■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「……おや? どうされました? 目が赤いようですが?」
アリス「……そうですか。最近は見なくなりましたが、野良の動物がいなくなるなんてことはないですからね」
アリス「当然、車に轢かれるなどの事故もなくなることはありません」
アリス「ですが、大抵の人はその場面を見たとしても見て見ぬフリをするか、可愛そうと思うだけでしょう。中には嫌なものを見たと思う人だっているはずです」
アリス「ですが、あなたは弔い、涙まで流したというのは、とても素敵なことだと思います」
アリス「え? 泣いてない……ですか? これは失礼いたしました。そういうことにしておきましょう」
アリス「ですが、改めて考えてみると、人という動物は、本当に特殊な生き物と言えますね」
アリス「他の動物の死を悲しむ反面、人同士で平気で殺し合う」
アリス「こんなことをするのは人間だけなのではないでしょうか」
アリス「それに、人間という生き物は、毎日大勢亡くなっています。人の死を知っても何も思わないのに、他の動物の死を自分の身のように悲しむことができるなんて、本当に変わっていると思いませんか?」
アリス「……いえ、申し訳ありません。あなたがそういう人ではないことは、知っています。あくまで、一般論での話ですよ」
アリス「私が言いたいのは、生き物の死について、重さが違うと考えるのは人間だけではないかということです」
アリス「……あなたは命の重さに違いがあると思いますか?」
アリス「大抵の人はあると答えるでしょうね。虫一匹と人間一人で重さが同じ、なんて考える人の方が少ないでしょうし、逆にそう考える人間の方が、周りからは怖がられてしまうでしょう」
アリス「……そうですね。では、今日は命の重さについてのお話をしましょうか」
アリス「これはある星に存在する、ある国のお話です」
アリス「その国は王が統治していて、絶対君主制でした」
アリス「王の権力が強く、人々は王の命令を黙って聞くしかありませんでした」
アリス「当然、王になる者によって、国は繁栄したり、逆に衰退したりしていました」
アリス「そんなあるとき、王の子供……つまりは跡取りが生まれました」
アリス「ですが、生まれた子はとても体が弱く、このままでは5年も、生きられるかどうかという状態だったらしいです」
アリス「そこで、王はある占い師に相談しました」
アリス「その赤子が生き残る方法がないかを尋ねたのです」
アリス「すると、占い師はこう言いました。『生き物を大切にしなさい』と」
アリス「占い師が言うには、その赤子は多くの命の業を背負っているらしく、命を疎かにすれば、その業により、赤子の命も儚く消えるとのことでした」
アリス「そこで王はある法律を制定します」
アリス「それは、生き物を大切にせよ、というものです」
アリス「……ふふ。この世界の日本にも同じようなことがありましたよね?」
アリス「確か、生類憐みの令……だったでしょうか」
アリス「それと同じような法律が制定されました。しかも、王が定めた生き物には虫さえも入っていたそうです」
アリス「王は虫のような小さな生き物さえも大切に扱えば、きっと赤子も助かると考えたようですね」
アリス「その法律が執行されてから、民衆の地獄が始まりました」
アリス「家畜を殺すことができないのはもちろんですが、仮に動物に襲われたとしても反撃することもできません」
アリス「田畑は野生の動物や虫に食い荒らされ、人々の食べるものがなくなり、町では虫やネズミの増殖により、疫病が流行りました」
アリス「それでも王は、決して法律を撤回することはありませんでした。すべては跡取りとなる赤子を助けるためです」
アリス「……え? その赤子はどうなったか、ですか?」
アリス「もちろん、死にました。3年もしないうちに」
アリス「……不思議そうな顔をしていますね。なぜ、そこまでしたのに、赤子が死んでしまったと思いますか?」
アリス「それは……人という生き物を大切にしなかったからです」
アリス「法律が執行されてから、実に国民の3分の1が亡くなったそうですよ」
アリス「疫病、餓死、獣害……などなど。死因は山のようにありましたからね」
アリス「虫さえも大事にするはずが、人間を蔑ろにしてしまったのです」
アリス「つまり、王は人間よりも虫の命の方が重いとしたわけです」
アリス「……その後、その国はどうなったか、ですか?」
アリス「今でもまだ、滅んでいないようですね」
アリス「もちろん、その悪法は、赤子が亡くなってからすぐに撤廃されたようです」
アリス「それと、その法律を決めた王も、その数年後に謎の死を遂げたそうですよ」
アリス「いかがでしたか?」
アリス「そもそも、生き物というのは、他の生き物の命の上に成り立っているものです」
アリス「命を大切に扱うことは大事ですが、すべての命を大切に扱うというのは無理というものです」
アリス「あなたも、大切にする命というものをしっかりと考えてみてくださいね」
アリス「今回のお話はこれで終わりです」
アリス「ふふ。それではまたのお越しをお待ちしております」
終わり。