一流の除霊師

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
名も無き悪霊
千晶(ちあき)
除霊師

■台本

名も無き悪霊(N)「私は悪霊。もう自分の名前さえも忘れてしまうくらい、長く悪霊をやっている。そして、私は今まで数えきれないくらいの人間を再起不能にしてきた。今、私のターゲットになっているのは、この女だ」

部屋の中。

テレビの音量が大きめに流れている。

そして、ドンと壁を殴るような音がする。

千晶「あっ! も、もうこんな時間……。テレビの音量を小さくしないと……」

千晶がテレビの音量を下げる。

名も無き悪霊「ふ……ふふふふ……」

千晶「いやああああ!」

布団にくるまって、ガタガタと震える千晶。

名も無き悪霊(N)「そう。こうやって、この部屋に住む女を恐怖に陥れている。ちなみに、さっきの壁ドンは私がやった。そもそも隣の部屋は空き室なのに、そんなことにも気づかないで、テレビの音量を下げたのだ。……まあ、隣が空き室と知った方がもっと怖いかもしれないけどね」

千晶「もういや! 出て行って―!」

名も無き悪霊「そんな寂しいこと……言わないで……」

千晶「きゃああああ!」

名も無き悪霊(N)「この女にとり憑いたのは、大学生活を謳歌しているのを見て、毎晩毎晩、深夜まで遊び惚けている姿にイラっとしたから。恨めしい。生きてる人間はみんな不幸になればいいんだ……」

千晶「あっ! そうだ、お寺から貰った、お札!」

千晶がカバンからお札を出す。

千晶「えいっ!」

名も無き悪霊「うふふふふふ……」

千晶「ええっ! 効かない!?」

名も無き悪霊「あははははは」

千晶「いやあああ!」

再び、布団の中にもぐる千晶。

名も無き悪霊(N)「今まで取り憑いてきた人間は、ほとんどが寺だの除霊師だのに駆け込む。だけど私は、そんじょそこらの悪霊じゃない。しょぼいお札やお経なんて効かないのだ」

名も無き悪霊「遊ぼ……遊ぼ……」

千晶「いや、いや、いやー!」

場面転換。

朝。スズメの鳴く声。

千晶「すーすー(寝息)」

名も無き悪霊(N)「一晩中、恐怖と緊張で疲れて、朝には眠りに落ちる。私もそれを見届けて、眠りにつくのだ。こんな生活をしているせいか、この女はしばらく大学に行っていない」

場面転換。

インターフォンの鳴る音。

千晶「……誰?」

千晶が歩いて、ドアを開ける。

除霊師「あなたが千晶さんですね?」

千晶「……なんですか、あなた」

除霊師「私は除霊師です。あなたのお友達に頼まれてやってきました」

千晶「……除霊師?」

名も無き悪霊(N)「ふふふふ。来た来た。また、除霊師。どうせ、高い金をふんだくって、何もできない無能な人間。私がビビらせて追い返してやる……」

除霊師「なるほど。これは厄介な悪霊ですね」

千晶「……あの、私、もうお金ないんで。あなたみたいな除霊師に騙されて」

除霊師「わかりました。では、成功報酬というかたちでどうでしょうか?」

名も無き悪霊(N)「ふふふふ、そんなこと言っていいの? お金、貰えなくなるけど?」

千晶「成功報酬……? それなら……」

除霊師「では、いきます! はあああああ! 悪霊退散!」

千晶「……」

名も無き悪霊(N)「なにそれ? 全然、効かない。この除霊師は本当にダメだ。今まで一番ダメかもしれない」

除霊師「……ふう。終わりました。一旦は霊を追い出しています」

千晶「……本当ですか?」

名も無き悪霊(N)「なんだかんだいって、嘘言ってお金を取る気のようだ」

除霊師「まあ、まだ実感はわかないでしょう。では、しばらく様子を見て悪霊が消えたと思ったら、成功ということで」

千晶「はあ……?」

除霊師「ああ、あと、夜にこれを飲んでください」

除霊師がポケットから袋を出して渡す。

千晶「……薬?」

除霊師「いえ、結界の種です。それを飲めば、霊が寄って来なくなります。なので、飲むのは夜の11時くらいにしてください」

千晶「わかりました……」

場面転換。

テレビの音量が大きめに流れている。

千晶「あ、もう11時だ。結界の種を飲まなくっちゃ」

名も無き悪霊(N)「ふふふふ。そんなのを飲んだって、ムダだ」

千晶「……なんだろ。眠くなってきちゃった」

千晶がテレビを消して、布団の中に入る。

千晶「……悪霊が消えたって言ってたけど……本当……かな……」

名も無き悪霊「うふふふふ」

千晶「……」

名も無き悪霊「あははははははは!」

千晶「……」

名も無き悪霊(N)「……反応がない。いつもなら、悲鳴を上げるはずなのに」

千晶「すーすー(寝息)」

名も無き悪霊(N)「寝てる? いいわ。起こしてあげる!」

名も無き悪霊「きゃああああああああ!」

千晶「すーすー」

名も無き悪霊「ああああああああああー!」

バンバンと壁を叩く音。

千晶「すーすー」

名も無き悪霊(N)「全然起きない。……こうなったら……」

場面転換。

朝。スズメの鳴く声。

名も無き悪霊(N)「うう……。もう朝。……限界」

スーッと消える音。

千晶「う、うーん。……うわ! 久しぶりにすっきり起きれた!」

場面転換。

テレビの音が鳴っている。

千晶「あ、そろそろ種飲んで寝よっと」

種を飲んで、テレビを消し、布団に入る千晶。

名も無き悪霊「ふふふふ。今夜こそ、恐怖で眠らせないわよ……」

千晶「すーすー」

名も無き悪霊「起きなさい!」

場面転換。

スズメが鳴く声。

名も無き悪霊(N)「今日もダメだった」

スーッと消える悪霊。

千晶「んー! 今日もいい朝!」

場面転換。

風呂から出てくる千晶。

千晶「ふう。いい湯でした。やっぱり、テニスした後のお風呂は格別ね。……でも、眠くなっちゃうのよねー」

髪を拭いて、乾かす千晶。

千晶「ふわああ。もう11時か。ふふ。すっかり健康的な生活になったわね」

布団の中に入る千晶。

千晶「おやすみなさい」

名も無き悪霊「待ちなさい! まだ寝ないで! こっからなんだから! 起きてー!」

千晶「すーすー」

場面転換。

インターフォンが鳴り、ドアを開ける千晶。

除霊師「あれからどうですか?」

千晶「ありがとうございます! 全然、悪霊が出なくなりました!」

名も無き悪霊(N)「違う……。いる。いるのよ。あんたが気付かないだけ……」

千晶「あ、最近、結界の種を飲むのを忘れてて……」

除霊師「いいんです、いいんです。飲まないに越したことはないので。とにかく、今の生活を続けるようにしてください」

千晶「わかりました」

場面転換。

名も無き悪霊(N)「それから、この女は私が活動する時間になると寝て、私の活動時間が終わる頃に起きるという生活になった。あの除霊師が来てから、一度もこの女をビビらせていない……」

千晶「さてと、もう寝ようかな。お休みなさい」

布団に入る千晶。

名も無き悪霊(N)「面白くない。……次の人間を探そう」

名も無き悪霊が部屋から出ていく。

終わり。

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