■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
倖田 恵理那(こうだ えりな)
高橋 悠真(たかはし ゆうま)
倖田 隆司(こうだ たかし)
看護師1~2
記者
■台本
バチスタ手術をしている恵理那。
看護師「……先生?」
恵理那「大丈夫です。……もう少し待ってください」
ピッピッピと心電図の音が響く。
看護師「心臓、動き出しました!」
恵理那「ふう……」
そのとき、ドアが開く。
隆志「恵理那、ご苦労様」
恵理那「……あ、お父さん。じゃあ、あとはよろしく」
恵理那が部屋から出ていく。
隆志「よし、じゃあ、縫合するぞ」
場面転換。
病院のホール内に、マスコミが群がっている。
記者1「院長、今回のバチスタ手術、かなり難しいものと聞きましたが?」
隆志「ええ。患者の心臓が奇形だったので、かなり苦労しました。ですが、そこは経験と技術でカバーいたしました」
歓声と、カメラのシャッターの音。
それを看護師たちが遠くから眺めている。
看護師1「あの……院長が入ってくる前に、手術してた子って、誰なんですか?」
看護師2「うーん。まあ、色々と憶測があるんだけど、噂じゃ、院長の娘さんらしいわよ」
看護師1「ええ! 確か、院長の娘さんって……」
看護師2「うん。高校生」
看護師1「……医師免許は?」
看護師2「もちろん、ないわよね」
看護師1「いいんですか?」
看護師2「ダメに決まってるじゃない」
看護師1「……だから、詳細を伏せてるんですね」
看護師2「まあ、そうね」
場面転換。
学校内。放課後の教室。
恵理那「……うーん」
悠真「なにやってんだ、倖田?」
恵理那「あ、高橋くん。えっと、刺繍だよ」
悠真「……なんで、そんなことしてるんだ?」
恵理那「ほら、もうすぐ学園祭でしょ? 私、美術部だから、刺繍の展示やるんだよね」
悠真「……展示、しない方がいいんじゃないか?」
恵理那「どういうこと?」
悠真「いや、別に……」
恵理那「あー、もう! 縫い方、わかんない!」
悠真「お前、恐ろしく不器用だな」
恵理那「うっさいわね。それより、高橋君はなんでいるのよ?」
悠真「……俺のクラスに、俺がいたらマズいか?」
恵理那「いや、そうじゃなくて、いつも授業終わったら、すぐ帰るじゃん。放課後までいるなんて珍しいなって」
悠真「今、家の近くで工事しててさ。うるさくて練習できねーんだよ」
恵理那「ああ。高橋君、バイオリニストになるのが夢なんだっけ?」
悠真「夢じゃねえよ」
恵理那「え?」
悠真「絶対になってやるんだ。夢っていうより目標だよ」
恵理那「ふーん」
悠真「ってことで、この時間なら教室、誰もいないと思ったんだけどな」
恵理那「……邪魔ってこと?」
悠真「あー、いや……そういうわけじゃ」
恵理那「いいわよ。別に弾いてても」
悠真「すまんな。コンクール近くて、少しでも練習しておきたいんだ」
恵理那「……凄いな」
悠真「なにがだ?」
恵理那「まだ高校生なのに、夢……じゃなくて、目標か。とにかく、なりたいものがあるなんてさ」
悠真「倖田はないのか?」
恵理那「うん。別にないかな」
悠真「……なんか、得意なものとかないのか?」
恵理那「んー。あるっちゃあるけど、それになりたいってわけじゃないんだよね」
悠真「ふーん」
恵理那「興味なさそうね」
悠真「ぶっちゃけないかな」
恵理那「あっそ」
悠真「じゃあ、すまんが、練習させてもらうぞ」
恵理那「どーぞ」
悠真がバイオリンを弾き始める。
場面転換。
悠真と恵理那が歩いている。
悠真「すっかり暗くなっちまったな」
恵理那「高橋君が練習に夢中になるから」
悠真「別に先、帰ってていいって言っただろ?」
恵理那「生でバイオリンの演奏聞ける機会なんてそうそうないから、つい、聞き言っちゃったのよ」
悠真「……そういってもらえると、ちょっと嬉しい……かな」
恵理那「今度、また聞かせてよ」
悠真「高いぞ」
恵理那「金取るのっ!?」
悠真「プロだから」
恵理那「いや、プロじゃないでしょ」
悠真「ははは」
そのとき、暴走車が突っ込んでくる。
恵理那「きゃあ!」
悠真「倖田、危ない!」
ブレーキ音と衝突音が響く。
恵理那「高橋君!」
悠真「うああああああああ!」
恵理那「大丈夫? しっかりして」
悠真「お、俺の腕……俺の腕が……」
恵理那「……」
悠真「腕の感覚がないんだ……。俺の腕、もう……ダメなのか?」
恵理那「……大丈夫。何とかする」
恵理那が携帯を出して電話を掛ける。
恵理那「あ、お父さん? すぐに手術室使えるようにして」
場面転換。
手術室。
恵理那「ではこれより、腕の接合手術を開始します。よろしくお願いいたします」
看護師1「よろしくお願いいたします」
場面転換。
手術をする恵理那。
恵理那「……」
看護師1「すごい、集中力……」
看護師2「あんたが、集中力切らせてどうするの」
看護師1「あ、ごめんなさい」
場面転換。
恵理那「……縫合、完了しました」
看護師1「早い」
看護師2「それに、完璧」
恵理那「……あとは、お願いします」
恵理那が部屋を出ていく。
場面転換。
放課後の教室内。
恵理那「うーん……」
悠真「相変わらず、不器用だな」
恵理那「あ、高橋君。腕、大丈夫なの?」
悠真「ああ。おかげさまでな」
恵理那「あのさ、このことは……」
悠真「言わねえよ。……恩人に仇で返すわけないだろ」
恵理那「よかった。……でも、その……コンクールに出れなくて残念だったね」
悠真「別に。コンクールは一階だけじゃないし、そもそも、二度と弾けなくなってもおかしくなかったんだ。それから考えれば、このくらいなんでもねーよ」
恵理那「そう……」
悠真「……貸せよ」
恵理那「え?」
悠真「刺繍。得意だから教えてやるよ」
恵理那「ホントに? ……でも、腕、大丈夫?」
悠真「リハビリだよリハビリ」
恵理那「じゃあ、お願いしようかな」
場面転換。
悠真「だーかーら! 違うって、こうだよこう!」
恵理那「えっと、こう?」
悠真「違うって!」
恵理那「じゃあ、こう?」
悠真「……お前、なんで、そんなに不器用なんだよ!」
恵理那「そ、そんなこと言われても」
悠真「……俺の腕を手術したの、ホントにお前か? 夢だった気がしてくるぞ」
恵理那「ひっどいー!」
悠真「はははははは」
恵理那「ははははは」
終わり。