■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ライリー
ティーナ
アロルド
■台本
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごしている」
ライリーの家のリビング。
紅茶を飲んでいるライリー。
ライリー「ふう。こうやってゆっくりとお茶を飲むのは久しぶりな気がする。……ったく、引退したというのに、最近は忙しかったからな。今日はのんびりと羽を伸ばすとしよう」
そのとき、インターフォンが鳴る。
ライリー「……嫌な予感がするな」
何度もインターフォンの音が鳴り続ける。
ライリー「まったく。せっかちな人だ」
ライリーが立ち上がり、ドアを開く。
ティーナ「先生! どういうことですか!?」
ライリー「うっ! ティーナ君……」
ティーナ「探偵に復帰するなら、なんで、助手の私に連絡をくれないんですか!?」
ライリー「いや、復帰したわけじゃないさ」
ティーナ「事件を解決したって聞きましたが?」
ライリー「たまたまだよ、たまたま。その場に居合わせただけだ」
ティーナ「……」
ライリー「それに、君はもう助手じゃない。君はもう立派な探偵として独り立ちしたはずだろう?」
ティーナ「それは、先生が引退するというから無理やり、自分を納得させただけです。先生が復帰するなら……」
ライリー「だから、復帰したわけじゃない」
ティーナ「……」
ライリー「……」
そのとき、電話に着信が入る。
ライリー「すまんな。ちょっと電話に出させてもらうよ」
ティーナ「どうぞ」
ライリーが電話の受話器を取る。
ライリー「もしもし……。いや、私は……。いや、わかった。すぐに行くよ」
ライリーが電話を切る。
ライリー「すまないな、ティーナ君。ちょっと、私用で出かけることになった」
ティーナ「お供させていただきます!」
ライリー「……その必要はないさ。ちょっと、世間話に呼ばれただけだ」
ティーナ「殺人現場で、世間話ですか?」
ライリー「……はっ!? まさか、盗聴器を?」
ティーナ「いえ、これですよ、これ」
ティーナが横髪を掻き上げると、耳に補聴器が付いている。
ライリー「それは……補聴器、か?」
ティーナ「先生の補聴器、調子悪いんですよね? 最新の物を用意してきました。かなりの広範囲の音を拾うことができます。しかも、今回のは自動的に録音もされるんですよ」
ライリー「……ありがとう。探偵を辞めた私には録音機能は、必要はないが補聴器が調子が悪いからな。ありがたく受け取らせてもらうよ」
ティーナ「……」
ライリーが手を出すと、ティーナは耳の補聴器を外して渡そうとする。
だが、その手をピタリと止める。
ライリー「どうしたんだ、ティーナ君」
ティーナ「いくら先生でも、タダでお渡しするわけにはいきません」
ライリー「……はあ。わかったよ。着いてきなさい」
ティーナ「ありがとうございます! 助手として頑張らせていただきます!」
ライリー「……やれやれ」
場面転換。
洋館の談話室。
洋館の中には数人の警察官が配備されている。
ライリー「ふう。警部からの事件概要と、関係者からの証言を聞くだけでも、疲れたな」
ティーナ「……今回の事件、どう思いますか?」
ライリー「解かないとならない謎は3つだな。殺害方法、凶器、そして、アリバイ」
ティーナ「アリバイ……ですか? 第一、第二の犯行の際、アリバイがない人間が数人いますよ?」
ライリー「……第一と第二の犯行が行われた場所と、それぞれがいた場所を、もう一度照らし合わせてみるんだ」
ティーナ「犯行現場と人がいた場所……あっ!」
ライリー「気付いたか?」
ティーナ「誰も、犯行現場に行くことができない……」
ライリー「その通りだ」
ティーナ「ですが、実際に犯行は行われた……。つまり」
ライリー「何かしらのトリックを使ったことは間違いない。だとしても、アリバイがネックになる」
ティーナ「先生はもう解かれたんですか?」
ライリー「はっはっは。ティーナ君。君はいつも私を買いかぶり過ぎだ。全くだよ。見当すらついていない」
ティーナ「そうですか……。あの、今回の事件、私も考えさせてもらってもいいですか?」
ライリー「いいも悪いも、君は立派な探偵だと言っただろう? 今は君の方が実力は上だよ」
ティーナ「いえ、そんな……」
ライリー「私は少し、部屋で休ませてもらうよ。話を聞いただけで疲れ果ててしまった」
ティーナ「わかりました。手配してもらいますね」
場面転換。
部屋。
ライリー「ふう。本当に年は取りたくないものだ。……しかし、まあ、今回はティーナ君がいることだし、私は楽をさせてもらおうか」
ライリーがベッドに寝転がる。
ライリー「では、30分ほど寝かせて貰おう……」
そのとき、ひそひそとした話し声が聞こえる。
ライリー「ん? これは……」
場面転換。
キッチン。
アロルドがコーヒーに粉薬を入れている。
アロルド「ふふふ。これでよし……」
バンとドアが開く。
するとライリーとティーナ、数人の警察がキッチンに入って来る。
ライリー「そこまでだ、アロルド君」
アロルド「……え? ど、どうして?」
ライリー「いや、まさか警察がいる、この状況でさらに犯行を重ねるとは思わなかったな」
ティーナ「警察がいる状況で狙われるわけがないという、心理を逆手に取った実に巧妙な手口です」
アロルド「ちょ、ちょっと待ってください! これは誤解……」
ライリー「はははは。いやいや、現行犯なんだが。そのコーヒーの成分を調べればいい」
アロルド「いや、待ってくれ! なんでだ!? なんで、バレたんだ!?」
ライリー「これだよ」
アロルド「……補聴器?」
ライリー「この補聴器は優れものでね、壁越しでも、人のつぶやきをキャッチすることができるんだよ」
アロルド「つぶやき……?」
ライリー「これを聞き給え」
ライリーが補聴器の録音機能を再生する。
アロルド「くくく。まさか、警察がいる中で犯行が行われるなんて誰も思わないだろうな。コーヒーにこれを入れれば、確実に殺せる」
再生を停止させる。
ライリー「アロルド君、君の声だ」
アロルド「いや、待ってくれ! 確かに、今回の事件の犯人は俺だ! だけど、トリックを解いてくれ! このトリックに5年以上かけたんだ!」
ライリー「犯人がわかっているのに、トリックを解く必要はない。君を締め上げれば済む話だ」
アロルド「待ってくれ! 待ってくれ! 頼む! 俺のトリックを解いてくれー!」
場面転換。
ライリーの家。
ティーナ「事件解決、お見事でした、先生」
ライリー「いやいや。君が持ってきてくれた補聴器のおかげだよ」
ティーナ「また、事件があればご一緒させてください。今日は失礼します」
ティーナが出ていく。
ライリー「やれやれ。いつになったら私は探偵を引退できるんだ?」
ライリー(N)「……私の名前はライリー。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた名探偵だ」
終わり。