天下無双の剣士

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、コメディ

■キャスト
雪之丞(ゆきのじょう)
おりん
剛三(ごうぞう)
剣士
民衆1~2

■台本

雪の降りしきる平原。
ザンと人を斬る音。

剣士1「む、無念……」

ドサッと倒れる剣士。

雪之丞「ごほっ! ごほっ! 紙一重の良い勝負であった」

刀を鞘に納めて、ゆっくりと歩く雪之丞。

場面転換。
町中。
雪之丞が歩いていると、おりんが声をかけて来る。

おりん「雪之丞様!」
雪之丞「おお、おりんか」
おりん「雪之丞様、また果し合いに勝ったんですね」
雪之丞「ああ、心配かけたな」
おりん「さすが、雪之丞様です! これで10連勝ですね」

すると周りから歓声が上がる。

民衆1「すごいな、雪之丞さんは」
民衆2「まさに大剣豪じゃないか」
雪之丞「いやいや、紙一重です。本当に今回の勝負は、どちらが勝ってもおかしくありませんでしたよ」
民衆1「いやあ、雪之丞さんは強い上に謙虚ときたもんだ。その辺の流浪人とは違うよ」
民衆2「そうそう。後世に名を遺す大剣豪はそうでなくっちゃ」
雪之丞「やめてください。大剣豪なんて……うっ! ごほっ! ごほっ!」

雪之丞が吐いた血が、ビシャっと地面に落ちる。

おりん「雪之丞様!」
民衆1「お、おい、雪之丞さん、大丈夫かい?」
雪之丞「ああ……。大丈夫です。ただ、今は帰って体を休めないと」
おりん「そうです。無理をしてはいけませんよ」
雪之丞「それでは失礼します」

雪之丞がゆっくりと歩き出す。

おりん「雪之丞様……」
民衆1「雪之丞さんは病に侵されているのが惜しいよな」
民衆2「ああ。病さえなければ、本当に天下無双として名を残せたかもしれないのに」
民衆1「……あれ? そういえば、雪之丞さんは、なんの病に侵されてるんだっけ?」
民衆2「え? ……さあ、知らないな」

場面転換。
雪之丞の家。
雪之丞がパキパキと体を鳴らす。

雪之丞「ふう。いや、今回はホントにギリギリだったな。けど、これでまた俺の名前が挙がったはずだ。ふふふ。天下無双と言われる日も、近いな」

そのとき、ガラガラと戸が開き、おりんが入って来る。

おりん「雪之丞様、体の調子はいかがですか?」
雪之丞「げっ!」

慌てて、布団の中に入る雪之丞。

雪之丞「ああ……おりんか。大丈夫……ごほっ! ごほっ! ごほっ!」
おりん「無理なさらないでください!」
雪之丞「……それで、今日はどうしたんだい?」
おりん「いつものトマトをお持ちしました」

トマトが詰まった袋を出すおりん。

雪之丞「おお、すまないな」
おりん「雪之丞様は本当にトマトが好きなんですね」
雪之丞「はは。まあな。私の血はトマトで出来ているくらいだ」
おりん「まあ、雪之丞様ったらお上手」
雪之丞「ははははは」
おりん「ただ、少し熟れ過ぎな気がします。もう少し早く収穫したものを持ってきましょうか?」
雪之丞「いや、これがいいんだ。血のような適度な粘り気は、これくらい熟れてた方がいいんだよ」
おりん「はあ……?」
雪之丞「それより、私のことは町で噂になっているか?」
おりん「はい。それはもう、雪之丞様の噂でもちきりです!」
雪之丞「そうかそうか」
おりん「ただ、その噂のせいか、また見慣れない剣士が町に来たようです」
雪之丞「……どんな奴だ?」
おりん「眉間に傷がある大柄な男です」
雪之丞「……ふむ」
おりん「雪之丞様、その方と戦われるのですか?」
雪之丞「挑戦してきたのなら、受けねばなるまいな」
おりん「雪之丞様! おりんは、雪之丞様のお体が心配です。どうかどうか、決闘なんてお止めください」
雪之丞「いいかい、おりん。私がここで降りてしまったら、私に斬られた剣士の命はどうなる? 私はその剣士たちの命を背負っているんだ。逃げることはできないんだよ」
おりん「雪之丞様……」

場面転換。
宿の庭で剣を振るう剛三。

剛三「ふっ! はっ! たあっ!」

それを陰から見ている雪之丞。

雪之丞「……今回は、かなりの手練れだな。戦いなれている……」
剛三「むっ! 誰かいるのか?」

サッと身を隠す雪之丞。

剛三「……気のせいか」
雪之丞「ふう、危ない危ない」

場面転換。
雪が降りしきる平原。

剛三「貴様が雪之丞だな」
雪之丞「いかにも」
剛三「では、尋常に……」
雪之丞「勝負!」

お互いが剣を抜き、構える。

剛三「……」
雪之丞「うっ! ごほっ! ごほっ!」

雪之丞が吐いた血が、ビシャっと地面に落ちる。

剛三「雪之丞殿……」
雪之丞「き、気になるな。これは真剣勝負なのだから」
剛三「無論、そのつもりだ!」
雪之丞「え?」
剛三「いやああーーーー!」

ビュンと刀を振るう剛三。

雪之丞「おわっ!」

転がるようにして刀を躱す雪之丞。

雪之丞「ちょ、ちょっと待った。今日はその、体調が悪くて……仕切り直しに……」
剛三「ふふふ。いやいや、何を言うか。これは真剣勝負。体調を崩したままこの場に来たお主が悪い」
雪之丞「くっ……」
剛三「それに、先ほどの動き……血を吐いた後とは思えぬほどのものでしたな」
雪之丞「……」
剛三「くくくく。やはりな。貴様はそうやって病のフリをして相手の油断を誘っていたのだ。つまり! 本当は、貴様は弱い!」
雪之丞「ちぃ……」
剛三「雪之丞! 貴様の名声は私がもらったー!」
雪之丞「くそ……」
剛三「うおおおおお!」

ザンと人が斬られる音。

雪之丞「……」
剛三「な、なんだと……ば、バカな……」

剛三が倒れる。

雪之丞「ふう」
剛三「話が違うぞ……。貴様、強いではないか」
雪之丞「誰も、弱いなんて言ってないだろ」
剛三「な、なら、なぜ、病のフリなど……」
雪之丞「相手の油断を突けるなら、それに越したことはないだろ」
剛三「む、無念……」

ガクッとこと切れる剛三。

場面転換。
町中。
雪之丞が歩いていると、おりんが声をかけて来る。

おりん「雪之丞様!」
雪之丞「おお、おりんか」
おりん「果し合い、勝ったんですね」
民衆1「いやあ、雪之丞さん、また勝ったんだってな」
民衆2「すごいすごい!」
雪之丞「はは。紙一重ですよ。……うっ! ごほっ! ごほっ!」

雪之丞が吐いた血が地面にビシャっと落ちる。

おりん「ああ、雪之丞様!」
雪之丞「平気だ。それより、あとで、またトマトを持ってきてくれ」
おりん「わかりました」

体を引きずるように歩いて行く雪之丞。

終わり。

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