遠に移住しようと」
亜梨珠「男はその世界に精神を移したの。これで誰にも邪魔されずに自由に過ごせるって」
亜梨珠「もちろん、不便なことも数多くあったみたいね。それでも、男は制限をかけられるより、マシだと思ったわ」
亜梨珠「しばらくして、その男の考えに同調した人たちが、その仮想世界に移って来始めたの」
亜梨珠「人が多くなるにしたがって、仮想世界は発展していったわ」
亜梨珠「だけれど、その分、不都合も出て来たわ」
亜梨珠「ちょっとした事故や事件ね」
亜梨珠「仮想世界の人たちは、最低限のルールだけは作ろうと言ったのだけれど、男は断固として拒否したわ」
亜梨珠「賛同できないなら、出ていけってね」
亜梨珠「その後はどうなったか……。お察しの通り、混沌とした世界になったわ」
亜梨珠「何かあれば人から奪う、気に食わなければ破壊する、そんなことが当たり前の世界になっていったの」
亜梨珠「そんな状況でも、男は何もしなかったわ。絶対に制限を付けようとはしなかった」
亜梨珠「そんなある時、男はある組織に狙われたの」
亜梨珠「この世界の創造主から、全てを奪うために男を襲ったのよ」
亜梨珠「もちろん、誰も助けてくれるはずもなかったわ。なぜなら、それが男の望んだ世界だったのだから」
亜梨珠「男は自分で何とかするしかなかったわ」
亜梨珠「だから、強固な要塞を作り、そこに閉じこもったの」
亜梨珠「そこなら誰も男に手を出せないわ」
亜梨珠「そして、男は、再び制限のない世界を堪能し始めたの」
亜梨珠「強固な要塞という箱の中で」
亜梨珠「……どうかしら？」
亜梨珠「私から見たら、男の方がよっぽど、制限がかけられた生活に見えるのだけれど」
亜梨珠「あなたはどう思ったかしら？」
亜梨珠「ふふ。そうね。人の考え方はそれぞれだわ」
亜梨珠「本人が良いというのなら、良いのかもしれないわね」
亜梨珠「ただ、私が言いたかったのは、ある程度の制限があるからこそ、ある程度の自由が担保されるってことよ」
亜梨珠「その制限された中で、人生を楽しむ。これも自由と呼べるのではないかしら」
亜梨珠「ふふっ。今日はこれで、お話は終わりよ」
亜梨珠「また来てね。さよなら」
終わり。