■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
高梨 由梨(たかなし ゆり)
高梨 和彦(たかなし かずひこ)
男子生徒1~2
女子生徒
■台本
和彦「どんなことがあっても、由梨は父さんが守ってやるからな」
由梨(N)「これがお父さんの口癖であり、言い分である。でも、本当のところは違う。私がお父さんの面倒を見ているのだ」
場面転換。
キッチンで料理をしている由梨。
由梨「ふふふふーん♪」
ダダダっと和彦が走って来る。
和彦「あー! 朝ごはんは父さんが作るって言ってるのにっ!」
由梨「……何言ってるのよ。昨日は仕事で寝るの遅かったんでしょ? ギリギリまで寝てていいのに」
和彦「で、でも……」
由梨「よし、出来た。じゃあ、お父さんは顔洗ってきて。冷めないうちに食べましょ」
和彦「うう……。わかった」
和彦が洗面所に歩いて行く。
場面転換。
朝ごはんを食べ終わる和彦。
和彦「ふう。やっぱり、由梨のご飯は美味しいなぁ。食べ過ぎてしまう。由梨は料理の天才かもな」
由梨「何言ってるのよ。私はネットのレシピ通り作ってるだけなんだから」
和彦「いやいや。小学生でここまで作れるなんて、そうそういないぞ」
由梨「はいはい。褒めたって、何も出てこないわよ。それより、はい、コーヒー。そろそろ支度しないと遅刻するわよ」
和彦「お、ありがとう」
コーヒーをすする和彦。
和彦「くぅー! うまい! 由梨は一流のバリスタになれるかもな」
由梨「……インスタントコーヒーなんだけど」
和彦「おっと、いけない。そろそろ出ないと!」
和彦がコーヒーを飲み干して、部屋へと走っていく。
由梨「ワイシャツはクリーニングから戻って来てるから、棚から取ってね」
和彦「わかった!」
場面転換。
バタバタと部屋から出ていく和彦。
和彦「ヤバいヤバい、ゆっくりしすぎた。行ってきます!」
由梨「あ、お父さん、お弁当!」
和彦「ありがとう! 行ってきます」
由梨「気を付けてよ」
バタンとドアが閉まる。
由梨「……さてと。まだ学校に行くのに余裕があるから、掃除でもしようかな」
歩いて、父親の部屋のドアを開ける。
由梨「……ったく! また服を脱ぎっぱなしにして! 洗濯機に入れてって言ってるのに……って、ん?」
由梨が書類を拾い上げる。
由梨「……これって、昨日、お父さんが深夜まで作ってた書類だ……」
怒りでプルプルと体を震わせる。
由梨「あー! もう! だから、アナログで作るなって言ってるのに!」
パソコンを起動させる由梨。
由梨「えーっと、パソコンのパスワードは私の誕生日……っと。よし、ログインできた」
マウスやキーボードを叩いて、パソコンを操作する由梨。
由梨「えっと、まずは書類をスキャンして……お父さんの仕事で使ってるメールに添付っと」
パソコンを操作する由梨。
由梨「これでよし。あとは携帯のメールで、『書類をデーターでメールに添付したからね』と送って、と」
汗を拭う由梨。
由梨「もう、ホント、お父さんは世話が焼けるんだから。なんで、お母さんはお父さんと結婚したんだろう?」
由梨(N)「お母さんは私が5歳の頃、事故で死んでしまった。それ以来、お父さんと二人で暮らしている。お父さんがあんなんだから、私がしっかりしないと。そう思っていたら、家のことは大体できるようになっていた」
場面転換。
学校のチャイムの音。
校門から出てくる由梨。
男子生徒1「よお、高梨。これからみんなで遊ぶんだけど、お前も来ないか?」
由梨「んー。パス。買い物行って、晩御飯作って、洗濯しないといけないし」
女子生徒「ええー! 由梨ちゃん、そんなことしてるの? すごーい!」
由梨「別にすごくないよ」
男子生徒2「なーなー! たまには遊ぼうぜ!」
男子生徒1「そうだよ。お前、いっつも断るじゃん」
女子生徒「私もたまには由梨ちゃんと遊びたいなぁ」
由梨「……」
由梨(N)「うーん。面倒くさいけど、友達がいないってなったら、お父さんが心配するだろうし。仕方ない。世間の目もあるし、遊んでやるか」
由梨「わかった。あんまり遅くまでは無理だけど、遊ぼっか」
男子生徒1「いえーい!」
女子生徒「やったー!」
場面転換。
広場。
由梨「で? 何して遊ぶ?」
男子生徒1「かくれんぼしようぜ」
女子生徒「さんせー!」
男子生徒2「よっしゃー! 負けないぞ!」
由梨(N)「うわー。ガキ臭い。……けど、まあ、鬼ごっことか言われるよりマシかな。ずっと隠れてればいいだけだし」
男子生徒1「じゃあ、俺が鬼な。30数えるから、みんな隠れろよ。いーち、にーい……」
ワーッと、2人が走り出していく。
由梨「さてと。私はどこに隠れようかな」
トコトコと歩く由梨がピタリと立ち止まる。
由梨「あ、冷蔵庫が捨ててある……」
ガチャリとドアを開けて、冷蔵庫の中に入る由梨。
由梨「ふふ。ここなら、絶対にバレないわ。ここで時間つぶそっと」
場面転換。
3人の足音が聞こえてくる。
男子生徒1「高梨、いないなー」
女子生徒「帰っちゃったのかなー?」
男子生徒2「そうかもね。僕たちも帰ろうよ」
男子生徒1「そうだな」
由梨(N)「じゃあ、そろそろ出ていくタイミングよね」
グイグイとドアを押すが開かない。
由梨「え? ドアが開かない! んー! んー!」
必死にドアを押す由梨。
ドンドンドンとドアを叩く。
由梨「私はここよ! 開けて!」
しかし、何の反応もない。
由梨「開けて! お願い! 開けてー!」
場面転換。
由梨(N)「あれからどのくらい時間が経ったんだろう……?」
由梨「お父さん、心配してるかな?」
ジワリと涙が浮かんでくる由梨。
由梨「うう……。お父さん! 助けて、お父さん!」
由梨が叫ぶと、ドアがガチャリと開く。
和彦「由梨、見つけた」
由梨「……お父さん?」
和彦「言っただろ。どんなことがあっても、由梨は父さんが守ってやるって」
ガバッと和彦に抱き着く由梨。
由梨「お父さん! お父さん! うわーん!」
由梨(N)「後で聞いたところによると、私のスマホのGPSから辿ったらしい。まあ、ピンポイントで見つけられるわけ無いしね」
場面転換。
和彦「どんなことがあっても、由梨は父さんが守ってやるからな」
由梨(N)「これがお父さんの口癖であり、言い分である。でも、本当のところは半分違う。私がお父さんの面倒を見ているのだ」
終わり。