来世でも

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■概要
人数:2人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
浩三(こうぞう)
静江(しずえ)

■台本

家の中。

浩三「静江。そろそろ、テレビを付けてくれないか」

静江がやってくる。

静江「ああ。そういえば、今日は竜王戦でしたね」

浩三「期待の新人と、ベテランとの勝負だ」

静江「世間では、結構、注目みたいね」

浩三「……10代でタイトルに挑戦だもんな」

静江「あなたは23歳で、騒がれていたものね」

浩三「時代は変わっていくものさ。良くも悪くも、な」

静江「あなたはどっちに勝ってほしい?」

浩三「んー。なかなか、難しい質問だな。心情的には、渡邊に勝ってほしいな」

静江「あなたから、タイトル奪取した人ですもんね」

浩三「だが、業界のことを考えれば、新人が勝った方がいいんだろうな」

静江「あら。もう引退したのに、業界のこと、気にしてるの?」

浩三「そりゃそうさ。……俺の人生は将棋そのものだったからな」

静江「……そうね」

浩三「最初は、父親に勝って褒められたことが嬉しかったんだ」

静江「ふふ。わかるわ。始めるきっかけなんてそんなものよ」

浩三「それからは、ただ、将棋を指すことが楽しかった。勝ち負けなんて関係なくな」

静江「……」

浩三「だが、プロを目指すようになってからは、勝つことしか考えなくなった」

静江「……」

浩三「ひたすら、頂上を目指して、将棋という山を登り続けた」

静江「苦しかった?」

浩三「当然だ。登れば登るほど、頂上が見えなくなる。そんな世界だ」

静江「……それでも、あなたは登るのを辞めなかった」

浩三「はは。もう、意地だったんだろうな。……いや、怖かったんだ。登るのを辞めてしまったら、今までのことが、意味がなくなってしまう、と」

静江「……」

浩三「登っている最中は、なんのために上っているのかさえ、わからなくなった。それでもただ、登り続けた」

静江「大変だったわね」

浩三「……俺は幸せだったんだと思う。タイトルという頂上に辿り着けたんだからな。中には必死に登っても、辿り着けなかった人たちもいる。……いや、辿り着けなかった人たちの方が多いだろう」

静江「……もし、生まれ変わったら、将棋はやりたくない?」

浩三「……そうだなぁ。今度は、もう少し、お前と一緒にいる人生を送りたいな」

静江「あらあら」

浩三「お前には迷惑をかけっぱなしだ。結婚してからも、俺は将棋にかかりっきりで、お前に時間を裂けなかった。だから、今度はお前と色々な所へ旅行とか行きたいな」

静江「でも、もし、生まれ変わったら、私はあなたとは結婚しないでしょうね」

浩三「そうか……。そうだよな。お前がそう思うのも仕方がない。それくらい、俺はお前を蔑ろにした」

静江「将棋をやっていないあなたなんて、魅力がないもの」

浩三「……そっちか?」

静江「そっちよ」

浩三「……また、迷惑かけるぞ?」

静江「何度でも」

浩三「ふっ、ははははは。お前と結婚するために、来世でも、将棋を頑張らないとな」

静江「ええ。……あ、いけない。もう、始まってるかしらね、竜王戦」

浩三「いや、テレビはもういい」

静江「あら、どうして?」

浩三「それより、一局、指そう」

静江「いいわね」

浩三「今日こそ、勝つぞ」

静江「いえ、今日も私が勝って、千勝よ」

浩三「言ったな!」

静江「ふふっ」

浩三「絶対に、オセロでお前に勝って見せるぞ!」

終わり。

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