■概要
人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「ええ。私も所用で出ていましたが、今日、帰ってきました」
アリス「まあ、プライベートな旅行を兼ねていたのですがね」
アリス「……ええ。とても充実した時間を過ごせましたよ。今度は妹とあなたとの3人で行きたいですね」
アリス「……ふふ、冗談です。私達とあなたはあくまで、ビジネス上の関係ですからね。あまり、深く関わり合うのはいけません」
アリス「……そんな悲しい顔をしないでください。一緒に旅行に行きたいと思うくらい、気心がしれている、ということで、この場はご容赦ください」
アリス「そう言えば、あなたは地図を見るのは得意ですか?」
アリス「……いえ、今回、旅先で少し迷ってしまったことがありましてね」
アリス「妹はそういうことが得意なのですが、私はどうも地図が読めないと言いますか……」
アリス「……そうなんですか。今はそんな便利な物が。今度、妹に頼んで、入れてもらうとします」
アリス「とはいえ、未知の場所を歩くというのも、そう悪くはありませんよ」
アリス「何があるのかわからないところに、ドキドキ感やワクワク感がある……そう思いませんか?」
アリス「……ふふ。どうやら、あなたは妹寄りの考えの持ち主みたいですね」
アリス「妹も、早く目的地について、そこで遊ぶ方が余程有意義だと言うのですよ」
アリス「……考えてみると、地図というのは、誰かが、未知の場所を進むことによって作られたものですよね?」
アリス「つまりは、誰かが見つけてくれたからこそ、地図は存在するというわけです」
アリス「そうですね。では、今日は、そんな地図にまつわる人物についてのお話をしましょう」
アリス「これはある世界の、冒険王と呼ばれた男の話です」
アリス「その世界は、とても不可思議で……この世界でいうとファンタジーの世界というのが想像しやすいでしょうか」
アリス「様々な危険な生物、魔物と呼ばれる凶暴な存在……」
アリス「人間が生きるのは大変厳しいと言わざるを得ない世界です」
アリス「そんな中、その男は世界中を旅しました」
アリス「実際、何度も命を落としそうになりながらも、決して旅をやめることなく、進んだそうです」
アリス「どんな国でも、及び腰になってしまうような、秘境でさえも、喜んで入っていきました」
アリス「この男のおかげで、まるで想像がついていなかった、世界の形が、地図という形で皆が知ることになったのです」
アリス「男が作った地図のおかげで、交易が発展し、人々の旅も随分と安全になったそうです」
アリス「ですが、男はそれで満足することなく、地図の上でまだ空白の場所へと赴き、地図を埋めていきました」
アリス「そして、男はついに、地図を全て埋め尽くしたのです」
アリス「人々は男を称え、冒険王と呼ぶようになりました」
アリス「ですが、人々の歓喜とは裏腹に、男は家に閉じこもってしまったのです」
アリス「男は、こう残しています」
アリス「私は地図を作ることが目的ではなく、未開の地に足を踏み入れるのが楽しかった、のだと」
アリス「全ての場所に足を踏み入れてしまった男の目には、その世界は、もう遊びつくされた玩具のように映ったのかもしれません」
アリス「世界中を旅した男は、お世辞にも、若いとは言えませんでした。……初老と言ってもいいくらいの年齢です」
アリス「男の周りは、今まで十分危険なことをしてきたこともあり、そのまま引退してくれた方が安心だと思っていました」
アリス「そんなある日、男はあることを思いつきました」
アリス「そして、男は部屋である研究を始めました」
アリス「その研究には長い年月がかかり、完成に至るまで、実に20年が必要だったそうです」
アリス「男の年齢を考えると、いつ寿命が来てもおかしくありません」
アリス「ですが、男は研究で作り上げた乗り物に乗って、旅立ちました」
アリス「……どこに旅立ったかというと、それは空です」
アリス「この世界に未踏の地がないのなら、違う世界に行けばいい。それが、男が残した最後の言葉だったそうです」
アリス「男がその後、どうなったかは、誰も知りません」
アリス「もしかすると、今も未踏の地を進んでいるかもしれませんね」
アリス「いかがだったでしょうか」
アリス「私たちが、今、当然のように使っている地図も、その男のような好奇心が溢れた人によって、作られたのかもしれません」
アリス「あなたも、たまには地図のない旅をしてみても、面白いかもしれませんよ」
アリス「それでは、今日のお話はこれで終わりです」
アリス「またのお越しをお待ちしております」
終わり。